あじさいのたまご
   


米国大統領選まで、あと1ヶ月余となった。トランプ氏が、経済政策でリードしているとされるが、関税率引上げによってインフレ再燃が確実とみられる。ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストは、すでに「トランプ氏が大統領に当選し上下両院も制する、もしくは片方でも実現した場合、関税率引上げと移民規制の厳格化が、経済成長率を引下げると試算しているほど。このシナリオに基づくGDPへの打撃は、来年4~6月(第2四半期)に0.5%ポイントで天井を打ち、2026年にはその影響が薄れていくと予想している。 

ハリス副大統領が大統領に当選し、かつ民主党が上下両院を制覇した場合では「新たな財政支出と中間所得層の税控除拡大による影響は、法人税率引き上げによる投資減少の影響を小幅に上回る」とゴールドマンが予測。「GDP成長率の平均値を25年から26年にかけてわずかに押し上げる」としている。以上は、『ブルームバーグ』(9月4日付)が報じた。

 

『フィナンシャルタイムズ』(9月23日付)は、「トランプノミクス、米経済の劇薬 成長阻害する恐れも」と題する記事を掲載した。 

大統領再選への選挙運動を開始して以来、トランプ氏は米国の生活費の危機をめぐりバイデン政権を責め立ててきた。アリゾナでは物議を醸す共和党の新たな減税策を示した。残業代やチップ、社会保障給付を非課税とすることや、個人と企業に対する広範な大幅減税が盛り込まれている。だが、この演説ではそれよりはるかにポピュリズム(大衆迎合主義)色の強い経済政策も打ち出した。一般労働者と国内製造業の利益の守り手というイメージを押し出す狙いだ。 

(1)「トランプ氏が、「マガノミクス」(マガ=MAGAは「米国を再び偉大に」の英語の頭文字)と呼ぶ政策の主柱は、とりわけ中国など世界各国からの輸入品に対する強力な関税と厳格な移民の取り締まりだ。選挙運動では、金融政策と通貨ドルに対して政治の影響力を強めることも訴えている。大統領候補としてのトランプ氏の発言に関しては、計画、大言、駆け引き材料のうちのどれであるのかを見分けることは必ずしも容易ではない。だが、エコノミストは政治的な立ち位置を問わず、トランプ氏の構想は2017〜21年の大統領時代の政策をはるかに先鋭化させるものだとの見方で一致している

 

トランプ氏の構想は、2017〜21年の大統領時代の政策をはるかに先鋭化させるものだとの見方で一致している。関税率引上げと、移民規制で労働力不足が顕著になれば、インフレ経済になるのは必至である。誰にでも分る理屈である。 

(2)「トランプ氏が当選して実際に計画を遂行すれば、米国の経済と世界との関係が根本的に変わることになる。共和党内で、このポピュリズム政策を最も強く支持する一人が副大統領候補のJD・バンス上院議員だ。「安手の模倣品のトースターを100万台輸入できても、米国製造業の1人の雇用の費用に値しないと信じている」と同氏は7月の選挙集会で語っている。だが批判派は、そうした政策は米経済に大きなダメージを与え、中国と競争する米国のためにならないと警鐘を鳴らしている」 

大統領候補のJD・バンス氏は、安手の模倣品のトースターを100万台輸入阻止しても物価問題は起こらないとしているが、これは大間違いである。中国製トースターの品質がよくなっているからだ。

 

(3)「ドナルド・トランプが公約の半分でも実行すれば、米経済に大混乱と後退をもたらす結果になる」。こう話すのはオバマ政権期にホワイトハウスのエコノミストを務め、現在は米ハーバード大学教授のジェイソン・ファーマン氏だ。「中国に対してこちらの手札で最も大きいのは、非常に関係がうまくいっている国々のブロック内にいるということだ。そうした国々に対して関税をかければ、その関係が引き裂かれる」 

トランプ氏が公約のうち、関税率引上げか移民抑制のどちらか一つでも実行しただけで、供給不足が起こる。トランプ氏は、国内製造業の活性化を目指し、事実上全ての輸入品に一律で10~20%の関税を課すとともに、中国製品については60%以上の関税をかける方針を示している。 

(4)「インフレに対する批判が痛手となっている民主党側はすぐさま、トランプ氏が掲げる政策は物価のさらなる上昇を引き起こし、米経済に打撃を及ぼすと反論している。

ハリス氏は大統領候補討論会で、「16人のノーベル経済学賞受賞者がトランプ氏の経済政策はインフレを加速させ、25年半ばまでに景気後退を引き起こすと指摘している」と主張した。トランプ氏の支持者からも、そうした攻撃的な保護主義の姿勢が米国にもたらす国際的影響を懸念する声が出ている」 

トランプ氏は労働者の支持を得たいばかりに、奇想天外なことを言い出している。超過激主義だ。

 

(5)「過去1世紀にわたり先進国が導入してきた経済モデルの多くの側面を覆そうとしていることがマガノミクスの核心だ。実現すれば、政府歳入の大半を国民の所得と企業の利益に対する課税より、貿易関税に依存していた時代に、逆戻りすることになる。「トランプ氏は明らかに、米国の税制における収入源の配分を根本的に変えようと考えている。その延長線上で、米国の貿易と貿易相手国との関係に対する考え方も」。こう指摘するのはバイデン大統領の経済諮問委員会(CEA)の元スタッフで、現在は米エール大学バジェット・ラボの経済学部長を務めるアーニー・テデスキ氏だ。「これは19世紀の手口で、20世紀はそうではなくなった。21世紀は言うに及ばずだ」 

米国は、所得税や法人税よりも、関税収入が多くなる異常な財政構造になる。米国経済が破綻するだけでなく、世界経済が破壊される事態を招くのだ。誰が、トランプ氏の思い込みを是正するのか。