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中国の貨物船が、バルト海での破壊工作疑惑を巡る捜査対象となっている。すでに、1週間にわたり国際水域で欧州の艦船に包囲されている。貨物船「伊鵬3号」が先週、バルト海の海底で約160キロメートル余りにわたって錨を引きずり、2本の主要な海底通信ケーブルを意図的に切断した疑いがあるとみている。この貨物船は、ロシア産肥料を積載していた。 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月28日付)は、「中国船、意図的に錨引きずったか バルト海ケーブル切断」と題する記事を掲載した。 

伊鵬3号は11月15日にロシアのバルト海沿岸のウスチルガ港を出港した。捜査は現在、船長がロシアの情報機関によって破壊工作を実行するよう仕向けられたかどうかが焦点となっている。欧州の上級捜査官は「船のいかりが落ち、引きずりながら速度が落ちた状態で数時間にわたり航行し、途中でケーブルを切断したことに船長が気付かなかったとは非常に考えにくい」と話した。捜査に詳しい複数の関係者によると、伊鵬3号を所有する中国の寧波伊鵬海運は捜査に協力しており、国際水域での伊鵬3号の航行停止を許可した。

 

(1)「海底ケーブルの損傷は、11月17~18日にスウェーデンの領海で発生し、同国当局が妨害行為の疑いで捜査を開始した。ロシアは関与を否定している。捜査官は伊鵬3号が11月17日午後9時(現地時間)頃、スウェーデンの領海でいかりを落としたまま航行を続けたことを確認している。捜査に詳しい2人の関係者によると、引きずられたいかりがその直後にスウェーデンとリトアニアを結ぶ最初のケーブルを切断した。その間、船舶の動きを追跡する自動船舶識別装置(AIS)のトランスポンダーが停止し、海上交通用語でいう「ダークインシデント」が発生した。捜査官が確認した衛星データなどによると、その後も船は引きずられたいかりによって速度が大幅に低下したにもかかわらず航行を続けた」 

イカリを下ろして航行すれば、速度が大幅に低下するのは常識だ。衛星データで確認されている。船長が気づかないはずがない。意図的切断を疑われる理由だ。それにしても、中ロ関係の密接さ示す事件である。

 

(2)「伊鵬3号は、翌18日午前3時頃、約180キロメートル航行した後、ドイツとフィンランドを結ぶ2本目のケーブルを切断した。その直後、船は蛇行し始め、いかりを上げて航行を続けた。デンマーク海軍の艦船がその後、伊鵬3号を追跡・阻止するために出動し、最終的にバルト海と北海を結ぶカテガット海峡で停泊させた。捜査に詳しい複数の関係者によると、船舶のいかりと船体を調査した結果、いかりを引きずってケーブルを切断したことと一致する損傷が確認された。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に国際海運のリアルタイムデータを提供した分析会社ケプラーの分析によると「穏やかな気象条件と管理可能な波高を考えると、偶発的にいかりを引きずる可能性は極めて低い」という」 

伊鵬3号のイカリと海底ケーブル切断の傷跡が一致している。証拠は掴まれている。 

(3)「西側の法執行機関および情報機関の当局者は、中国政府が関与しているとは考えていないが、ロシア情報機関の関与を疑っていると述べた。ロシア大統領府の報道官室はWSJに対し「これらは根拠のない不条理な非難だ」と主張。中国外務省の報道官は27日、記者団に対し「中国は一貫して、国際法にのっとり国際海底ケーブルやその他のインフラの安全を維持するため、全ての国と協力しているということを改めて述べたい」と語った」 

ロシア情報機関が、伊鵬3号へ指示したと疑われている。伊鵬3号が、あえて海底ケーブル切断を請負った理由は何か。

 

(4)「ロシアは、ウクライナへの全面侵攻を開始して以来、西側を不安定化させるため、バルト海や北極圏の海底パイプラインや通信ケーブルへの攻撃を含め、北大西洋条約機構(NATO)領内の欧州で「影の戦争」を仕掛けていると西側から非難されている。昨年10月、「ニューニュー・ポーラー・ベア号」という中国籍の船舶が、フィンランドとエストニアを結ぶガスパイプラインと通信ケーブルをいかりで切断したと、この件の捜査に詳しい複数の人物は述べている。同捜査について説明を受けた一部の当局者によると、当時、ロシア人が乗船していたという」 

昨年10月も、中国船がガスパイプラインと通信ケーブルをいかりで切断した。同船には、ロシア人が乗船していた。 

(5)「米ペンシルベニア大学クレインマン・エネルギー政策センターのベンジャミン・シュミット上級研究員によると、伊鵬3号は2019年12月から2024年3月初旬まで中国の領海内でのみ運航していたが、突然運航パターンを変更した。その後、伊鵬3号はロシアの石炭などの貨物を運び、日本海に面したナホトカなどのロシア港に寄港。バレンツ海のムルマンスク港を数回訪れ、バルト海へ航行した。「これだけでは、ロシアの関与を示す証拠としては不十分だが、何年も中国の領海内でのみ運航していた船舶の運航地域が根本的にロシアの港へと変更されたことは、欧州当局にとって捜査のカギとなるはずだ」とシュミット氏は述べた」 

捜査は、始まったばかりだ。今後の展開次第で、中ロ関係の「裏事情」が明かされるかも知れない。