中国は、スタートアップ企業に対するベンチャーキャピタル(VC)の投資が急減している。これを受け、中国政府が国内テクノロジー産業の育成にも深く関与する姿勢を示している。中国は、西側の技術に追い付こうとしているが、こうした戦略が長期的に障害となる可能性がある。
中国では、国有資産の損失が犯罪とみなされる。最高7年の禁錮刑に処される恐れがあるのだ。政府系ファンドの幹部は、投資損失を出せば職を失いかねないリスクに直面している。これでは、本来のスタートアップ企業が育たないのだ。融資する側が、リスクもある「危ない橋」を渡ろうとしなければ、新興企業は成長チャンスを失う。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月7日付)は、「中国のテック新興企業、VC投資急減は政府が穴埋め 重要産業への国家資金投入の成果はまちまち」と題する記事を掲載した。
新型コロナウイルス流行前には、米国からの資金など民間VC投資が中国のテックブームを後押しした。ところが、投資家の間で中国経済に対する楽観論が後退し、地政学的緊張を敬遠する姿勢が強まったことで、こうした投資は枯渇した。創業初期の企業に対するVC投資は約10年ぶりの低水準に落ち込んでいる。
(1)「調査会社ディールロジックによると、中国向けの国外・国内VCファンドの年初来(10月上旬まで)投資額は約64億ドル(約9400億円)で、前年同期比40%減となった。外国人投資家は2018~22年に年平均で約140億ドルを投資していたが、昨年と今年はほとんど投資していない。こうした結果、中国政府はさまざまな方法で企業の資金調達への関与を強めており、中国のテック業界における国家の存在はさらに大きくなっている。投資家によると、政府系ファンドは現在テック新興企業への投資の大半を占めており、国家が支援するインキュベーターの数は増加している」
海外投資家は、中国向けVC投資から撤退した。中国政府が、この穴埋めをしているが、質的に大きな違いがある。リスクを取らないのだ。これでは、新興企業は育たない。
(2)「国有銀行を中心に中国の銀行は、政府の要請を受けてスタートアップへの融資を強化している。スタートアップは大型融資の要件となる伝統的な担保を持たないことが多く、中国の銀行はこれまで支援を避ける傾向にあった。最近は特許や商標を担保として受け入れる中国の銀行が増えており、融資にも踏み切りやすくなっている。中国国家知識産権局によると、知的財産権を担保としたこうした融資は2023年に国内で1170億ドルに達し、3年間で毎年40%以上増加した。今年上半期は前年同期比57%増加した」
中国政府は、新興企業の知的財産権を担保として融資している。だが、特許の価値を理解できないという難点がある。中国企業が、やたらと特許を出す裏に、担保にして融資を受ける狙いが込められている。
(3)「戦略コンサルティング会社アジア・グループの中国カントリーディレクター、ハン・シェン・リン氏は、政府からの資金は安定した資本であり、民間部門が現在提供できる額を上回ることが多いと話す。その上で、「政府機関はテクノロジーの『勝者』を見極める能力をほとんど持っていないことが課題になっている」と指摘する。投資家によると、政府系ファンドは損失に対する許容度が低い上、中国がイノベーションの壁を打ち破る上で必要な、壮大な目標を追求する新興企業への支援をためらう傾向が強い。その代わり、比較的安全な投資先に資金を振り向けがちだという」
中国には、技術の「目利き」がいないという。そこで、イノベーションの壁を打ち破るような独創技術への融資がためらわれる例が多い。米国VCであれば、的確に評価できる問題である。
(4)「国家による深い関与が人工知能(AI)分野における進歩を遅らせる可能性は以前からあった。AI新興企業は言論の自由に関する中国政府の規制に従わなければならないためだ。調査会社ガベカル・ドラゴノミクスは最近のリポートで、中国のテック企業に対する外国資金の枯渇に伴い「イノベーションにおける中国の優位性が大きく損なわれるリスクがある」と指摘した。GSRベンチャーズのパートナー、デービッド・イン氏は、「多くの資金が米国に戻った」と指摘する」
外国VC資金の枯渇に伴い、中国のイノベーションにおける優位性が、大きく損なわれるリスクが生まれている。これは、重大な損失である。
(5)「中国の政府系ファンドは、雇用拡大や他の政府目標との整合性維持など、民間投資家やスタートアップとは異なる優先事項を持つことが多い。さらに、こうしたファンドは一般的に投資期間が短く、損失に対する許容度がはるかに低い。中国では国有資産の損失は犯罪とみなされ、最高7年の禁錮刑に処される恐れがある。政府系ファンドの幹部は、投資損失を出せば職を失いかねない。政府絡みの投資では、投資保護の観点から企業の創業者に融資の個人保証を求めるといった条件が付けられることもある」
中国政府系ファンドは、リスク許容範囲が狭く、融資担当者は損失が出た場合罰せられるケースもある。これでは、本来の意味でのベンチャー企業は成長できないであろう。


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