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中国の大学生らサイクリスト数千人が、鄭州から約50キロ走破したことで、当局を刺激している。こうした集団行動が、政治運動へ繋がるという警戒感からであろう。

 

中国は、長引く不況下で社会不安が増大している。中国共産党が、盤石の支配体制を築いているとはいえ、「蟻の一穴」という諺もある。油断していると、虚を突かれるのだ。歴代王朝は、こういう小さな動きが社会騒乱を巻き起こしてきた。一波が万波を呼ぶ。

 

『ブルームバーグ』(11月12日付)は、「中国のサイクリングブーム 称賛から一転締め付けー集団行動を警戒」と題する記事を掲載した。

 

中国でブームになっている夜間のサイクリングが、当局の反発を招いている。大学生による予想を超える大規模な週末のサイクリングに不意を突かれた当局は、交通の混乱を懸念し、こうした行動が若者たちによる抗議活動に転じかねないと警戒しているもようだ。

 

(1)「中国のソーシャルメディア上で拡散された動画によると、数千人のサイクリストが週末、6車線の高速道路を埋め尽くし、河南省の省都、鄭州から同省中部に位置する古都、開封まで約50キロを走った。地元メディアは、開封の街頭が学生たちでいっぱいになり、到着後にレンタル自転車を乗り捨てた者もいたと報じた。中国共産党の機関紙、『人民日報』はつい先日、夜のサイクリングブームを「大学生たちが中国の観光業界に活気を与えている一例」だと称賛した」

 

数千人のサイクリストが、6車線の高速道路を埋め尽くして走る姿は、健康な姿にみえる。だが、視点を変えると危険行為に映るのだろう。謀反である。いかにも、中国らしい発想だ。

 

(2)「一部の学生たちは週末、サイクリングの途中で中国国旗を掲げ、「党万歳」などと愛国的なスローガンを叫んでいたが、こうした大規模な集団行動は当局の感情を逆なでしたようだ。応急管理省は9日、自転車に乗る人々に交通および自転車に関するルールを順守するよう通信アプリ「微信(ウィーチャット)」を介し通告。自転車シェアリングアプリは、鄭州の外に出た自転車を遠隔操作でロックすると警告した」

 

中国では、集団行動は御法度である。「反社会的行為」とみなされるのであろう。

 

(3)「隣接する湖北省の『極目新聞』によれば、ある大学では学生がキャンパスから出るには退出許可が必要になったという。ソーシャルメディア上では、ユーザーが「なぜ学校を封鎖するんだ」と不満を漏らし、「もうたくさんだ。いつ封鎖が解除されるんだ」と訴えた。こうした取り締まりに関するハッシュタグは、11日時点で別の通信アプリ「微博(ウェイボ)」で約50万回閲覧された」

 

湖北省では、学生がキャンパスから出るには退出許可が必要になったという。封じ込めである。

 

(4)「トロント大学ムンク国際問題・公共政策研究所のダイアナ・フー准教授(政治学)は「特に若年層の失業率の高止まりという状況下では、中国の若者による集団行動が政治的なものに転じ得る」と分析。「彼らの怒りが党と国家に向けられた場合、新型コロナウイルス対策としてのロックダウン(都市封鎖)に反対する抗議活動に匹敵するような社会運動が引き起こされる可能性がある」との見方を示した」

 

中国の若者による集団行動が、政治的なものに転じ得る可能性は大きい。若年層の失業率が高止まりしているからだ。

 

(5)「習近平総書記(国家主席)率いる共産党は党の統治を強化する一環として、当局が統制しない大規模集会を取り締まっている。北京で1989年に起きた「天安門事件」につながった民主化デモと2022年終盤に全国に広がったロックダウンに対する抗議活動を主導したのは大学生だった。中国最高指導者の退陣を求めたこともあり、大学生は社会の中でも特に敏感な市民だ」

 

大学生は、社会の中でも特に敏感な市民である。彼らが立ち上がって政治運動を起こせば、それなりの影響力をもつ。政府は、それを恐れているのだ。

 

(6)「夜間サイクリングの流行は6月に始まった。鄭州の女子学生4人が自転車を借り、人気のスープ入り餃子「灌湯包」を食べようと開封まで行ったのだ。経済成長の軌道が不安定になっている中国では今、いわゆる「体験型経済」への転換が奨励されている。山東省淄博市には昨年、格安のバーベキューを求める若者たちが押し寄せた。「中国反体制派モニター」を率いるケビン・スラテン氏は、「河南省での集団的なサイクリングイベントを巡る動きは、集団行動の脅威に対する党と国家の敏感な反応を象徴している」と指摘し、「党と国家は特に学生による集団行動のリスクに敏感で、こうした予防的な締め付けを本能的に行う」と語った」

 

日本の大学生が、集団でサイクリングする姿は想像もできない。中国では数千人が集まる。みんな孤独で不満を抱えているのだろう。そのはけ口だ。同情するほかない。