a0005_000131_m
   

困った隣国が現れたものだ。中国は、アジアの軍事覇権を確立すべく、日本の防衛能力に探りを入れている。最近は、意図的に領空侵犯を行い日本の反応をみたのだ。中国にとって日本は「目の上のたんこぶ」である。日清戦争で大敗したことがトラウマになっており、日本への雪辱に燃えている。中国が、尖閣列島で執拗なまでの領海侵犯を続けている背景は、国内向けのジェスチャーである。「強い中国」を演出しているが、危ない振る舞いだ。いつ、「実戦」へ移行するか分らない不気味さを抱えている。 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月11日付)は、「太平洋での米国の重要な第1防衛線」と題する寄稿を掲載した。筆者のジョン・ボルトン氏は、2018~19年に米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、2005~06年に米国連大使を務めた。 

中国が最近行った日本の領空・領海への侵入は、インド太平洋地域の国々を威嚇して支配しようとする中国政府の取り組みを著しくエスカレートさせている。これに対して日本政府は、こうした侵犯行為に対する検知能力を強化するため、数千億円規模の衛星網整備計画を発表した。中国の「漁船」は過去に、日本・台湾・中国が領有権を主張している尖閣諸島周辺を定期的に航行した。その後、中国の海警局船や軍用艦船が現れるようになり、中国政府の強硬姿勢が強まった。

 

(1)「中国の海洋進出はエスカレートしているが、同国はそれ以前から台湾の領空・領海に侵入し、南シナ海の大半の領有権を主張していた。係争中の島や浅瀬、岩礁を巡る中国海軍とフィリピンとの衝突は大きく報じられた。ベトナムなどの国も頻繁に中国の挑発を受けている。これらはいずれも偶然の出来事ではない。中国政府は間違いなく第1列島線の支配権を勝ち取ろうとしている。このさまざまに表現されてきた地勢図は、カムチャッカ半島から千島列島、日本、尖閣諸島を経て台湾、フィリピン、そしてボルネオ島とマレー半島にまで至る。米国の次の大統領は、中国のこうした好戦姿勢から導かれる戦略的な結果に向き合わざるを得なくなるだろう」 

中国は、カムチャッカ半島・千島列島・日本・尖閣諸島を経て台湾・フィリピン、そしてボルネオ島とマレー半島を「国防圏」としている。戦時中の日本が、「絶対国防圏」していた模倣である。中国は、前記の地域を支配下に収めようとしている。思い上がった振る舞いだ。その経済力が消えつつあるにもかかわらず、野望だけが残っている。 

(2)「中国が第1列島線に沿った全域で圧力をかけている中で、その影響を受けている日本や台湾などの国・地域と米国との現行の2者間協力は、明らかに不十分になっている。標的となっている国・地域でそうした取り組みが行われなければ、中国にとって第1列島線のどこかに情報網や防衛網の継ぎ目を見つけることは、はるかに簡単になる。中国が第1列島線を1カ所でも突破すれば、この線上や太平洋にある他の国々がより大きな危険にさらされることになる。各国・地域の領空・領海の保全には多国間協力、特に日本、韓国、台湾、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドの空・海軍と情報機関の協力が必要であることを米政府は認識すべきだ。利害関係の大きさを考えれば、他のアジア・太平洋諸国や、英国など欧州の重要な同盟国を巻き込むことが極めて重要かもしれない」 

中国は、日本がなぜ太平洋戦争で敗れたかという教訓生かしていない。やたらと広い地域へ圧力をかければ、これら国々が結束して対抗することを忘れている。清が、周辺地域を併合した時代背景と現代とでは異なるのだ。

 

(3)「そうした協力に、北大西洋条約機構(NATO)の東アジア版の創設や、中国を封じ込める決断の受け入れは必要ない。少なくとも今の段階では、だ。それでもなお、第1列島線に沿って、早急に複数の国と地域で、より断固たる対応を取ることが必要だ。幾つかの分野では既に多国間協力が行われているが、もっとなされなければ、中国が他の国・地域を互いに対立させ、周辺で好戦的な活動の調整をし、自国の利益を推し進めようとするだろう」 

日本がリードしたインド太平洋戦略は、中国の野望を食止める上では重要な防波堤になる。これを砦にして、米国・日本・豪州・フィリピン・台湾が共同歩調を取ることだ。 

(4)「誰も触れたがらないが、極めて重要な場所は台湾だ。台湾を失えば、中国に脅かされている他の国・地域が、平和を乱す中国の行動を効果的に排除できる可能性はほとんどなくなる。現在の状況下で米国の支援を求めているのは台湾ではなく、台湾と同じくらい支援を必要としているこの地域の国々だ。ダグラス・マッカーサーが「沈むことのない空母」と評した台湾の実質的支配権を中国に渡してしまえば、第1列島線が決定的に突き破られることになる。ましてや、中国が台湾を併合すれば、こうした状況は一層深刻になる。台湾を巡るジレンマについて、中国をいら立たせる対応はいろいろある。しかし、中国が政治的危機を起こす決意を固めない限り(その場合はそれ自体が敵対的意図の表明となるが)、こちらからあえて危機を誘発する必要はない」 

台湾は、民主主義の防衛の要である。ここを失えば、中国は太平洋を支配下に収めるべく、米国の権益を奪うにちがいない。米国にとっても死活的な問題になろう。米国の世界覇権は、著しく低下する運命だ。

 

(5)「中国は、アジア太平洋諸国に対する影響力を強化し、情報収集の取り組みを拡大するとともに、領空・領海への侵入を増やすだろう。侵入のペースと範囲を決めるのは同国政府であり、そのことは中国の標的となっている国々が協力を強化する必要性を明確にする。それだけでも抑止力を高める効果を持つが、われわれには時間を無駄にする余裕はない」 

現状は、中国が米国覇権へ挑戦する準備期である。日に日に衰える、自国経済力の低下に焦りながら「一か八か」の大勝負に出るか。自重するか。アジアの諸国が結束することで、中国への抑止力を高めるほかない。