中国社会は、重圧社会である。国民の2人に1台という監視カメラが設置される異常な状態にある。息苦しさは格別であろう。これに加えて、長期の不況である。解雇、賃下げが日常茶飯事に行われている社会は地獄そのものだ。これに反発して無差別殺傷事件が続発している。
当局は、事件の背後に「四無五失」層の存在を指摘している。「四無」とは、①配偶者無し②子ども無し③家が無い④無職、などを指す。「五失」とは、①投資に失敗②人生で失意に陥った③人間関係で不和を抱える④精神状態が正常 でない、を意味する。これら対象者を、ビックデータで把握するというのだ。これで、中国はますます国内で「みえない壁」をつくる。原因は、国民生活の苦境を顧みない政府の政策的貧困にある。
『レコードチャイナ』(11月29日付)は、「中国で多発する無差別殺傷事件、当局はビッグデータで対応ーシンガポールーメディア」と題する記事を掲載した。
シンガポール華字メディア『聯合早報』(11月24日付)は、10日も経たない内に広東省珠海市、江蘇省宜興市、湖南省常徳市の3件の悪質な無差別殺傷事件が起きている状況について、中国共産党中央政法委員会(法政委員会)などの司法当局がビッグデータを活用した予測により防犯能力を高めようとしていることを伝えた。
(1)「記事は初めに「中国共産党中央政法委員会はSNSの情報発信プラットフォーム「中央政法政委長安剣」を通じて、24日に同委員会の誾柏(イン・ボー)秘書長が浙江省杭州市などの地方当局に、ビッグデータの分析を通じて事件発生のリスクを予測し、正確かつ精密な防犯能力の向上を調査研究するよう要求したと発表した。また、中国公安部長の王小洪(ワン・シアオホン)氏も先週、遼寧省で2日にわたって、ビッグデータを活用した新しい警務運営方式を、公安当局の新戦力として主体的かつ効率的に防犯能力と処置能力を高めるよう要求したという」と伝えた」
ビックデータによって、事前に「犯罪予備軍」を把握するという。戦時中の日本は、自由思想の持ち主を「予防拘束」したり尾行を付けたりした。この「中国版」が始まる。対象者は、膨大な数に上るであろう。そんな予算余力が、地方政府にあるだろうか。
(2)「国営メディアの新華社の22日付け報道を引用し、中央政法委員会の陳文清書記が招集した会議において、責任感を持って重要地点や大きな活動と社会の管理を強化し、凶悪事件の防止に努めるよう要求したことや、中国司法部でも党内部で会議を拡大招集し、社会の安全を維持する政治的責任を持って、社会問題の調査チーム設置や人員の配置により、家庭環境や人間関係、不動産などの財産状況などで見られる矛盾や紛糾を細部に至るまで調査し、情報を提供するよう指導すると述べたことを伝えた」
中国には、プライバシー保護などという「人権思想」の一片もないことを示している。
(3)「記事は、この動静について北京師範大学政府管理研究院の唐任伍(タン・レンウー)院長は「公安当局などが地方にビッグデータ解析による調査研究を要求した目的は、最近連続して発生した悪質な無差別殺傷事件の根本原因をはっきりさせるためだ。公安当局などは長年にわたり、多くの科学技術を利用し社会的なリスクを監視してきたが、最近起きた3件の事件が示すように、現状は十分な防犯能力を満たしておらず、特にビッグデータの活用が不十分で、地方当局にもっとビッグデータの活用を重視してほしいと考えているようだ。同時に民衆の不満や脅迫行為をもっと真剣に向き合ってほしいとの思惑もあるようだ」との回答があったと伝えた」
問題解決のポイントは下線部にある。国民の苦しみに対して真面目に対応せず、逆に権力で押し潰してきた。「共産主義の原点」とは、全く逆方向である。共産主義は、政治権力掌握の手段にすぎなかった。大いなる欺瞞であろう。
(4)「記事は、中国最高法院が23日専門者会議を開き、重大かつ悪質な犯罪の厳罰化と厳罰一辺倒にならないバランスの取れた刑事政策を堅持すると発表したことに触れ、「最高法院の会議は、民間の矛盾の激化により引き起こされた犯罪や、社会生活や生産運営上で起きた軽犯罪の処罰については、被害者の同意を得れば軽めの処分とするなど、最大限の分類により、犯罪の解決と犯罪者の更生を促すことを示している。各地の経済的弱者や、社会との連携が不十分な『四無五失』の人々に対して徹底的に調査を行い、矛盾のリスクを解きほぐし、社会の安定を維持する特別プロジェクトを展開し、地方安定の政治責任の所在を強調するようだ」と伝えた」
「四無五失」層は、中国共産党にとって「政策的失敗」を意味している。国民生活改善へ真摯に向かい合ってこなかった結果である。習近平氏は、この事態をどこまで「自らの政策失敗」という視点で捉え直すか疑問だ。取締り強化で終わるであろう。
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