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中国で日本人が狙われている。中国の王毅外相は「偶発的事件」としてうやむやに処理する積もりかも知れないが、外国人の安全を守れないとは、国家として最大の恥辱であろう。1900年、清朝末期に「義和団」が外国人を襲撃し国際的事件に発展した。国内の不満が爆発したものだ。日本人襲撃は、国内の経済的不満が政府の反日宣伝に重なって起こったものとみられる。もし違うならば、事件捜査の全貌を公開すべきであろう。

 

『日本経済新聞 電子版』(9月29日付)は、「『弱くなる中国』こそ脅威」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙編集委員の高橋哲史氏である。

 

中国で暮らす外国人には必ず通らなければならない「儀式」がある。地元の公安局に赴き、居留許可を取る手続きだ。かつては常に長蛇の列ができていた。とにかく待たされる。ほぼ1日がかりの苦行である。

 

(1)「私も北京に赴任した2007年秋に経験した。数時間並んでようやく窓口にたどり着き、無愛想な警察官からいくつも質問を受ける。疲れといら立ちが募り、どんな内容だったかは覚えていない。ただ、向こうが口にした最後のひと言だけはいまも耳に残っている。「安心してください。われわれはメンツをかけて外国人の安全を守りますから。名誉、あるいは世間体、体面といった日本語にあたるだろうか。「面子(メンツ)」ほど中国人が大切にするものはない」

 

中国社会は、自分より実力のある者には「へりくだる」。だが、実力の劣るとみた相手には「傲慢」に振る舞う国である。現在の「戦狼外交」は、傲慢になっている証拠だ。国内は、この傲慢と経済疲弊が重なり合った複雑な心理状態が渦巻いているのであろう。

 

(2)「当時、中国は高度成長のまっただ中だった。北京五輪を翌年に控え、猛烈な勢いで日米欧に追いつこうとしていた。外から見て恥ずかしくない国にしたい。そのためにも外国人を危険にさらすわけにはいかない。生活にゆとりができ、これからは外国と対等に向き合っていけるという自信が社会にみなぎっていた。あのときのメンツはどこに行ったのだろうか。広東省深圳の日本人学校に通う10歳の男児が、中国人の男に刺されて亡くなる痛ましい事件が起きた。中国の当局は何をしていたのかと憤りを覚える。6月にも江蘇省蘇州で日本人の母子が刺され、児童らを守ろうとした中国人の女性が亡くなったばかりだ。同様の事件を防げなかった当局の責任は重い」

 

日本人の被害は、今回のほかに6月にも起こっている。中国政府は、この間に有力な再発防止策を取らなかった結果が、今回の事件を引き起したとみられる。

 

(3)「信じがたかったのは王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相の発言だ。「偶発的な個別事案だ」。メンツを捨て、開き直ったようにしか聞こえない。中国経済は深刻な不動産不況を背景に、かつてない苦境にある。多くの人は生活に余裕がなくなり、将来に不安を抱く。やり場のない怒りが「外国人」に向きやすくなっているのは間違いない」

 

中国は、日本に頭を下げたくないのだ。だから、「偶発的な個別事案だ」などと言っているにちがいない。

 

(4)「一つの国家が衰退期に入ると、しばしば排外主義が芽ばえるのは歴史の教訓だ。中国では清朝末期の1900年に起きた義和団の乱が典型だろう。崩壊寸前だった清朝の下で経済はにっちもさっちもいかなくなった。外国人排斥を掲げる義和団はたちまち人々の心をつかみ、北京で各国の公使館を襲った。そんな歴史をどこまでわかっているのだろうか。蘇州で日本人の母子が襲われた直後、中国のSNSに「現代の義和団成立」という書き込みがあると報じられた。背筋が凍った。「日本人学校はスパイ養成機関」といったあり得ない情報もネット上に流れている。今回の事件を引き起こす一因になった可能性は否定できない」

 

外国人を襲うのは、特別な理由があるだろう。排外主義という理屈によって行動しているはずだ。現在の中国は、経済が極度に不振である。失業者の群れができている中で、鬱積した不満を外国人へ向けてくる。清朝末期の義和団を想起するほかない。

 

(5)「それなのに習近平政権はそうした誹謗中傷を放置してきた。人々の不満のはけ口に外国人排斥の機運を利用したのではないかと疑われても仕方がない。習国家主席の1強体制は盤石にみえる。しかし、それは国家を統治する能力とは別だ。経済の低迷で暮らしが行き詰まれば、人々は共産党への不信を募らせる。習政権が不満の目をそらすために反スパイ法を強化し、外国人への憎悪をあおっているとすれば危うい。「強くなる中国」に備える時代は終わった。「弱くなる中国」の脅威にどう向き合うか。自民党総裁選に勝利し、次の首相になる石破茂氏が直面する日本の死活的な問題である」

 

これからは、「弱くなる中国」が日本へいろいろと災難をもたらすだろう。「日中友好」が終わって、「日本敵視」が始まる事態は、なんとしても防がなければならない。どうするか。中国政府へ厳重抗議するほかない。内密に済ます時代は終わった。