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先の総選挙では、各党が申し合わせたように2020年代に、最低賃金1500円目標を掲げた。賃金引き上げが、日本経済立直しの条件という認識からだ。参考までに、党名を上げておく。自民党、公明党、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党である。経済政策で、ここまで共通した目標を掲げたのも珍しい。それだけ、賃上げが購買力を増やすテコであると認めた結果であろう。こうした動きを日銀が歓迎している。最新版「経済リポート」(11月1日)で継続的な最低賃金引き上げが日本経済の底上げに繋がるという認識だ。 

『ロイター』(11月1日付)は「最低賃金引き上げ継続なら、サービス価格中心に物価押し上げ=日銀」と題する記事を掲載した。 

(1)「日銀が、11月1日に公表した『経済・物価情勢の展望』(展望リポート)の全文によると、最低賃金の引き上げが消費者物価指数(CPI)のサービス価格に与える影響を分析した結果、最低賃金の引き上げがサービス価格を有意に押し上げており、「今後、最低賃金の引き上げが継続すれば、サービス価格を中心に物価が押し上げられることが見込まれる」と指摘した」

 

最低賃金引上げは、全国各地の中小零細企業に当てはまる賃金引き上げ目標である。この末端企業での賃金引上げが実現すれば、日本経済全体が好循環過程に入るという認識である。日銀は、賃上げ分が価格引上げへ反映されれば、消費者物価が確実に2%上昇路線へ乗ると期待している。 

(2)「日銀は、展望リポートで賃金と物価の関係を分析した。今年度の最低賃金は前年比プラス5.1%で過去最高の伸びとなった。また、コロナ以降の物価上昇を要因ごとに分析した結果、主としてエネルギー価格や食料品などの輸入物価上昇の価格転嫁の影響で説明できる一方で、足元にかけてはそうした要因や需給環境などでは説明しきれない部分が押し上げに寄与していると指摘。企業の積極的な賃金設定行動が物価を押し上げていることが示唆されるとし、「今後も、過去の低インフレ期における平均的な関係性以上に賃金ショックが物価の上押しに作用していく」と述べた」 

今年度の最低賃金は、前年比プラス5.07%で過去最高の伸びとなった。前年比51円の上昇だ。日銀が、最低賃金引上げに注目しているのは、「エネルギー価格や食料品などの輸入物価上昇の価格転嫁の影響」で説明仕切れない価格上昇分が、最低賃金引上げによるものと推計しているからだ。日本にとって、消費者物価上昇が年率2%以上であるためには、最低賃金引上げも重要な支援材料とみている。こういう見方に対して、「最賃引上げナンセンス」といった趣の指摘があるので取り上げたい。

 

『東洋経済オンライン』(10月24日付)は、「衆院選で並ぶ『最低賃金1500円』公約 私たちが幸福になれない3つの問題」と題する記事を掲載した。筆者は、原田名古屋商科大学ビジネススクール教授)である。 

衆院選の各党公約で、最低賃金1500円が目立っている。賃上げが物価高に追いつかないことから、賃上げ加速の一つの手段として最低賃金(最賃)を上げようとしているのだろう。2020年代と5年以内は同じなので、自民党も公明党も5年以内に1500円にするということだ。 

(3)「2024年の全国平均の最賃は1054円だから、年に7.3%ずつ最賃を引き上げていくことになる。ここ10年、最賃は年に3%ずつしか上がっていないから今後はかなりの急ピッチで上げていくということだ。では、最賃を引き上げれば、すべての人の賃金が上がって皆が幸福になれるだろうか。第1には、賃金は上げたら雇用が減るかもしれない。各党がこれをどう考えているか分からないが、中小企業が最賃を上げては困ると盛んに陳情しているから、心配はしているようだ」

 

これまで、中小企業が最賃を上げては困ると盛んに陳情した結果、最賃の引上げ幅は抑えられてきた。それが、日本中で「低物価競争=コストカット競争」を招いてきた要因である。今や、正当な賃上げ分を販売価格へ反映させることが不可欠である。最賃を抑えることが、日本全体を「オール貧乏」に落とし込むこととなる。最近の最賃引上げ幅は、次の通りである。 

2022年度 31円 3.33%増

  23年度 43円 4.37%増

  24年度 51円 5.07%増

22年度以降は、ほぼ毎年度10円刻みの引上げになっている。この引上げ幅を25年以降も継続するとしよう。そうすると、2030年は24年比で累積400円の引上げになる。これは、2024年度の1055円が1455円になる計算だ。ほぼ、目標ラインに近くなる。 

(4)「第2は、年収の壁である。106万円、または130万円を超えると社会保険料を払わなければならなくなり、家計の手取り収入が減ってしまうという問題だ。最賃を引き上げると就労調整する人が増えて、かえって労働供給が減って人手不足が激化する。労働供給が減るのだから、もちろんGDPは増えない。税収も増えない」 

所得控除限度額は、最低賃金引上げに見合って引上げられる。これは現在、国会の最大注目点になっているのでかならず実現する。最賃引上げが、労働供給を妨げるとの極論は、現実性を持ち得ない「仮想」にすぎないことが理解できよう。