中国人にとって「爆買い」は、典型的な消費行動であった。それも、ついに姿を消した。長年の不況にならされて、富を誇示することが減ったのだ。代わって登場したのが、モノ離れし体験型旅行など、知識を増やす方向へ動いている。ますます、消費は低迷する構造へ落込んでいる。
『ブルームバーグ』(11月5日付)は、「中国で深まる高級ブランド市場の低迷、LVMH旗艦店まだ開かず」と題する記事を掲載した。
LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)は2023年6月に中国を視察した際、北京市内の5階建てビル建設用地を訪れた。同社のトップブランドであるルイヴィトンが24年前半に旗艦店をオープンする予定だった場所だ。それから1年余り過ぎた今も、建物はフェンスに囲まれている。
(1)「欧州の高級ブランドが、中国で直面する逆風を浮き彫りにしている。中国での需要は厳格な新型コロナ規制の解除後には回復すると見込まれていたが、実際には低迷している。今年3月以降、欧州の高級ブランド企業の株式時価総額は約2510億ドル(約38兆1500億円)吹き飛んだ。中国で高級ブランドの低迷が続く兆候は次々と現れている。エルメスの店舗では、超高級ハンドバッグ「バーキン」を購入するために満たす必要があるとされる購入実績の金額が引き下げられたという。内情を良く知る関係者が明らかにした。同社を象徴する商品であるバーキンでは異例の動きだという。ケリングやバーバリー・グループは在庫を一掃するため最大50%の値引きに踏み切っている」
超高級品の売行きが落込んでいる。これまでの「売り方主導」が、「買い方主導」へと変わったという。需要不足なのだ。
(2)「コンサルティング会社デジタル・ラグジュアリー・グループによると、24年に中国高級品市場は15%縮小する見通しとなっている。高級ブランドの販売不振は、中国経済が住宅危機からの回復に苦戦している中でのシクリカルな側面もある。しかし、欧州大手ブランドにとってさらに深刻な懸念は、需要に構造的な変化の兆しがあることだ。習近平国家主席が汚職撲滅や公平な所得分配を掲げる中、富の誇示は時代遅れになっただけでなく、危険も伴うようになった。中国の若い消費者の間では、ステータスシンボルよりも旅行などの体験に支出する傾向が強まっている」
高級品を身につける喜びよりも、旅行や体験などへ支出する喜びに変わっている。中国の需要構造が一変した。
(3)「仏高級品メーカー大手のケリングは今月、通期の利益が2016年以来の低水準に落ち込む見通しであることを明らかにした。同社利益の大半を占めるグッチの既存店売上高は7-9月(第3四半期)に前年同期比で25%減少した。LVMHの7-9月決算では、中国を含む地域の売上高が実質ベースで16%となった。スイス製腕時計の中国輸出額は9月には前年同月比で50%落ち込み、フィナンシエール・リシュモンやスウォッチ・グループには経営面での圧力がかかっている。米化粧品大手エスティローダーは先に、中国需要の弱さなどを理由に通期の業績ガイダンスを撤回した」
グッチの既存店売上高は、7~9月期に前年同期比で25%も減少した。スイス製腕時計の中国輸出額は、9月に前年同月比で50%もの落ち込みである。急激な減少だ。
(4)「一方で、いくつかのブランドは粘り強さを見せている。エルメスの7-9月(第3四半期)は中国を含む地域で売上高が1%増となった。市場予想(2.3%増)には届かなかったが、顧客に富裕層の多い同社は競合企業よりも堅調な業績を維持した。プラダの7-9月決算はアジア太平洋地域の売上高が12%増加した。姉妹ブランド「MiuMiu(ミュウミュウ)」の驚異的な成長を原動力に、プラダはZ世代の消費者を引きつけるのに成功している」
減少するブランド品の一方で、エルメスのように7~9月期に1%増と辛うじて減少を免れた商品もある。
(5)「中国経済が回復したとしても、消費者が以前のように高級品に価値を見出す可能性は小さいかもしれない。上海を拠点とする小売業コンサルティング会社、ブライター・ビューティーのジェシカ・グリーソンCEOは、「(向上心のある)中国人消費者はもはや、自分たちの喜びを定義するためや裕福であることを証明するためのブランドを必要としていない」と指摘。「自己投資、健康、娯楽体験への支出が優先されており、この傾向が逆転することはないだろう」と語った」
心ある中国人は、モノ離れを始めている。自己投資、健康、娯楽体験への支出を優先しているのだ。これが、ひろく認知されるようになれば、習氏の描く「共同富裕」社会へ進むのか。貧しさゆえの選択であろう。
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