習氏の政策は、いかに気まぐれであるかを示したのが「共同富裕」論である。国民が豊かになれない理由として、学習塾で多額の経費のかかることを上げて禁止した。これによって、最大の被害を受けたのは大卒の学習塾教員だ。仕事が消えて失業者になったのだ。
中国は、学歴社会である。子どもは、競って学習塾へ通っていたが,突然の禁止令でパニックへ。そこで、「アングラ家庭教師」熱が高まり、かえって費用増に見舞われる事態へ。こうして学習塾再開希望が高まっていた。政府は、秘かに再開へ「ゴーサイン」を出したという。
『ロイター』(11月3日付)は、「中国政府 学習塾規制を水面下で緩和 就職難の大卒者の受け皿に」と題する記事を掲載した。
中国は低迷する経済の活性化を図るため、営利目的の学習塾に対する規制をひそかに緩和しており、3年前の政府による取り締まりで深刻な打撃を受けた業界に復活の兆しが現われている。ロイターでは業界関係者、アナリストらに取材し、データを確認した。
(1)「2021年以降、「双減」(二重削減)政策と呼ばれる政府の規制により、学校教育の主要科目における営利目的の学習塾事業が禁止された。生徒の学習負担と親の経済的負担を緩和するのが狙いだ。規制により、新東方教育科技集団や好未来(TALエデュケーション・グループ)など民間教育企業の時価総額は数十億ドルも減少し、数万人が職を失った。規制以前には、中国における営利目的での学習塾産業は市場規模にして約1000億ドルと評価され、最大手3社は17万人を超える雇用を生み出していた。だが、この業界は回復力を見せた。中国の教育システムでは非常に競争が激しく親は、子どもの学習を支えてくれる学習指導サービスを求め続けていたからだ」
学習塾は、17万人を超える雇用を生み出していた。それが、習氏による「鶴の一声」で禁止である。独裁社会のすさまじさを見せつけている。
(3)「中国南部で暮らすリーさんは、数学の個別指導や英語のオンラインレッスンなど、息子と娘が受ける課外指導のために月3000元(約6万4000円)を払っている。リーさんはロイターに対し、2021年以降に比べて、ここ数カ月は学習塾も以前より大っぴらに営業するようになっていると語った。「あの政策が始まった頃は、学習塾は少し脅えているように感じられた。授業中はカーテンを閉めるなど、隠れて営業しているようだった」とリーさんは言う。「でも、今ではもうそんなことはやっていないようだ」と指摘」
学習塾禁止令が出た後も、秘かにアングラで開かれていたという。これが、中国式の「上に政策あれば下に対策あり」(「上有政策、下有対策」)という抜け穴探しを始める。
(4)「プレッシャーのきつい中国の教育環境で、自分の子どもが落ちこぼれないようにするために、親としては学校以外の教育機関に頼る以外に選択肢はほとんどないとリーさんは語った。子どもの勉強を手伝おうとして「自分の手には負えないと感じた」と言う。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の代議員であるリュー・シヤ氏は、重慶を本拠とする教育企業グループの社長を務める。3月の教育省の記者会見で地元メディアに対し、教育政策における「難題」は徐々に解消されつつあると語った」
学習塾を取り締まる側の役人が、「良い家庭教師を斡旋してくれ」と言った笑い話が拡散されたほど。学習塾を取り締まる側も、子どもを抱えて困っていたのだ。習氏に、「殿、ご乱心」と戒める人はいないのだ。気の鎮まるのを待つほかないとは、まさに悲劇である。
(5)「ある大手民間教育企業で規制対応を担当する幹部2人は、ロイターの取材に対し、政府の規制緩和に向けた動きはここ数カ月で加速していると述べた。特に注目すべきは、中国の内閣にあたる国務院が8月の決定において、政府による景気てこ入れの重要な柱である消費拡大に向けた20項目の計画に「教育関連サービス」を盛り込んだことだ」
学習塾は現在、消費拡大への有力手段として認知されたという。かつては、生計費圧迫を理由に禁止された。180度の変わりようだ。
(6)「1100万人以上の大卒者が国内の労働市場に流れ込む時期でもあり、この動きは教育関連の上場企業の株価を押し上げた。この発表に先立って、2月には学校外で許容される学習指導の区分について教育省が指針案を示したほか、昨年には主要科目以外の指導を行う許可を受けている企業をオンラインで確認できる「ホワイトリスト」が導入されている。教育企業幹部の1人は、取り締まりが始まった頃のピーク時に比べて、最近では学習塾に対する地方当局による調査もかなり減っていると話している」
すでに、教育関連の上場企業の株価が上がり始めている。「早耳筋」が買いへ動いているのだ。これが、緩和の何よりの証拠である。
(7)「取材に応じた教育企業幹部は2人とも、8月以降の当局の態度からは、学習塾業界は引き続き厳しく規制されるが、主要な教育課程についての指導に対する制限を事業者が順守する限り、公正かつ合法的に事業を展開する可能性は高まってきたことがうかがえると述べた。コンサルタント企業オリバー・ワイマンでアジア教育実務部門を率いるクラウディア・ワン氏は中国政府について、質の低い事業者を排除した上で、「非常に高い」若年層失業率の解消に教育産業が貢献するよう期待していると話す」
中国政府は、若年層失業率の解消に教育産業が貢献するように期待しているという。何という変わり方であるか。これが、共産主義社会の実態である。
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