批判エコノミスト追放
追加国債2兆元の限界
ぐらつく強国建設基盤
共産党の宿命明らかに
中国経済の現況は、端的に「製造業PMI(購買担当者景気指数)」に現れている。9月のPMIも、基準値50を下回った。製造業活動が相変わらず不振だ。2023年4月以降、50を上回ったのは、わずか3回にとどまる。実に、18ヶ月間で15ヶ月が「水面下」に没している。
習近平中国国家主席が、こうした状態に対して行った対策は「小手先」のものばかりだ。住宅ローン金利を引下げる程度に終わった。習氏が、力を入れたのは「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)の輸出強行作戦である。堂々とダンピング輸出を行わせ、世界市場を混乱させてきた。この輸出戦略も頭打ちである。前記の製造業PMIでは、海外からの受注が5ヶ月連続で50を割り込む事態である。「三種の神器」戦略が、限界にぶつかったのだ。
習氏は、輸出ダンピング戦術のメッキが剥げ落ちた結果、ようやく内需刺激策へ回帰してきた。李強首相が9月29日の国務院会議で、新しい漸進的経済政を「適時」検討すると表明した。同時に、これまで発言したこともないような内容が付け加わった。「コンセンサスと信頼構築に向けあらゆる方面の意見に耳を傾ける」としたのだ。これは、驚きである。習氏が、力づくで異論を排除してきたからだ。
批判エコノミスト追放
これまで、習近平氏の主張に対して異説を唱えることはタブーであった。これを冒した有名なエコノミストが、失職する例まで出ている。政府シンクタンクである中国社会科学院経済研究所で、10年にわたり副所長を務めてきた朱恒鵬氏だ。55歳になる朱氏は、SNS(交流サイト)アプリ「微信(ウィーチャット)」上の私的なグループチャットで無礼とされるような発言を複数回行ったとされる。朱氏は、今春に拘束され解任されたという。
朱氏のコメントには、低迷する中国経済に関する発言や、習氏個人を暗に批判する内容もあったと関係者の1人が述べているという。『ウォール・ストリート・ジャーナル』が伝えた。前記の李首相発言では、コンセンサスと信頼構築に向けあらゆる方面の意見に耳を傾ける、としている。朱氏を復帰させる度量があるのかどうか。その本気度が問われる。
中国の景気対策は、第二次世界大戦中のフランスが対独戦術で築いた「マジノ線」に喩えると、簡単に景気の実勢悪で乗り越えられている。「三種の神器」戦術の限界もその一つだが、大規模な財政出動なしにマジノ線を守れないところまで追い詰められている。中国にとって、最後のマジノ線死守(史実では突破された)には、不動産バブル崩壊による不良債権処理へメドを付けることだ。これによって、家計資産の8割を占める住宅価値が、値下がりストップをかけられるだろう。
習氏は、この分りきった対策を回避し続けている。習氏の政治責任にされることを忌避している結果だ。逃げ道として、新規住宅ローンの金利を引下げるほかに、既存の住宅ローン金利引下げ策まで打ち出している。だが、後述のように市民は住宅価格の先行きを悲観している。ローン金利引下げは、銀行負担をふやすだけである。細っている銀行利ざやがさらに押下げられる。今度は、銀行が経営危機に遭遇する事態だ。こうして、不動産バブル崩壊の「ツケ」から逃れられない局面に陥ったのだ。習氏に、この認識が希薄である。
中国人民銀行の調査によると、次の四半期に「不動産価格が上昇すると思う」と答えた都市部の住民は、わずか11%(調査開始以降で最低)にとどまった。一方、23%(調査開始以降で最高)は、「価格がさらに下落する」と答えている。消費者は、依然として住宅値下がりに警戒感を強めている状況だ。
中国の「マジノ線」は、ジリジリと後退を余儀なくされている。これが、市民の不安を増幅させている。失業や賃下げ、長時間労働という苦境に放り込まれているのだ。政府は、こういう不平不満心理を外部に向けさせるべく排外主義を煽っている。「反スパイ法」は、その最たるケースである。国民の2人に1台の監視カメラを配置している中国が、あえてこの防諜法を制定した目的は、国民の不満を外に向けさせる戦術であろう。
日本が、中国の排外主義の標的にされている。福島原発処理水放出をあえて「汚水」と呼んで日本への反感を煽っている。具体的には、日本海産物輸入禁止という暴挙に出ている。これが、日常の反日感情を先鋭化させているのだ。SNSで横行している反日投書が、「日本人憎し」という極論を生む背景をつくった。このおぞましい結末は今年6月、日本人小学校のスクールバスを襲った事件や、9月の学童刺殺事件という痛ましい事態に現れている。これこそ、中国が長期不況へ追い込まれて起こった社会的混乱の前兆であろう。
追加国債2兆元の限界
中国政府は、9月最後の週に約2兆元(約40兆円)相当の特別国債を発行する予定と、報じられている。この数日前に、中国人民銀行(中央銀行)が大幅な利下げを含む金融緩和措置を発表した。これによって9月26日、上海株式市場は約3カ月ぶりに心理的節目とされる3000台を回復した。(つづく)
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