国民民主党は、「103万円の壁」を巡る減税案を掲げ政府実現を迫っている。実現すれば、7.6兆円の大規模減税となるが、財源は見込めず、高額所得者ほど優遇になるなど問題点も指摘されている。芳野友子・連合会長は、「処遇改善や人手不足を解消していくには、壁をなくしていくことが重要」と指摘。ただ、178万円への引き上げに対して、「議論が活発になるのはいいこと。財源が不明確なので注視していく」と述べた。連合は、財源問題に関心を寄せるなど、中立姿勢にもとれそうだ。
『毎日新聞』(11月12日付)は、「学生バイトの発想、国民民主『年収の壁』対策の不思議」と題する記事を掲載した。
衆院選で国民民主は「手取りを増やす」として課税最低限を「同178万円」に75万円引き上げる案を挙げた。103万円は1995年から据え置かれ、その間、東京都の最低賃金が1.73倍になったことが178万円(103万円×1.73)の根拠という。自公は、国民民主と個別政策ごとに連携する部分連合を模索する。国民民主は減税案実現を条件にしており、自公は何らかの形で受け入れを迫られる。
(1)「現在、年収103万超~178万円の給与所得者は103万円超部分に所得税5%がかかるが、減税案が実現すればゼロになり、年収178万円なら3万7500円の所得減税だ。この年収層は主にパートタイム労働者だが、基礎控除が増えれば、すべての納税者が減税となる」
一律に、基礎控除を103万円から178万円へ引上げると、年収178万円なら3万7500円の所得減税になる。
(2)「これには問題点も指摘される。まず、高所得者ほど恩恵が大きい不公平性がある。基礎控除が75万円上がると、所得税率45%の高所得者(課税所得金額4000万円以上)は年33万7500円の減税になる。財源も見当たらない。所得税の基礎控除は住民税と連動しており、75万円引き上げると国・地方の税収(所得税+住民税)の4分の1にあたる年7.6兆円の減収となる」
一律の基礎控除引上げは、高額所得者ほど減税効果が上がるという不公平性がある。これによって、年7.6兆円の歳入減だ。連合会長が、懸念している点である。
(3)「これまで、「103万円の壁」は、「夫に扶養されてパートで働く妻」をめぐる問題として議論されてきたが、87年に配偶者特別控除を導入し、年収103万円を超えると特別控除に移り、世帯の手取りが減らないようにした。2018年からは配偶者の年収150万円まで控除額を満額に積み増した。こうして税制上、パート妻の「103万円の壁」は解消された」
妻の場合、すでに「103万円の壁」は解決済みである。87年に、配偶者特別控除を導入し、年収103万円を超えると特別控除に移り、世帯の手取りが減らないようになっているからだ。
(4)「それでもパート妻が、103万円を超えないよう就業調整している実態がある。考えられるのは「損をする」ことを嫌う心理的要因だ。とはいえ103万円を超えても、年収が1万円増えるごとの所得税負担は年500円と大きくない。制度をあまり理解せず、103万円を過剰に意識する誤解が大きいとみられる」
パート妻が、103万円を超えないよう就業調整しているのは、単なる誤解に基づく「心理的な損」感覚だという。
(5)「国民民主は今夏、学生インターンシップを実施した。そこで「アルバイトで生活費や学費を稼ぎたい学生が、年収の壁で働く時間を抑えている」として「『103万円の壁』を引き上げる」という政策提言があり、急きょ主要政策に取り入れたという。ここに疑問を解くカギがある。学生アルバイトは、勤労学生控除を受ければ、年収130万円まで所得税が非課税だ。しかし、年収103万円を超えた時点で親(扶養者)の扶養は外れ、親は特定扶養親族の扶養控除(所得税63万円・住民税45万円)がなくなって税負担が増え、世帯単位では手取りが減る。親が所得税率20%なら17万1000円の負担増だ。つまり、学生アルバイトには、パート妻にはない税制上の「壁」がある。国民民主の言う「税制上の103万円の壁」とは「学生の目線」ならではの問題意識と考えられる」
国民民主党が主張する「103万円の壁」は、アルベイト学生の話だ。
(6)「パート妻と学生アルバイトとでは、扶養の控除の枠組みが異なる。また、パート妻には社会保険の「106万円の壁」が意識されており、単に課税最低限を引き上げても就業調整の解消は難しいとみられる。一方、学生アルバイトは社会保険の適用拡大の対象外で、そうした制約がない。国民民主の減税案はこうした違いを説明せず、学生アルバイト固有の課題をパート労働者全体に拡大解釈する点で、誤解を生みやすい」
パート妻は、「106万円の壁」で社会保険料問題が発生してくる。学生アルバイトは、社会保険料問題と無縁である。国民民主党は、問題の本質を理解せずに、一律「103万円の壁」を公約して議論を複雑にしているのだ。
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