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米鉄鋼大手USスチールのデービッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は、日本製鉄による買収が不成立なら、製鉄所を閉鎖することになり、本社をピッツバーグから移転する可能性も高いと米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)とのインタビューで語った。 

WSJによると、ブリット氏はインタビューで、日鉄はUSスチールの老朽化した製鉄所に約30億ドル(約4300億円)の投資を約束しており、それが競争力を保ち雇用を維持する上で欠かせないと指摘。「日鉄買収が不成立に終わるなら、それは実現されない。その資金がないからだ」と述べたという。 

『日本経済新聞 電子版』(8月29日付)は、「日鉄、1800億円投資発表 USスチール製鉄所2カ所に」と題する記事を掲載した。 

日本製鉄は8月29日、買収計画中の米鉄鋼大手USスチールの製鉄所への追加の投資計画を発表した。USスチールの高炉一貫製鉄所の2カ所に計13億ドル(約1870億円)を投じる。中長期的な投資継続を公表して買収計画に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)などを懐柔する狙いとみられる。

 

(1)「具体的にはペンシルベニア州のモンバレー製鉄所では製鉄の熱延設備の新設または補修に少なくとも10億ドルを投資し、同製鉄所を数十年以上稼働する計画だとした。インディアナ州のゲイリー製鉄所では約3億ドルを投資して第14高炉を改修し、同高炉の稼働を今後さらに20年ほど延長するとしている。日鉄は2024年3月にUSスチールへの14億ドルの投資を発表していたが具体的な投資先は明かしていなかった。今回の計13億ドルの投資の一部は従来の発表分と重なる見込みだ」 

日鉄は、中国撤退を明確にした。米政界が、日鉄と中国との関係を疑ったからだ。それどころか、日鉄はUSスチールへ13億ドルの投資を行うと発表した。これは、米国でも高く評価されている。日鉄が、米国鉄鋼業を支援するからだ。 

USスチールには、13億ドルもの投資を行う余裕がないとしている。日鉄の合併がご破算になれば、工場閉鎖もやむを得ないとしている。

 

『日本経済新聞 電子版』(9月4日付)は、「日本製鉄『取締役の過半は米国籍に』、米社買収後の方針」と題する記事を掲載した。 

日本製鉄は4日、米鉄鋼大手USスチールを買収した後の同社のガバナンス(企業統治)方針を発表した。取締役の過半を米国籍とする。2日には米民主党大統領候補のハリス副大統領が買収計画に慎重な姿勢を示していた。日鉄は具体的な方針を示すことで買収への賛同を求める狙い。 

(2)「買収後のガバナンス方針として、USスチールの取締役の過半数は米国籍とすること、取締役は少なくとも3人の米国籍の社外取締役を含むこと、経営の中枢メンバーは米国籍とすることを新たに公表した。通商対策として、米国籍の委員で構成する「通商委員会」を設置して、取締役会に助言する体制とする。同時に米国の鉄鋼市場についてUSスチールの米国での生産を優先するとした。日鉄の日本拠点からの競合品の輸出を優先することはないと改めて示した」 

日鉄は、USスチールを合併しても過半数は米国籍とすること、取締役は少なくとも3人の米国籍の社外取締役を含むことなどを明らかにした。米政界が危惧するような事態が起こらないことを繰返し明らかにしている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月4日付)は、日鉄のUSスチール買収反対は最悪の愚策」と題する社説を掲載した。 

ジョー・バイデン米大統領にカマラ・ハリス副大統領、ドナルド・トランプ前大統領とJD・バンス氏が、今回の大統領選でこれまでのところ最も間抜けな経済政策で一致していることは、腐り切った政治の時代を象徴している。彼らは皆、日本製鉄がUSスチールを141億ドル(約2兆0580億円)で買収することに反対している。 

(3)「米国の国益を念頭に置く政治家であれば、米製造業の強化が期待される日本製鉄による買収を歓迎するだろう。同社は、ピッツバーグに本社を置くUSスチールの老朽化した工場の改修に27億ドルを投じることを約束した。また、全米鉄鋼労組(USW)との労働協約を尊重することにも同意している。それにもかかわらず、USWはこの取引を阻止するよう政権に働きかけている。USスチールと同じくユニオンショップ制(従業員の組合加入を一定期間義務付ける協定)のクリーブランド・クリフスによる買収を好ましく思っているためだ。USWは、トランプ前政権およびバイデン政権下の25%の鉄鋼関税によって、競争から保護された国内カルテルを作ることを望んでいる」 

USWは、日鉄とUSスチールの合併を阻止して、25%の鉄鋼関税による国内カルテルを狙っていると指摘している。

 

(4)「クリーブランド・クリフスとUSスチールが合併すれば、米高炉生産の100%、電気自動車(EV)のモーターに使用される国内鋼材の100%、車両に使用されるその他の国産鋼材の65~90%を支配することになるため、価格を引き上げようとする市場支配力が大きくなる。反トラスト(独占禁止)法違反を指摘すべきリナ・カーン米連邦取引委員会(FTC)委員長は、出番が期待されるときに何をしているのだろうか」 

米鉄鋼業界トップのクリーブランドは、USスチールとの合併を狙っている。だが、独禁法で両社の合併は不可能のはずだ。米連邦取引委員会は、何をしているのかと批判している。日鉄とUSスチールとの合併は、独禁法上の問題が何一つないのだ。 

(5)「クリーブランド・クリフスのゴンカルベス氏は、米政府が日本製鉄による買収を阻止すれば、同社の提示額を45%下回る水準の買収案を提示するつもりだと豪語している。それが、労働者の利益になるとは思わない方がいい。クリーブランド・クリフスは今年4月にウェストバージニア州の工場を閉鎖し、従業員900人を解雇している」 

クリーブランド・クリフスは、日鉄とUSスチールとの合併を阻止して、USスチールを安値で買収しようと企んでいる。この謀略を阻止せよと指摘している。