テスラと中国の主要EVメーカーは2023年7月、価格安定に関する合意を発表した。だが、独禁法に抵触するとのことで白紙化され以後、激烈な競争を展開している。BYDは、利益率の高いハイブリッド車でEV価格競争を凌いでいる。一方、EV専業メーカーにとっては、厳しい値下げ競争で収益を圧迫されている。EV価格競争も、限界点を迎えている。
『フィナンシャル・タイムズ』(11月27日付)は、「中国のEV価格競争が激化へ、BYDは調達先に値下げ要求」と題する記事を掲載した。
BYDは、サプライヤーに対して12月15日までに見積もりを提出し、2025年から正式に価格を引き下げるよう要請した。
(1)「電気自動車(EV)大手の米テスラにとって中国で最大のライバルとなる比亜迪(BYD)が、サプライヤーに対して10%の値下げを要求した。世界最大の自動車市場である中国で、熾烈となる価格競争がさらに激化することになりそうだ。SNSで、BYDの何志奇執行副総裁がサプライヤーに宛てたメールが拡散した。それによると、12月15日までに見積もりを提出し、2025年から正式に価格を引き下げるよう要請した。「EV市場は25年に勝者を決める最終戦、決勝トーナメントに入るだろう」と何氏は記した。「BYD車の競争力を高めるために、あなたとあなたのチームは真剣に受け止め、効果的なコスト削減に取り組んで欲しい」と指摘」
EV市場は、25年に勝者を決める最終戦という。値下げ競争が、最終段階ということなのだろう。脱落する企業が増える。これで、過剰設備処理が大きな問題となる。
(2)「著名投資家ウォーレン・バフェット氏も支援するBYDの要求は、既に利益率の低下と支払いサイクルの長期化に苦しむ中国の自動車部品メーカーの反発を招いている。あるサプライヤーは、「中国の自動車産業の成長は、国内の労働者やサプライヤーの生活を犠牲にして成り立つものであってはならない」と反論した。「我々は御社の要求を受け入れることはできない。ビジネス倫理と人間性に反する協力関係にかかわりたくない」と指摘」
下線部のように、血で血を洗う競争をしている。計画経済が、市場経済顔負けの競争をしているのだ。EVメーカーには、地方政府が多額の補助金を出している。本来ならば、住民福祉に流れるべき予算が流用されている。それだけに、無駄な競争である。
(3)「BYDの財務報告書によると、24年1〜9月に支払手形を決済するのにかかった平均日数は144日で、前年同期の124日よりも長かった。これらの支払手形のほとんどはサプライヤーが受取人だった。「サプライヤーと価格について年1回交渉するのは、業界の慣習だ」。グループ中核会社である比亜迪汽車工業ブランドPR部門の李雲飛・総経理は27日にSNSにこう投稿した。「サプライヤーに提示した値下げ目標は強制的なものではなく、交渉可能だ」とも」
BYD自身も過当競争で、手形サイトが伸びる無理な競争をしている。部品メーカーが、それだけ被害を受けているのだ。さらなる部品の1割値引き要求が、部品メーカーの経営を圧迫する。
(4)「22年後半にテスラが口火を切ってから長引く値下げ競争は、自動車メーカーの利益を圧迫し、業界再編の波を引き起こしている。アナリストらは新たな値下げ合戦が25年1〜3月期に、例年よりも早く起こると予測している。UBSの自動車アナリストであるポール・コン氏は、「25年初頭に、中国の自動車市場における価格競争は避けられない」と指摘。主要な自動車メーカーは、最近増強した生産能力を遊ばせておく余裕はないと付け加えた」
来年1~3月期に、EV最終決戦が始まるという。総力を挙げた値引き競争を始める。値引きでどれだけ需要が増えるのか見物である。
(5)「11月下旬、テスラは中国で最も売れている多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」の価格を1万元(約20万円)引き下げると発表した。これにより最低販売価格は約4%下がり、23万9900元(約504万円)となった。匿名を条件に取材に応じた中国の自動車部品メーカーの幹部は、「EV需要は強いものの、過剰生産能力の問題が続けば、業界全体に耐え難い痛みをもたらすだろう」と述べた。「中国製EVは、日本ブランドが成功したように世界を席巻する可能性があるかもしれないが、その過程で多くの企業が淘汰される」と指摘する」
中国政府は、意図的に過当競争させて生き残ったメーカーに世界市場を握らせる野望を持っている。だが、各国は関税引き上げで対抗している。無駄なことを煽っているのだ。
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