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グローバル企業の多くが、投資先として中国の優先順位を引き下げ、事業を整理統合している。主な理由は景気減速と利益率の低下である。先週発表された在中国欧州連合(EU)商工会議所と在上海米国商工会議所による二つの報告書は、こうした先行き不安な投資動向を浮き彫りにした。中国は、もはや「世界の工場」の地位を失い始めた。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月16日付)は、「外資の中国離れ鮮明、投資意欲が後退」と題する記事を掲載した。

 

在上海米国商工会議所の鄭芸(エリック・ジャン)会頭は、「中国でビジネスを行うリスクはここ数年で高まり、それと同時に市場が減速している」と、こう述べた。同会議所のアンケート調査によると、本社の最重要投資先が中国だと答えた企業の割合は、25年前に年次調査が始まってから最も低い水準に落ち込んだ。

 

(1)中国も既に気づいている。上海市政府は8月、最も切迫した経済課題の一つは「フルーツチェーン」(果物のサプライチェーン)の空洞化だと述べた。これは米アップルが、一部の電子機器の生産拠点をインドやベトナムなどに分散する動きを指す。こうした決断を後押しするのは、長引く経済の低迷に加え、国内競争の激化、地政学的緊張、アジアの代替生産地が台頭していることだ。欧米の商工会議所によると、もはや中国市場の利益率が他市場を上回るわけではないという」

 

中国撤退の象徴的な事例は、アップルが、一部の電子機器の生産拠点をインドやベトナムなどに分散していることだ。アップルが、生産拠点の分散を始めたことは、地政学的リスクの重視である。

 

(2)「米小売り大手ウォルマートは先月、8年前から保有していた中国電子商取引大手、京東商城(JDドットコム)の株式を36億ドル(約5100億円)で売却した。米IBMは中国にある研究開発拠点を閉鎖することを決め、1000人余りの雇用に影響する見通しだ。自動車メーカー各社は中国事業の縮小を進めている。今や乗用車市場の6割近くを中国車が占めるからだ。中国で販売される新車は、今夏の時点で大半が電気自動車(EV)かプラグインハイブリッド車(PHV)となっており、外国自動車メーカーが長く優位を保ってきた純粋なガソリン車ではない」

 

米ウォルマートは、京東商城(JDドットコム)の株式を売却した。株価の上昇が見込めなくなったからだ。

 

(3)「日本のホンダは最近、中国3工場を一時稼働停止にしたほか、希望退職を通じた人員削減も進めている。ホンダの中国での4~6月期新車販売台数は、前年同期比32%減の20万9000台にとどまった。2023年の中国に対する外国直接投資(FDI)は人民元ベースで前年比8%減少した。国連のデータによると、中国よりはるかに人口が少ないインドネシアは「グリーンフィールド投資」を呼び込んだ額で上回っている。グリーンフィールド投資とは、新しい施設を一から作り上げることを指す」

 

中国自動車市場は、政府補助金を得た地元企業が、大乱売合戦を続けている。外資系企業もこれに巻き込まるほどだ。中国よりも人口の少ないインドネシアは、外資系企業が投資を盛んに行っている。地政学リスクのないことが投資を促進させている。

 

(4)「もちろん、大半の企業は中国から完全に撤退するわけではない。大多数は既存事業を継続させようとしており、中には、中国の技術を常に把握していれば自らの競争優位を磨くことに役立つと話す企業もある。ウォルマートは、会員制倉庫型店舗「サムズクラブ」の中国での出店数を増やしている。EU商工会議所が5月に実施した年次調査では、15%の企業が中国を最重要投資先だと答えた。そう答える企業は長年にわたり20%前後だった。米国商工会議所が実施した別の調査では、回答した企業306社のうち約20%が今年は中国への投資を減らすと答えた。景気減速への懸念や、インドやベトナムなどに投資を振り向ける動きを理由に挙げた」

 

ウォルマートは、会員制倉庫型店舗「サムズクラブ」の中国での出店数を増やしている。低販売合戦で勝てる見込みがあるのだろう。

 

(5)「多国籍企業は10~20年前に、豊富な安い労働力と人口14億人が秘める購買力に引かれ、中国に大挙して押し寄せた。内需が回復すれば、中国は多国籍企業の投資先の優先順位でトップに返り咲くだろう、と在上海米国商工会議所のアラン・ガボール会長は言う。「それは経済の問題だ。需要サイドの要因がより大きい。企業は中国のために中国にいる」と指摘する」

 

中国は内需が回復すれば、多国籍企業の投資先として復活するだろう。問題は、その可能性があるかだ。習氏の経済政策が、転換しない限り不可能である。