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興味深い比例票の動向

自民票の流出先は国民

政策面で一致点増える

外交・安保も歩み寄り

 

衆院総選挙は、自民党が大敗した。議席数で191議席へ減って、過半数を大きく割込んだ。与党の絶対多数が崩れたので、次期首相指名が波乱含みである。ただ、野党が結束して立憲民主党代表を支持していないので、石破首相の続投の公算が強まっている。 

野党が一致して立憲民主党野田代表を推せないのは、野党が保守系から革新系までとバラバラであることだ。2009年総選挙では、野党7党は「反自民」で大同団結し連合政権を樹立したが、結局は3年間で瓦解した。主導権争いが激しかったのだ。こうした痛ましい経験が、今なお国民の間に共有されている。自民党へ、政治とカネの問題で強烈な批判を浴びせても、経済や外交の政策では継続性を保たなければ最終的に国民へ被害が及ぶ。こういうことを熟知している有権者は、立憲民主党を大勝させなかのであろう。 

毎年、首相が替わるという事態は最高度の国家危機を表している。日本を取巻く安全保障情勢は、緊迫の度を加えているからだ。中ロの海軍や空軍が、共同で日本列島を一周する威嚇を加えている時代だ。北朝鮮による核やミサイル実験の常態化をみると、政治の不安定化が「日本弱し」というイメージを対外的に発し危機を招くのだ。日本の有権者は、こうした事態を回避すべく、今回の総選挙は次善の選択をした。

 

興味深い比例票の動向

このように判断されるのは、各党別の全国比例票の動向にそれが、顕著にみられるからだ。小選挙区は1人だけの当選者である。1票でも多い候補者が当選するシステムだ。こういう固有の状況でなく、全国の比例票の動向みることで各党の消長関係が一目で分る。次に、その実態をみておきたい。

 

     衆  院  選  比  例  票

    2009年   2021年   2024年  21年比増減

自民党 1881万   1991万   1458万  533万減

立憲党 2984万(注)1149万   1156万    7万増

国民党          259万    617万  358万増

公明党  805万    711万    596万  115万減

維 新          805万    596万  209万減

れいわ          221万    380万  159万増

共産党  494万    416万    336万   80万減

保守党                  114万

参政党                  187万

注:2009年は民主党で立憲と国民はその後に分裂した。

 

政権交代した2009年の総選挙では、民主党が比例票全体の42%を獲得した。自民党は26%、公明党は11%であった。当時の雰囲気は、全国的に自民党批判が強く民主党が圧倒的な強みを発揮した。だが、後に内紛を引き起し、外交政策では基地問題で日米関係を損ねる大失態を演じた。民主党はこうして、3年間の政権担当で幕を閉じた。このときの混乱ぶりが、国民に強烈な印象を残している。 

今回の衆院選比例票では、自民党が533万票(27%)も減らした。この減った分は、どの政党が吸収したのか行方が分れば、今後の政権運営のカギを握っている政党名が漠然と分るであろう。この謎解きをすれば、次のような結果が得られる。 

1)政党別でもっとも得票数を増やしたのは、国民民主党で358万票増である。2.38倍である。これは、後で取り上げる公約で自民党と近いことで裏付けられよう。有権者は、自民党に代わるべき政党として投票したと推測できる。 

2)立憲民主党は、わずか7万票増に過ぎなかった。0.6%増である。野田代表は「政権交代選挙」と訴えたが、比例票ではほぼ横ばいであった。公約では、原発で「原則廃止」としている。これが、ブレーキになった。 

3)維新は、209万票の減少である。党内での不祥事がガバナビリティイの欠如を露呈したのでないかと評価を落とした。 

4)共産党は、「政治とカネ」問題を告発する機縁になったが、80万票も減っている。20%減だ。実は、与党の公明党も16%減だ。この両党は、支持者の高齢化が理由とみられる。共産党の場合、日米安保に批判的なことが、新たな支持者を得られなかった背景とみられる。 

5)保守党と参政党は、合計で301万票を獲得した。自民党よりもさらに保守的である。これが、自民党の受け皿になったのであろう。国民民主の358万票増と保守党の114万票を足すと、472万票になる。自民党減少票の533万票の89%にもなる。 

自民票の流出先は国民

以上の分析によれば、自民党の比例票の大幅減は、政治路線的に全く異なる政党へ流れたものでないことがハッキリしている。このことは有権者が、自民党の政策を大筋で認めていたと言えよう。前述の各党別比例票の増減に、これが浮き彫りとなっている。最大の自民批判理由は、「裏金づくり」へ向けられていた。自民党の減った票は、中間領域の政党で止まり「反自民」が明白な政党へ流れなかったのだ。

 

ネットを活用するのは若者層である。そこでも顕著な特色は、不人気の自民党と、高い支持の国民民主党に分かれたという。共同通信社による出口調査では、若い世代の投票行動が一転した。出口調査データを2021年と今回を比べると、これまで自民党に投票する傾向があった若年層が、新たな選択肢の政党へ流れている。比例代表で、与党から逃げた票が保守的野党勢力へ分散したことを裏付けている。(つづく)

 

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