不幸の原点は幻想に
責任転嫁する習近平
長征に拘るリスク大
再建トウ小平に学べ
中国国家主席の習近平氏が、「終身国家主席」を目指していることは、種々の情報や習氏自身の発言を重ね合わせるとほぼ確実であろう。論より証拠、習氏は後継者の育成を行っていないのだ。人口14億の中国が、一人の指導者に全てを「丸投げ」するのは極めて危険である。中国は、そういうリスクの高い政治を行っている。
中国の政策は、集団合議制が名ばかりであり、実質的に「習氏の独裁体制」になっている。一人の指導者の判断が、100%正しい保障などあるはずもなく、往々にして間違うのが普通である。民主主義政治国家が、専制主義政治国家より長期的に発展するのは、「独断」でなく「合議」による結果だ。中国は、独断政治によって襲われつつある「国難」に対処するほかない。「独断と国難」という二重の危機に直面している。
国難とは何か。国家が直面する危機的状況である。ただ、多くの国民の命に直接かかわるよう物理的な災難ではない。国家としての基盤組織が、根本から崩れかねない危険性の高まりを指している。
ここで想起されるのは、トウ小平という人物だ。毛沢東の引き起した10年にわたる「政治的混乱」(文化大革命)を収拾し、現在の経済発展の基盤をつくったトウ小平の業績を振り返る局面に来ている。習氏は、これを意図的に否定している。だが、現在の中国に必要なのは、「トウ小平路線」の復活だろう。
中国の「国難」の具体的側面は、次の2点に要約できよう。
1)国民生活の経済的破綻リスク
2)西側諸国との外交摩擦による孤立リスク
中国は、今年7~9月に公の場で起きた抗議活動の件数が、前年同期比27%も増加した。これは、米人権団体フリーダムハウスの「中国反体制モニター」が集計した結果である。国民の間に生活面での不満が広がっている。その大半は、経済問題に起因しており、労働者と不動産オーナーの訴えが目立つ。
過去1年ほどの間に記録された1820件以上の労働者による抗議のうち、大半は未払い賃金に関連したものだ。また、未完成のマンション販売を扱う大手の不動産管理会社に対する抗議活動も大きく増えている。約3分の1は、不当な手数料や公的資金の不正使用に関連している。
人民の利益に奉仕するのが、共産主義政治のモットーのはずだ。現実は、この基本が守られていない。中国共産党による統治紊乱を示している。習近平政権は、こういう抗議活動を解決するどころか、権力で逆に押し潰している。この結果、やり場のない不満は無差別殺傷事件となってあらわれ、無関係な人たちへ刃を向ける事態を招いている。
以上の事態からみて、中国政治が成功していると言いがたい状況へ追込まれている。
不幸の原点は幻想に
中国が、国内経済問題を解決できず放置している理由は何か、である。それは、「超大国」を目指して、予算をそこへ振り向けている結果だ。具体的には、国防費の増大である。習近平氏は、米国を超えて世界覇権を握るという幻想を抱いている。これが、軍事力を増大させている背景である。この幻想こそが、不動産バブルを生み出した原動力である。不動産価格を押上げれば、自動的に土地国有制の結果、土地売却益が地方政府の主要財源になった。歳入の2~3割がこの土地売却益である。
不動産バブルによって、土地売却益が地方政府の主要財源になった。短期的には、笑いが止まらないほどの浮かれた財政状況を作り出した。こうして、無駄なインフラ投資を可能にさせ、あちこちへ高速鉄道や高速道路を建設してきた。財源が不足すれば、不動産開発企業を焚きつけて、人間の住まないような土地へマンションを建てさせ、強引に土地売却益をひねり出す工作をしてきた。現在、建設工事を途中で止めて野ざらし状態になっているのは、こういう地方政府の策略が失敗した証である。
地府政府が、土地売却益を主要財源にしたのは、中央政府による1994年の「分税制改革」からである。それまでは、地方政府へ税源配分を手厚くしてきたが、分税制改革によって、中央政府へ税源の過半を配分することになった。それにもかかわらず、地方政府は教育・年金・公共事業など広範囲な分野をカバーしている。こうして年々、歳出規模が拡大していく結果、恒常的に土地売却益へ大きく依存することになった。
地方政府の財政事情からいえば、土地売却益という自主財源づくりが不可欠になった。不動産開発企業を煽って、無駄はマンション建設を誘導せざるを得なかったのだ。不動産バブルは、こういう地方政府の「音頭」で始まった。財政政策の失敗である。
習近平氏が、不動産バブルという認識を持ち始めたのは2016年ころからだ。「土地は住むもので投機対象でない」と発言したが、具体策を取ることはなかった。政府の統制でコントロールできると甘くみていたのであろう。もう一つ、不動産売却益を抑制すれば、これに代わる財源をつくらなければならない。新税候補は、固定資産税(不動産税)と相続税である。この新税に対して、共産党古参幹部二世の「紅二代」が猛烈な反対をしたのである。(つづく)
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