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米国の次期政権を担うトランプ氏は、国防など安全保障関連ポジションへ相次いでタカ派を登用している。世界の目は、トランプ氏の対中関税率60%超へ注がれている。だが、経済問題もさることながら、米国が台湾へ大量の武器を売却した場合、中国との関係はどのように悪化するかに関心が高まっている。

 

『ブルームバーグ』(11月13日付)は、「米中対立、トランプ氏最大の懸案は貿易にあらず」と題するコラムを掲載した。筆者は、米クレアモント・マッケナ大学の行政学教授ミンシン・ペイ氏である。

 

米国で第2次トランプ政権が来年発足した後、米国と中国の間で起きる最も激しい衝突は貿易問題だと大半の専門家が分析している。しかし、トランプ氏と中国共産党の習近平総書記(国家主席)を共に眠れなくさせるのは、貿易ではない。台湾だ。どのような対中関税であれ、中国は輸出競争力を高めるため人民元の切り下げを行うことができるし、内需を刺激する手だても講じ得る。

 

(1)「台湾に関して、習氏はほとんど身動きが取れない。主権と威信への挑戦と見なされる出来事に強硬な対応をしなければ、中国の最高指導者は弱腰と見なされ、もろさを露呈する。1995年にクリントン米政権が当時の台湾総統、李登輝氏にビザ(査証)を発給した際、中国はこれを米国による台湾独立支持と解釈し、一連の軍事演習を開始した。いわゆる「第3次台湾海峡危機」の勃発だ。クリントン政権は最終的に2つの空母打撃群を台湾海峡に派遣。激しい外交戦を繰り広げた後、緊張を和らげる必要に迫られた」

 

1995年の「第3次台湾海峡危機」では、米海軍が2つの空母打撃群を台湾海峡に派遣すル騒ぎとなった。中国は、メンツに拘って行動する。

 

(2)「約30年前、軍事力で劣っていたにもかかわらず、習氏の前任者たちが対米衝突のリスクを冒した政治的なロジックは、今も変わっていない。現在、米中の軍事バランスはより均衡している。米国の歴代政権は「一つの中国」政策を堅持するため、強い自制心を働かせてきた。例えば、台湾の外交部長(外相)や国防部長(国防相)はワシントンを訪問することは許されていないが、首都以外では米政府の外交・国防責任者と会うことは可能だ。また、米国は台湾に軍艦を寄港させたり、台湾軍との合同演習をしたりすることを控えている。ただ、非公開の米台軍事協力は広範囲にわたり行われている」

 

米国は、できるだけ台湾問題で騒ぎを起こさないように慎重に対応しているが、非公開の米台軍事協力は広範囲に行っている。

 

(3)「トランプ氏は、前任者よりも台湾防衛への関与を減らし、中国との取引を重視する可能性を示唆している。しかし、共和党議員のみならず、トランプ氏が率いる国家安全保障チームのメンバーが北京に対し手加減することはないだろう。抑止力を高めるため必要であれば、台湾との合同軍事演習を認めるなど挑発的な政策変更を正当化できると考えているとみられる。実際、「一つの中国」政策における曖昧な部分は、多くの潜在的な火種を生み出している。最も可能性の高い近々引き金となりそうなのは、トランプ氏の大統領就任後に台湾が合意を望んでいるとされる巨額の兵器取引だ」

 

トランプ氏は、大統領就任後に台湾が合意を望んでいるとされる巨額の兵器取引を認める可能性がある。経済を重視するトランプ流のやり方である。

 

(4)「この取引には、F35ステルス戦闘機とイージス駆逐艦の150億ドル(約2兆3200億円)相当の発注が含まれる可能性がある。こうした先進的な軍事プラットフォームの構築は、中国との危機を助長し得るとして、これまでの米政権が提供を避けてきたものだ。トランプ氏は台湾に防衛費の4倍増を公然と迫っており、この取引はまとまる公算が大きい。承認されれば、台湾海峡の緊張はほぼ確実に新たな段階へと入る」

 

米国と台湾との兵器取引では、F35ステルス戦闘機やイージス駆逐艦150億ドル(約2兆3200億円)相当の発注が含まれると想定される。これが実行された場合、中国がどのように対応するか、だ。

 

(5)「中国が、侵攻に踏み切る可能性は低いものの、台湾の海運や航空便を混乱させるために、グレーゾーンの活動を飛躍的に強化する恐れはある。タカ派にあおられ、自身の強硬姿勢を証明したいとトランプ氏が考えれば、この地域に大規模な米軍部隊を派遣する誘惑に駆られるだろう。それは、60年以上前のキューバ危機を連想させるような、一触即発の状況を招くリスクをはらんでいる。こうしたシナリオは危険極まりないが、驚くほど注目されていない。「戦争を止める」と公約したトランプ氏は、中国との軍事衝突は確実に避けたいはずだ。しかし、台湾を巡る対応を十分に注意深く行わなければ、大統領職を失うような危機に直面する可能性もある」

 

中国は、メンツが立たないとして強硬姿勢を取る可能性が大きい。これに対して、超強気のトランプ氏がどう反応するかだ。互いに、メンツを賭けた争いに発展する危険性を抱えている。要注意点である。