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衆参両院は11日の本会議で、石破茂首相(自民党総裁)を第103代首相に指名した。与党が、過半数議席を持たない衆院で30年ぶり、史上5度目の決選投票となった。第2次石破内閣の発足を受け、首相は午後10時から記者会見を行った。 

第2次石破内閣の優先課題として、厳しさを増す安全保障環境への対応、治安・防災へのさらなる対応、日本全体に活力を取り戻す――3点を掲げた。注目すべきが、AI・半導体産業へ10兆円支援と年内の「政治とカネ問題の決着」を表明した。 

『日本経済新聞 電子版』(11月11日付)は、「半導体やAIなど『10兆円以上公的支援』、首相記者会見」と題する記事を掲載した。 

(1)「2030年度までに半導体や人工知能(AI)、半導体分野に10兆円以上の公的支援する方針を明らかにした。「今後10年間で50兆円を超える官民投資を引き出すための新たなフレームを策定する」と唱えた。半導体やAI半導体分野への公的支援の狙いついて「民間事業者の予見可能性を高める状況を高めることによって官民投資を引き出したい」と語った。支援の原資は、「赤字国債は発行しないという大前提のもと関係閣僚から説明させる機会を持ちたい」と述べるにとどめた」

 

石破首相が念頭にあるのは当面、ラピダスへの支援である。ラピダスの「2ナノ半導体」開発を巡っては、財務省筋からの根強いネガティブ・キャンペーンがされており、否定的空気が漂っている。それだけに、首相自らの発言により「ラピダス反対論」は沈静するであろう。支援原資は、政府保有のNTT株やJT株を担保にして発行される国債を充当する予定で、赤字国債にはならない。 

ラピダスへ政府出資となれば、ラピダスの株式公開後に政府出資分を売却して「利益」が出るはず。問題は、ラピダスが技術的に乗り越え、営業面で成功できるかだ。 

『朝日新聞』(11月7日付)は、「ラピダス社長『1日の遅れもない』、27年量産開始計画は順調と強調」と題する記事を掲載した。これまで、朝日新聞は「ラピダス否定論」を報じてきたが、状況が変化してきた印象である。 

(1)「次世代半導体工場を北海道千歳市に建設しているラピダスの小池淳義社長は7日、札幌市内で講演し、2027年から量産を始める計画に「1日の遅れもない」と述べた。建設中の建屋は来年2月にほぼ完成する見込みで、4月から試作を始める予定にも変更はなく、計画が順調に進んでいると説明した。小池社長によると、昨年9月に着工した工場は、冬季も建設作業を続け、建屋が85%以上完成したという。製造装置の搬入を今年12月から始め、来年4月に試作ラインを稼働させる」

 

ラピダスは、低価格の上に電力消費の少ないAIに最適化した高速半導体開発が始まっている。カナダの新興企業テンストレントと提携しており、CPU(中央演算処理装置)でAIが操作できる画期的なものだ。生成AIといえば、エヌビディアが世界で独走しているが、これに対抗するものとしてラピダスが注目を集めている。政府が、あえて10兆円超の支援を打ち出した背景に、ラピダスの確かな技術開発の進捗があるはずだ。テンストレントとは、10年の長期の提携契約になっているのだ。今後、次々とAI半導体が開発されるのであろう。 

4月以降にラピダスの試作品が登場する。これによって現在、交渉中40社程度の顧客から、確定した顧客名簿が発表される予定だ。これを待って、ラピダスは米国での株式公開も可能になろう。そうなれば、日本政府思わぬ形で「宝」を手に入れる可能性が出てくる。

 

(2)「ラピダスは、いまの製品より格段に小さい世界最先端の半導体の国産化をめざしている。実現すれば、処理速度が高まり消費電力は減る高性能半導体として、AI(人工知能)向けの販売を見込んでいる。販売先の用途に応じた半導体を設計段階から共同開発するのがラピダスの特長の一つだとして、小池社長は「開発期間を短縮し、コストも安く提供できる」と強調した」 

小池社長は、かつて開発中のAI半導体の消費電力が10分の1と説明している。エヌビディアの半導体は、消費電力が極めて大きいという難点を抱える。この結果、生成AIデータセンターでは、電力多消費のために原発を必要とするほどの事態だ。 

石破首相が、日本経済の将来展望を切り開く半導体やAIに大規模支援をする積極姿勢をみせている裏には、自民党大敗の理由となった「政治とカネ」問題を年内に決着させられる自信があるからだろう。

 

『毎日新聞 電子版』(11月11付)は、「政策活動費廃止へ 裏金相当額寄付も検討 石破首相『年内に決着』」と題する記事を掲載した。

石破茂首相は、政党から政治家個人に支出され、使途が公開されてこなかった「政策活動費」について廃止する方針を固めた。複数の政権幹部が明らかにした。与野党で協議し、年内に政治資金規正法の再改正などの方向性を決める。一方、自民党は裏金問題に関する「けじめ」として、収支報告書の不記載相当額を党から国庫などに寄付する検討に入った。 

(3)「首相は11日、自民の両院議員総会に出席し、政策活動費の廃止を含め、政治資金を監視する第三者機関の創設などの政治改革について「年内に決着を図りたい」と述べた。首相は「国民の多くが政治とカネの問題について、いまだ納得していないという事実を厳粛に受け止めなければならない」と話し、裏金議員に国会の政治倫理審査会に出席するよう求める考えも示した」 

石破首相は、政治改革について「年内に決着を図りたい」と発言した。これにより、自民党の支持率が回復すれば、来夏の参院選挙で衆参同時選挙に打って出られる可能性もみえるかも知れない。今が、政治改革の正念場である。

 

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2024-11-07

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