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10月1日発表の日銀「9月短観」では、景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた業況判断指数で、大企業の小売りや宿泊・飲食サービスの改善が目立った。賃上げやインバウンド(訪日外国人)の増加を下支えに、国内消費が持ち直しの兆しをみせている。賃金・物価の好循環が継続していることが確認された。

 

これまで、物価高が消費で節約志向の一因となってきたが、実質賃金がプラスに転じて「一安心」という感じだ。宿泊や小売り販売は堅調に推移する。

 

『ロイター』(10月1日付)は、「非製造業は価格転嫁で景況感改善 賃金・物価の好循環継続=9月日銀短観」と題する記事を掲載した。

 

日銀が1日発表した9月短観では、大企業・製造業の業況判断指数(DI)が前回から変わらない一方で、非製造業はプラス34で2期ぶりに小幅に改善した。価格転嫁の進展が業況感を押し上げた。企業の物価見通しは2%台で維持され、人手不足感が極めて強い状況も継続。日銀が目指す賃金・物価の好循環が続いているとの指摘が出ている。

 

(1)「大企業・製造業のDIはプラス13で、ロイターがまとめた予測中央値に一致した。先行きDIはプラス14で、予測中央値プラス12を上回った。海外経済の伸び悩み懸念の一方で、IT需要や自動車生産の回復に期待する声が聞かれたという。非製造業DIは予測中央値プラス32を上回った」

 

DIとは、「プラス」から「マイナス」を差し引いた単純な数だが、この中に総合的な現状判断をもたらしてくれる。大企業・製造業の9月DIはプラス13。12月DIはプラス14で増加基調だ。9月の大企業・非製造業DIは、プラス34であった。12月DIはプラス28と減少基調だが、高水準での減少にすぎない。

 

(2)「事業計画の前提となる想定為替レート(全規模・全産業)は2024年度通期で1ドル=145.15円と、6月調査の144.77円から円安方向に修正された。8月上旬以降、外為市場では円高に振れたが、上期としては企業にとって想定以上の円安になったことで、通期の想定レートを円安方向で見直すことにつながったとみられる」

 

為替相場は、2024年度通期で1ドル=145.15円である。現在の円相場は、この想定範囲内にある。日本経済新聞の「主要100社」では、1ドル135円を想定している。

 

(3)「大企業・全産業の24年度の設備投資計画は前年度比10.6%増。過去平均は上回った。企業の物価見通し(全規模・全産業)は1年後が前年比プラス2.4%で変わらず。3年後と5年後も2%台前半で前回と同じだった。円安修正に伴う原材料価格の上昇一服で、大企業や中小企業の製造業では1年後の販売価格の見通しが0.1%ポイント下方修正されたが、大企業・製造業の1年後の販売価格見通しは現状対比プラス2.2%、中小企業・製造業ではプラス3.3%で高い水準をキープした」

 

設備投資計画は、前年度比10.6%増で過去平均は上回った。確実な賃上げを行うには、設備投資をして生産性を上昇させるという「正攻法」を取る必要がある。これによって、賃上げ→設備投資→賃上げという好循環をつくり挙げる原動力が形成できる。

 

(4)「雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は業種・規模を問わず大幅な人員不足が継続。大企業・製造業はマイナス19でコロナ禍前のボトムだった18年12月調査に並んだほか、中小企業・非製造業はマイナス47で過去最低を記録した」

 

労働力不足が顕著である。これが、賃上げによる人材確保を促進する。さらに、設備投資を行うというサイクルを描くのだ。好循環の継続である。

 

(5)「みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストは、「企業の期待インフレの高止まり、人手不足感の深刻化等を踏まえ、賃金・物価の上昇モメンタムは継続していると日銀は評価するのではないか」と指摘した。ただ、企業の想定為替レートを上回る円高が継続し、1ドル=130円台まで円高が進展していけば「収益計画が下振れ、来年の賃上げ率の鈍化につながる可能性が高い」とする。酒井氏は現時点で来年の賃上げ率は4.3%程度と、例年対比では高水準ながら今年を下回るとみている」

 

円高が、企業の想定為替レートを上回って継続し、1ドル=130円台まで進展すれば、来年の賃上げ率の鈍化につながる可能性が高いとしている。この見方は正しいだろうか。円高による交易条件改善効果が、「実質所得」引上げるという、見えないところでのプラス効果があるのだ。むやみに、円高進行を恐れることはない。現状は、未だその域にまで行っていないのだ。