中国政府は、過剰在庫に悩む住宅対策で新手の対策を打ち出した。都市に住む農民戸籍者へ、都市戸籍を容認することで住宅取得を促すというもの。問題は、受入都市側で年金・医療などの社会サービスを提供しなければならず、その経済的余力があるかだ。中国政府は、財政赤字を増やさず地方政府の負担で行う住宅対策をひねり出している。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月3日付)は、「中国、不動産不況の対策本腰か 戸籍制度改革進める」と題する記事を掲載した。
不動産市場の低迷が続く中国で、住宅販売の売り文句は今、大理石の調理台ではなく戸籍になっているようだ。不動産市場の下支え策として、中国ではこれまでに10を超える都市が、住宅購入者に対しその地域での恒久的な居住権に似た権利を与える計画を打ち出してきた。中国南部の経済的な中心都市である広州が、最近この仲間入りをした。北京、上海、深センを含む中国の「一線都市(1級都市)」では初めてのことだった。
(1)「中国で「戸口」と呼ばれる戸籍制度の下では、都市部への移住者は従来、医療や教育を含む社会福祉へのアクセスが制限されていた。そのため、大都市の戸籍を取得することは大きな魅力となる。ただ、こうした変化だけでは不動産市場全体を活性化させるのは難しいだろう。そもそも、大都市の住宅市場は比較的堅調だった。それよりも小規模な都市で住宅の供給過剰は問題になっており、売れ残り住宅が増え続けた。全体的に、中国経済がデフレ圧力に直面する中で消費者心理は冷え込みが続いている」
中国は、都市戸籍と農民戸籍に分けられている。社会サービス格差は、天と地もの違いがある。言われなき「差別」だ。本来ならばこれを撤廃すべきだが、財政負担が大きすぎて不可能である。中国経済の実態は、この程度のものである。世界覇権を狙うなど、もともと逆立ちした話なのだ。
(2)「中国経済の根本的な制約要因となっているのは、住宅販売だけではない。戸籍は長年、農村部と都市部の人々を分離する制度となってきた。中国の人口の約3分の2が都市部に住んでいるが、そのうち都市戸籍を持つのは2023年時点で半数にも満たない。つまり、約2億5000万人の都市居住者が、住んでいる場所で十分な社会福祉を受けられないことになる。多くは大都市で住宅を購入する余裕のない労働者だが、戸籍保有に伴う恩恵を受けられない都市居住者の中には起業家として成功した人や住宅所有者も含まれる」
約2億5000万人の都市居住者は、農民戸籍者である。この中には、農民工も含まれている。それだけに、どれだけの人たちが住宅を購入できるのか。
(3)「このことは、深刻な経済的影響をもたらしている。都市部への移住者は経済的に十分な安心感を持てないため自由に消費することができず、戸籍制度は実質的に家計消費を抑制する要因となってきた。家族を田舎に残したまま都市で働いている人は多い。政府は戸籍制度を改革する都市化5カ年計画を発表しており、この制度的な足かせを認識していることを示した。だが、有意義な変化は安く済まないだろう。農村部からの数百万人規模の移住者を都市の社会インフラに吸収するには、医療など社会福祉プログラムへの支出を増やす必要がある」
都市戸籍を与えることになると、年金問題が出てくる。これまで、都市戸籍を与える条件として、家族に高齢者のいないことが条件であった。この制限を取り外せば、都市側に下線部のような新たな負担が生じる。
(4)「戸籍制度の改革は、学者やシンクタンクの間で長年必要性が指摘されてきたにもかかわらず、なかなか進まない理由もここにある。だが、不動産市場の低迷は地方政府にとってますます差し迫った財政問題となっている。住宅購入を促す材料として戸籍に伴う恩恵を利用することは理にかなっているとの認識が強まっているが、戸籍制度の根本的な変更を目指すのであれば、中央政府は社会インフラへの支出を増やす必要があることに変わりはないだろう」
住宅購入者へ都市戸籍を与える政策は、住宅を購入できない層にとって、余りにも無慈悲すぎる。中国共産党は、こういう差別政策を続けざるを得ないほど未成熟であることを示している。真の共産革命の完成時期は、農民戸籍を無条件で全廃できるときであろう。
(5)「中国政府は、景気活性化のために大規模な刺激策を打ち出すとの期待が高まっていた。これまでのところ、中央政府は地方政府の債務負担を軽減する計画を発表している。ただ、欧米政府が行うような直接的な消費者への現金給付を期待することは非現実的に思われる。それよりも、戸籍に伴う制約の緩和や社会福祉プログラムの充実など、より有望で長期的な政策の方が潜在的な個人消費を大いに刺激する可能性がある」
中国には、現在の経済状況で下線部を実行できる能力が備わっていない。これを実行に移せるようになるのはいつか。見通しは立たないのだ。
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