a0070_000030_m
   

11月3日は、憲法公布78年に当る。戦後の荒廃の中で「不戦の誓い」を立てて新憲法を制定した。天皇は象徴へかわり、憲法9条で戦争放棄を誓った。当時は、当然のことと思われていたが、世界の主権国で自衛権を放棄している国はほかにない。となると、新憲法での「戦争放棄」とは何を意味するのか。 

日本社会が、この謎を解けないままに左右対立を繰返し、無為な78年が過ぎた。日本国憲法は、集団安全保障という前提の下で成立している。米国憲法と同じスタンスだ。これを認識すれば、戦争放棄が日本単独で戦争しない意味であることに気付き、戦争放棄の謎解きができるであろう。一方では、集団安全保障になれば他国の戦争に巻き込まれるという懸念も生まれる。だが、これは「保険機能」である。戦争抑制機能を果すもので、日本防衛に役立つものだ。 

憲法改正は、国会が衆参の各議院で総議員の3分の2以上の賛成を得て発議し、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、過半数の賛成を必要とする。こうした厳しい条件が付けられたのは、軽々に憲法改正ができないように歯止めを設けたものだ。今回の衆院選で自民党は過半数割れである。健康改正は、遠のいた。 

衆議院の3分の2が、310議席である。自民(191)、公明(24)、維新(38)国民(28)で合計287にすぎない。とうてい、3分の2には達しないのだ。 

『読売新聞オンライン』(11月3日付)は、「改憲勢力が衆院の3分の2割り込み 改憲機運の後退必至 日本国憲法公布78年」と題する記事を掲載した。 

日本国憲法は3日、公布から78年を迎えた。衆院選では自民、公明両党が大幅に議席を減らし、憲法改正に前向きな改憲勢力が、国会発議に必要な総定数の「3分の2」を割り込んだ。石破首相(自民党総裁)は来年の自民結党70年にあわせた発議に意欲を示すが、改憲機運の後退は避けられない情勢だ。

 

(1)「首相は衆院選から一夜明けた10月28日の記者会見で、「来年、結党70年を控える中、党是である憲法改正を前に進めていく。与野党の枠を超え、3分の2以上の賛成が得られるよう、精力的に取り組む」と宣言した。ただ、衆院選の大敗で、道のりは険しさを増している。公示前には、改憲に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主各党と無所属会派の勢力は、衆院で総定数の3分の2(310議席)を上回る計334議席あった。今回、立憲民主党が議席を増やし、改憲勢力は285議席に減った。改憲を掲げて新たに議席を得た日本保守党(3議席)や、無所属で当選した旧安倍派議員らを足しても、3分の2には遠く及ばない」 

改憲の焦点は、自衛隊の明記や集団的自衛権の行使に関するものだ。自衛隊は、現実に存在して安保機能を果している。何時までも「隠し子」扱いは不可能である。集団的自衛権は、NATO(北大西洋条約機構)を見れば分るように、単独自衛権よりも機能的である。日米同盟は、すでに集団的自衛権の範疇に入っている。となれば、自衛隊の存在をうやむやにしておくよりも、解釈を統一すべきだろう。

 

(2)「立民の野田代表は11月1日の記者会見で、立民について「論憲の立場だ」と説明し、「議論の場があるなら、きちっと議論していきたいが、改正前提ではない」とけん制している。先の通常国会の衆院憲法審査会では、大規模災害時などに国会議員の任期延長を可能にする緊急事態条項の「骨格」となる論点整理案を自民が示し、公明、維新、国民の3党も条文案作成に賛同した。さらに自民の憲法改正実現本部は9月、岸田首相(当時)出席のもとで、緊急事態条項創設と自衛隊明記に対応するための論点整理をまとめた。参院でも改憲勢力が「3分の2」を維持している来年夏の参院選までの発議を念頭に、「取り組みを新総裁に引き継いでもらう」(岸田氏)狙いがあった」 

立民の「論憲」とはなにか。改正議論はするが、実行をしないという「日和見姿勢」である。立民が、今回の総選挙で比例票が微増にとどまった背景には、こうした憲法問題への逃げ姿勢が国民の信用を得られないのかも知れない。かつては3年間、政権を担ったのだ。有事が起こったとき、どのように対応する積もりなのか。

 

(3)「石破首相は就任後、取り組みを引き継ぐ考えを示し、10月4日の所信表明演説でも「首相に在任している間に発議を実現していただくべく、建設的な議論を期待する」と表明していた。だが、衆院選で自公両党が過半数割れの「少数与党」に陥り、改憲に注力することは難しくなりそうだ。予算案や法案を成立させるためには野党の協力が欠かせず、「綱渡り」の国会運営が続くためだ。自公は議席の減少に伴い、憲法審の委員も少なくなる見通しで、自公主導で改憲議論を推進することも困難となることが予想される」 

石破首相は、「少数与党」に陥って改憲に力を注ぐことは難しくなろう。こうなると、推進力を失ったままで宙ぶらりんが続く。 

(4)「もっとも、具体的な改憲項目を巡っては、自民や維新が積極的な自衛隊明記に対し、公明内では慎重意見が根強く、改憲勢力の中でも、足並みがそろっているとは言えない。自民の憲法族議員は「国会で改憲の話が進みにくくなれば、改憲に向けた党内の機運もしぼみかねない」と懸念している」 

自衛隊は、憲法へ明記もないままに、対GDP2%の防衛費を使う主体となる。「NATOアジア版」などと議論は進む。その「ご本尊」は、憲法上において明記されていないという奇妙な存在である。これが、正しいことだろうか。