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中国各地で最近、一気に広まった流行語があるという。「鉄の鍋をたたき壊し、くず鉄にして売ろう」というものだ。ありったけのものを投げ出して、物事に対処することを意味する熟語が、隠れた政治スローガンとして使われ始めたというのだ。中国経済が、危機的状況に追込まれている実状を余すところなく示している。

 

『日本経済新聞 電子版』(9月18日付)は、「中国で地方が謎の悲鳴、『鍋を壊し鉄売れ』に潜む破綻」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙編集委員の中沢克二氏である。

 

中国の家庭で長年、もっとも大事にされてきた道具は何か。それは、ほぼ全ての料理づくりに不可欠な鉄製の大きな中華鍋。これをたたき壊すというなら、三度の飯さえ我慢せよ、という号令にも聞こえる。食の国、中国は今、容易ならざる緊急事態に陥っている。

 

(1)「中国の緊急事態とはいったい何を指すのか。「鉄の鍋をたたき壊し……」が流行語になったきっかけは、インターネット上に広く出回った地方の公式文書とされる画像だった。中国南西部の大都市、重慶市内にある区の政府が出したものだという。そこには「『鉄の鍋をたたき壊し、くず鉄にして売ろう』工作専門チームを立ち上げる」とある。具体的な人選も示されていた。任務は、全力で地方債務リスクを軽減・解決することだ。平たく言えば、財政的な破綻を避けるための資金捻出である。資産の処分や有効活用、コスト削減、隠れた収入発見、企業からの新たな徴収などで財源を捻出できれば、さしあたり債務返済や金利支払いに充てることができる。いわば応急措置だ」

 

中国の地方政府には、もはや現金化できるものがないことを示している。頼りの土地売却益は大幅減である。「土地本位制」(学術用語ではない)が崩れ去った後の寂寥とした事態を的確に言い表されている。

 

(2)「一部地方の実質的な破綻を如実に示すのが、地方政府や関係する公営施設の職員、医療従事者らへの給与・賞与などの支払い遅延、大幅減額だ。なかには給与が一切、支払われなくなり、民間への転職を余儀なくされる悲惨な例もある。「(給与・賞与の)減額、不払いのケースは、北京に近い、ある省内でもみられる。それでも民間に転職できるならまだよい。実態はかなり厳しい」。仕事柄、中国と外国を頻繁に行き来する人物らは、身近な例から現状を説明する」

 

公務員の給料遅配はざらに起こっているという。民間へ転職できるのは恵まれた方で、それすらチャンスがない状態だ。

 

(3)「地方政府の財政収入は、相当部分、土地に頼ってきた。国有地の使用権を住宅・不動産開発業者、企業家に高値で売った収入が、立派すぎる公共施設、道路などを建設するインフラ投資や、急速にアップした公務員給与・賞与の原資になっていたのだ。地方財政の土地依存の割合はまちまちだが、少ない場合でも3割、多い例では7割を超していた。財政収入を支えてきた30〜70%もの部分が、使えなくなれば、何が起きるのか明白だ」

 

財政収入を支えてきた30〜70%もの部分が、バブル崩壊で跡形もなく消えてしまっている。日本の平成バブル崩壊とはレベルが異なる。日本の行政組織は、微動だにせず機能した。疲弊したのは、民間企業であったのだ。中国経済を待っているのは、地方政府「破綻」による需要減である。

 

(4)「この問題は、一部の地方政府にとどまらない。中国の地方政界事情に通じる人物は「(中国)各地で指導者らが『鉄の鍋をたたき壊し、くず鉄にして売ろう』を、窮状を示す比喩として口にしている。それが一部で文書にもなった。中央は、うれしくないだろう」と説明する。とはいえ、中国メディアによると、この地方政府による発信の源は、中央政府にある。昨年、国務院弁公庁が発した政策文献に「鉄の鍋をたたき壊し、くず鉄にして売ろう」という表現がみられたという」

 

中央政府も、地方政府疲弊の影響が及ぶ。地方財政支援で財政赤字が膨らむからだ。

 

(5)「全力で地方債務リスクを軽減・解決すべきとされる緊急事態の対象は、先に例に挙げた重慶だけではない。天津、内蒙古、遼寧、吉林、黒竜江、広西、貴州、雲南、甘粛、青海、寧夏なども含まれるとされる。地方政府は、中央が安易に発した表現を逆手にとって、今、あえて大きな悲鳴を上げ始めた。このままではどうにもならない。庶民が持つ鉄の鍋まで没収して壊し、財源を捻出するしかない。そうでなければ破綻する。そんな含意も感じ取れる」

 

地方政府が、悲鳴を上げているのは「ポーズ」ではない。実態を示している。土地売却益の急減によって、地方行政が機能しない事態に追込まれている。現実を甘くみてはいけないのだ。