中国から日本へ脱出してきた人たちが、22年から急増している。コロナの都市封鎖で、中国での生活に見切りを付けたもの。母国を捨てて異国へ生活拠点を移すのは、よほどの事情がない限り踏み切れるものではあるまい。現在の中国は、そういう切羽詰まった状況が充満しているのであろう。
『日本経済新聞 電子版』(11月6日付)は、「富裕層の“新・新華僑”が続々日本へ 移住後も日本社会に溶け込まず」と題する記事を掲載した。『日本のなかの中国』(中島恵著)から抜粋・再構成されたものである。
近年、来日した中国人を私は「新・新華僑」と位置づけ、ウォッチしてきた。横浜や神戸の中華街の中国人が「老華僑」、改革・開放後の80年代以降、日本に留学や就職でやってきた中国人が「新華僑」。では、22年以降に来日した彼らは、一体どのような生活を送っているのだろうか。
(1)中国で厳しいゼロコロナ政策が実施されたのは21~22年。22年3月から5月にかけて、上海でロックダウンが行われ、多くの中国人が苦しめられた。その最中から日本など海外に「潤」(=ルン:移住)する人が増えた。24年以降も、日本に移住する人が後を絶たず、富裕層や芸能人の「引っ越しパーティー」が続々と開かれている。日本でも、アリババ創業者のジャック・マー(馬雲)氏がボディーガードを引き連れて歩く姿は都内のあちこちで目撃されている」
日本が、安全な避難先になっている。盛大な「引っ越しパーティー」を開くとは、中国社会特有の派手さが滲んでいて興味深い。
(2)「彼らの中でも、とくに経済界、芸能界の人々は、日本に「潤」したことを公表していない。「中国が嫌で日本に逃げてきた」と中国政府に思われないように注意深く行動しており、メディアへの露出を極端に嫌う。都内の地下鉄駅のホームで写真を撮ってSNSに載せ、示唆はしているものの、まるで短期滞在の一般観光客のようにふるまっている。他の富裕層もそうだが、彼らは日本に拠点を持ってもじっとしておらず、しばしば中国や欧米などに出かけて、回遊魚のように生活している」
富裕層や芸能人は、日本へ移住したことを中国政府に知られないように、中国や欧米などを転々としているという。アリババ創業者のジャック・マー氏が、この回遊タイプであった。国を出ても気苦労がつきまとうのだ。
(3)「医師、弁護士は、日本では社会的地位も収入も高い仕事だが、中国ではそうではなく、むしろ逆だ。弁護士でも、国際業務ならばまだいいが、国内の企業法務などは報酬がかなり少ない。そういう人の中には、日本に移住し、弁護士事務所で中国関係の仕事をしたい、と考える人も増えているという」
中国の医師は、学校教師と並んで最低の賃金である。国民へ奉仕するという意味であろう。ただ、年金では厚遇されている。弁護士の給与も低いという。日本の弁護士は、高給取りである。中国人も法律関連の仕事につけば、それなりの待遇が得られるのであろう。
(4)「取材していて感じるのは、一部を除き、最近の移住者は日本に対する憧れや関心はあまり持っていないということだ。日本への一定の理解はあり、日本人に好意は持っているものの、これまで日本との接点はほとんどなかった。むろん、日本語もできない。そのため、努力して日本に溶け込みたいと考えているわけではない」
緊急避難で日本へ脱出してきた中国人は、日本社会へ溶け込もうという気持ちがないという。
(5)「あくまでも身の安全や資産のリスクヘッジなどのために、とりあえずの転居先として「近い、安い、治安がいい」、そして在日中国人も多く、協力者が身近にいて便利な日本を選んでいるに過ぎない。当然、友人はほとんど中国人だ。かつての中国人は、日本に来たら、日本社会に溶け込むよう努力したものだったが、今はそうではない。日本に来たら、まず日本の「中国人社会」に溶け込むのだ」
日本へ来ている「新・新華僑」は、在日中国人社会を頼っている。本来の「華僑」という意味ではない。
(6)「ある中国人から、「潤」してくる中国人の一部が「経営・管理ビザ」を不正に取得しているという話を聞いた。それは、「何が何でも中国から脱出したい」という目的の人が増えているということと関係する。その人はいう。「たとえば、中国人ブローカーを雇い、ダミー企業の登記簿や架空の事業計画書を用意させ、そこの社長となって『経営・管理ビザ』を出入国管理庁に申請する、などです。また、実態のない日本企業に在籍し、業務は行わないのに、そこで『技術・人文知識・国際業務』という別の就労ビザを不正取得するケースもあります。日本企業に就職する形をとれば、経営・管理ビザよりも初期投資が少なく、取得までのスピードも速いため、こうしたやり方をとる人がいるのです」
緊急避難で日本へ移住するために、中国人は不正手段を使っているケースもあるという。悪徳業者に引っかかっているのだろう。
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