米EV(電気自動車)大手のテスラがロボタクシー(自動運転タクシー)車両を発表する予定である。米国時間で10月10日の午後7時ごろ(日本時間11日11時)の見込みだ。マスク氏は16年に最初のテスラ量産車である「モデル3」を発表して以来、同社にとって最も重要な瞬間になるだろうと述べてきた。その瞬間が、目前にきた。
マスク氏は、これまで繰り返し自動運転車の完成は近いと述べてきたが、発表は延び延びになっていた。それでも投資家はここ数カ月、実際に完成したかそれに近い製品を期待して株価を押し上げてきた。投資家の期待に応えるためには、自動運転車の分野で業界をリードするアルファベット傘下ウェイモを上回るような信頼性の高い計画を示す必要がある。『ブルームバーグ』は、こう期待感を述べる。
『ブルームバーグ』(10月10付)は、「マスク氏、ロボタクシーにテスラの未来託すー販売減速し課題山積も」と題する記事を掲載した。
テスラのイベント「ウィー、ロボット(We, Robot)」はロサンゼルス近郊のワーナー・ブラザース・ディスカバリーの映画スタジオで現地時間午後7時(日本時間11日午前11時)に開かれる。ウォール街のアナリストや多くの著名インフルエンサーらが招待されている。
(1)「テスラが技術上のブレークスルーを実現できたとしても、ロボタクシーの発売には規制当局の承認が必要となる。テスラがワーナー・ブラザーズのスタジオの私道でロボタクシーを披露すると決めたことは注目に値する。カリフォルニア州で自動運転車による商業旅客サービスを提供するには州当局の許可が必要だが、テスラはまだ申請していない。この点でテスラのライバル企業は先行している」
テスラのロボタクシーは、公道での実験すら申請していない。その意味では、「構想段階」である。ライバル企業の方が先行している。話題づくり段階である。
(2)「テスラが、サイバーキャブを実用化するには人工知能(AI)分野で大きな進歩を遂げる必要がある。テスラ車のオーナーは、これまで「FSD(フルセルフドライビング)」と呼ばれる自動運転支援システムに多額の対価を支払ってきた。しかし、同システムは運転手が常に監視する必要があり、車両を自律走行させるものではない。事情に詳しい関係者2人が匿名で明らかにしたところでは、マスク氏は同イベントでテスラの電動トラック「セミ」向けFSDの開発計画や、FSDの貨物輸送への活用に関する自身の考えを話す見込み。ただ、FSDを実装したセミのデモ走行は行われないという」
テスラ車の購入者は、これまで「自動運転支援システム」(FSD)に多額の対価を支払ってきたが、未だ無人運転の段階に達していない。
(3)「マスク氏は、自身が望んでいるロボタクシーのサービスについて、ライドシェアのウーバー・テクノロジーズと民泊仲介のエアビーアンドビーを合わせたようなものと説明している。テスラ車の個人オーナーは自分が乗っていない時、車をロボタクシーとして他の利用者に提供することができる。需要に応じて専用ロボットタクシーが補うことになる」
下線部分は、今後の夢を語っただけでこれを実現する手段を提供していない。今回の発表で、それが可能なのか、である。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月7日付)は、「ロボタクシー、車両だけでは成り立たず」と題する記事を掲載した。
ロボタクシーに、運転手は要らないかもしれない。だが乗客は必要で、それもたくさん必要だ。費用のかかる無人タクシーの採算性を確保するには、一定の利用者が必要である。
(4)「ロボタクシーは運転手に支払う給与を節約できるが、それ自体が安くない。バーンスタインのアナリストの推計では、ウェイモの自動運転車は1台15~20万ドルする。これには車両のほか、走行に必要なセンサーや情報処理能力の費用も含まれる。さらに自動運転車はほぼ常時稼働し、その間コストが発生する。一方、運転手付きの車両群は需要に応じて数を調整でき、乗客を乗せていない時はコストが発生しない。完全自動運転車のネットワークは固定費が高いことから、「初期費用と非ピーク時の稼働率に関して、採算の点で疑問が生じる」。バーンスタインのアナリストは先月のリポートでこう指摘した」
ウェイモは現在、自動運転タクシー「ウェイモ・ワン」を、アリゾナ州フェニックス・カリフォルニア州ロサンゼルス/サンフランシスコにて商業運用中。もうすぐに、テキサス州オースティンでもサービスを開始する。ウェイモの自動運転車は、1台15~20万ドルもすると言われる。固定費が莫大である。
(5)「実用的なロボタクシーの車両群を公道で運用するのは、車両自体の技術を完成させるよりハードルが高い。UBSのアナリスト、ジョセフ・スパック氏によると、テスラはロサンゼルスのイベントでロボタクシーを公開する予定であるにもかかわらず、カリフォルニア州で運転手が同乗せずに試験走行するための認可を取得していない。同氏は先月のリポートで、「テスラがロボタクシーの大規模展開を向こう数年以内に実現する可能性は低いとみている」と述べた。ウーバーと提携先のロボタクシー関連企業には、まだ十分時間があるということかもしれない」
テスラが、ロボタクシーの大規模展開を向こう数年以内に実現する可能性は低いようである。その前段の準備作業が、まったく進んでいないからだ。現状は、話題づくり先行のようにみえる。
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