11月29日の東京市場では、円相場が対ドルで上昇。一時は、149円台後半と1カ月超ぶりの円高水準に振れた。東京都区部の消費者物価指数(CPI)が、生鮮食品を除くコアベースで市場予想を上回り、日銀の利上げを後押しするとの見方が強まり円買いへと繋がった。
これまで、新NISAによる海外投資急増が「円売り要因」となっていた。その流れに最近、変化が起こったのかという点も関心を集めている。海外投資への流れが弱まり、円売り圧力が衰えてきたとすれば、円安相場は大きな転機になるからだ。
『ロイター』(11月28日付)は、「『家計の円売り』に変調か、英国事例から考えるNISAの今後ー唐鎌大輔氏」と題する記事を掲載した。唐鎌大輔氏は、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストである。
年初から円安の一因として注目されてきた「家計の円売り」に変調が見られ始めている。円相場の中長期見通しにかかわる論点ゆえ、現状を整理しておきたい。
(1)「『家計の円売り』の代理変数として注目されてきた投資信託等委託会社(以下投信)経由の対外証券投資は11月発表分ではプラス3930億円と昨年9月以来、約13カ月ぶりの小さな買い越し額にとどまっている。商品別に見ると株式・投資ファンド持分がプラス2717億円、中長期債がプラス863億円、短期債がプラス350億円といずれも買い越しを確保しつつ、新NISA(少額投資非課税制度)稼働後としては極めて小規模な水準にとどまった」
「家計の円売り」代理変数として注目されるのは、投信経由の対外証券投資である。これが、11月実績では、昨年9月以来の最低の「買い越し額」になった。注目すべき現象だ。
(2)「この理由は定かではないが、10月はトランプ氏勝利の期待が先行する中、米9月雇用統計などの劇的に弱い結果にもかからず、米金利上昇・ドル高・株高というトリプル高の傾向が強まっていた。かかる状況下、(家計と関連する)投信を含めて米国債を手放す(損切りする)動きが先行したという観測は根強い。
日本の家計が、トランプ復帰を見込んだ「トリプル高」を利用して、米国債などを手放したとすれば、その見通しの「凄さ」は絶賛される。極めて合理的な判断を下したことになるからだ。
(3)「為替市場で実際に起きたことは、最近の150円台定着に象徴されるドル/円相場の急伸であった。そのような中で投信の動向が注目されてきた背景には、新NISA稼働に伴う「家計の円売り」の多くには為替ヘッジが付いておらず、アウトライト(注:売り戻し条件や買い戻し条件を付けない取引)の巨大な円売り主体である。実際、そのフローが2024年上半期の円安局面に寄与してきた疑いは大きい。9月、10月と失速したとはいえ年初10カ月間における投信の買い越し額はプラス10兆1045億円に達している。だからこそ、「家計の円売り」がこのまま萎んでいってしまうのかは注目に値する論点と言える」
「家計の円売り」は、為替ヘッジを付けないアウトライト取引である。それだけに、円相場を直撃してきた。8月の円急騰で、その流れが大きく変わったというのだ。手痛い傷によって、「家計の円売り」が下火になっている。これが、最近の円高転換の要因の一つとみられている。
(4)「11月以降、(日米)金利差に応じた投機的な円売りがかさんだが、8月の経験(注:円相場急騰)などを脳裏に焼き付けつつ「高いうちに売る」といった短期的には賢明に見える決断が優先される可能性はある。そうなると、このまま投信経由の売買動向が売り越しに転じるリスクなども視野に入れたいところだ。それ自体、円安抑制に寄与する潮目の変化であり、実質所得環境の悪化に応じて成長が抑制されている近年の日本にとってはプラスの話と言える。一方で、資産運用立国という観点からはつまずきと評価する向きも出てくるだろう」
資産運用立国の目的は、家計による海外金融資産へ投資奨励することではない。家計が、内外の投資配分によって総合的に資産を増やせればいいわけだ。その投資行為が、円安防止に役立てば結果的に家計も潤うので「二重のメリット」を期待できる。日本の家計が、このことに気付いたとすれば、大変なプラス要因になる。円高が、日本経済を支えると考える私には、極めて「喜ばしい」現象である。
(5)「新NISAの原形「ISA」を抱える英国では英国株が敬遠され、米国株など国外資産への資本逃避が起きているという。(これまでの)日本と類似した状況と言える。「貯蓄から投資」は自国経済の成長とセットで完結させなければ、資本逃避を招くのである。これに対し、日本が仮に新NISAにおける国内優先枠を検討するとしたら、その問題意識は「国内株価の低迷」ではなく「円安の制御」になる。これは大きな違いだ」
新NISAが、「国内株優先」という枠を設けたとしても非難されることではない。「円安抑制」になるからだ。そういう政策的配慮が今後、されたとしても不思議はない。
(6)「日本で懸念されているのは日本株に資金が向かわないことではなく、自国通貨安が慢性化しているというより大きなテーマである。言い換えれば、「円安の制御」か「国際分散投資の促進」か、いずれの問題意識に重きを置くのかという基本方針の在り方が問われているのだ。(新NISAが)「円安の制御」が優先課題であるならば、国際分散投資に水を差してでもやるべきことはある」
新NISAの間接目的の一つに、「円安制御」配慮を加えるべきだ。円高メリットは、輸入物価の上昇を抑制し消費者物価上昇に歯止めをかける。これによって、実質賃金の上昇をもたらし個人消費が増え、国民全体が幸せになれるのだ。国民が、こういうメカニズムへの認識を共有できれば、「ウイン・ウインの関係」が成立する。その日が、早く来ることを願っている。
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