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セブン&アイ・ホールディングスは、創業家である伊藤家から法的拘束力のない買収提案を受けていることを明らかにした。すでに、カナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)からも買収提案を受けている。日本とカナダの創業家同士で買収提案を競う構図となった。伊藤家からの買収提案は、創業家や伊藤忠商などから出資を受け、銀行融資を合わせて総額9兆円規模で全株式を買い取るMBO(経営陣が参加する買収)を計画していることが報じられている。

 

『ロイター』(11月21日付)は、「セブン・アイ買収、伊藤忠は出資で複雑な立場に」と題する記事を掲載した。

 

セブン&アイ・ホールディングスの買収を提案した同社の創業家は複雑な協力者を見つけた。報道によると、買収総額は9兆円に達する可能性があり、ライバルであるファミリーマートを傘下に置く伊藤忠商事も資金を拠出する見込みだ。ブルームバーグが情報筋の話として報じたところによると、創業家や伊藤忠などの企業連合が現金と株式で3兆円を出資し、借り入れを抑える方針。セブン&アイに対しては、カナダの小売大手アリマンタシォン・クシュタールも買収を提案しており、これに対抗する。

 

(1)「繊維、エネルギー、化学製品など幅広い事業を展開する伊藤忠は、食品卸売り部門を通じてセブンイレブンとの既存の関係を強化する可能性がある。外資系企業の買収に対す防衛策は、日本では過去にも見られる。経営危機に陥った東芝は、2023年に国内の投資ファンドによって買収された。同ファンドには20社ほどが出資し、多くは関係がある企業だった」

 

伊藤忠商事が、MBOに加わることによってセブンイレブンの経営テコ入れ意図が明白である。伊藤忠は、ファミリーマートを傘下に納めているので、セブンイレブンとの店舗調整を行い、強力な販売戦線を構築する計画であろう。これによって、世界のコンビニを支配下に収める構想も考えられる。

 

(2)「伊藤忠の資金拠出は、財務面では問題ないとみられる。LSEGによると、同社の純負債は2025年度の予想EBITDA(利払い・税金・償却前利益)の2.3倍で、他の大手総合商社4社よりも低い。また、同社の株式は住友商事や丸紅よりも市場で高く評価されている。過去1年間の株主総リターンは、30%と大手総合商社でトップだ」

 

伊藤忠は、高収益企業である。資金面で何らの問題もない。

 

(3)「セブンとファミリーマートを合わせると、国内コンビニ市場のシェアは70%になる。これは恐らく高過ぎる。地震などの災害発生時に、コンビニは国民に対して重要なサービスを最初に提供する役割を担うというのが、セブン&アイの非公式な立場だ。大手コンビニチェーンが3社から2社へ減少した場合、こうした役割が損なわれることになりかねない。より議論の余地が少ない案としては、ファミリーマートとセブンの物流サービスを統合するという方法もある。統合により両社がそれぞれ独自に配送ドライバーを抱える必要がなくなる。ファミリーマートとセブンイレブンの店舗は隣接しているケースも多い。また、高齢化が進む日本では深刻な労働力不足に陥っている」

 

日本のコンビニ業界では、シェア1位がセブンで44.5%、2位はファミリーマート25.6%である。両社の合計シェアは、70.1%に及ぶ。これは、独占禁止法に抵触する。この問題は、伊藤忠がMBOへ参加することで問題になる。

 

(4)「伊藤忠は、セブン&アイへの出資を当初20%未満といった低い水準に抑えることで、独占禁止法上の問題を回避できるかもしれない。最終的に伊藤忠の出資が受け入れられるかどうかは、日本の政策当局者が競争と労働力の効率性のどちらにより重点を置くかによって決まる可能性がある」

 

伊藤忠が独禁法をクリアするには、出資を20%以下に抑えることだ。そうなれば、独禁法をクリア可能になるという。

 

MBO総額が9兆円になるとすれば、現在の時価総額は6兆6572億円(11月21日)であるから、あと35%の上昇幅が見込める計算だ。問題は、独禁法をクリアできるか否かだ。「ゴー」の見通しがつけば、状況がさらに変わるであろう。

 

日本のコンビニ業界は、飽和状態である。すでに、ファミリーマートとローソンは株式を非上場にした。外資からM&Aの対象にされるよりも、独自の経営路線追求メリットを優先した結果だ。

 

セブンが、カナダのアリマンタシォン・クシュタールに吸収合併されることは、日本の未来を閉ざされるような危惧の念が強まっていた。中には、「おむすびの味が変わるのでないか」と心配する消費者もいるという。現実には起こり得ない話だが、それほどセブンが身近な存在であることを証明している。