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中国指導部は、12月11~12日の日程で中央経済工作会議を開催した。25年の経済運営方針を定める年1回の会議である。財政赤字を拡大するなど、意気込みを見せているが、「9つの重要項目」の一つに妙な文言が加わっている。「民政の保障・改善を加えた国民の充実感・幸福感・安心感の増大」だ。経済政策とは不似合いな一節で、ここがポイントである。

何の目的で、この文言が挿入されたか。国民の不満を監視するという「とんでもない」意味合いが込められている。当局は、25年経済が停滞予想であることをすでに予測している。不満噴出を前提に、強制的に「幸福感・安心感を増大させる」というのだ。中国も落ちぶれたものである。

『日本経済新聞(電子版読者メール)』(12月26日付)は、「中国、25年経済方針に『相互監視社会推進』を掲げる不信」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙中国総局長桃井裕理記者である。

11~12日の日程で中央経済工作会議が開かれました。翌年の経済運営方針を定める年1回の重要会議です。今回の方針で注目されたのは「習近平政権の経済政策の方針転換」がいくつか示されたことです。経済不振への強い危機感のあらわれと受け止められています。

(1)「主な方針転換は3つあります。①「適度に緩和的」な金融政策 ②財政赤字比率の引き上げを明記 ③9つの「重点項目」のトップに「内需拡大」を提示。問題なのは、この③の重点項目の9番目に記された「民生の保障・改善を通じた国民の充足感・幸福感・安心感の増大」です。こうした項目は過去の経済運営方針にもありましたが、今回のように充足感や幸福感など「人民の受け止め方」を前面に打ち出してきたのは初めてです。9番目の重点項目「民生」の最後に盛り込まれていたのは、「新時代の『楓橋経験』の堅持と発展」という方針です」

9つの「重点項目」の最後に、「民生」が上げられている。「民政の保障・改善を加えた国民の充実感・幸福感・安心感の増大」に、「新時代の『楓橋経験』の堅持と発展」が入っているのだ。これは、国民の相互監視を意味する。25年経済も停滞予想で、国民の不満が出るので相互監視すると宣言しているのだ。

(2)「『楓橋経験』は、1960年代初頭に浙江省諸曁市楓橋鎮で始まった「民衆主導」の治安管理方法が起源です。「小事不出村、大事不出鎮、矛盾不上交(小さな問題は村から出さず、大きな問題は町から出さず、難題は上に引き渡さない)」をスローガンに、住民が警察組織と一体化して住民自身を管理し、思想の統制を図る運動でした。住民同士の「相互監視社会」といえます。毛沢東はこの運動を「楓橋経験」と名付けて絶賛し、1963年11月に全国での大展開を命じました。その3年後に起きたのが文化大革命です。民衆が動員され、家族や友人、同僚が互いに監視し、密告し合いました」

「楓橋経験」は、1960年代初頭に浙江省諸曁市楓橋鎮で始まった「相互監視」である。毛沢東は、「楓橋経験」を1963年11月に全国展開するように命じた。その3年後に起きたのが文化大革命だ。習近平氏が、この悲劇を繰返すのか不明だが、警戒すべき動きである。最近の人民解放軍の汚職取締りは、この「相互監視」と関係あるのか目が離せないだろう。

(3)「その運動を現代によみがえらせたのが習氏です。習政権下で全土での政治的キャンペーンが始まり、各地の公安組織は「いかに民衆と一体化し『楓橋経験』を実践しているか」を競うようになりました。今回の経済工作会議は「経済の好循環には人々の幸福感が不可欠だ」と意義づけました。その方針は間違っていません。しかし、民生や社会保障改革という項目を「幸福感」という人々の考え方に関する言葉から始めたうえで、最後を「楓橋経験の発展」で締めくくったことには懸念を持たざるを得ません。中央が求める「幸福感」を持つこと自体が思想統制の1つの柱となりかねないためです」

習氏は、国民に「幸福感」を抱くように強制する方針である。不満を取り締まる意向をハッキリ打ち出している。

(4)「そもそも「相互監視」のような項目は、経済政策においてはありえない存在です。そんなものが経済運営方針の重点項目に掲げられた――。この事実から伝わってくるのは「充足感、幸福感、安心感」どころか、不信感以外の何者でもありません。経済分野における言論統制もひしひしと強まっています。中国経済メディアの財聯社は19日、「中国各地の証券監管局が証券会社などに、エコノミストや証券アナリストの対外発信の管理を強化するよう要請した」と報じました。それに先立ち、中国では2人の著名なエコノミストの言論が封殺されたことが話題となっていました」

中国経済を批判するエコノミストへ取締りが行われている。

(5)「その1人が国投証券首席エコノミストの高善文氏です。高氏は12月3日、同証券会社が広東省深圳市で開いたフォーラムで講演し、中国の経済成長率についてこう語りました。「新型コロナや不動産バブルの崩壊が起きたここ数年、中国の経済成長率は実態よりも毎年3%は高かった。高く見積もりすぎた経済成長率は累積10%には達する」。もう一人は11月24日に、東北証券首席エコノミストの付鵬氏が内部の講演会でこう指摘しました。「今年は突如として2000万人のオンライン配車の運転手が出現した。彼らはもともと中産階級だった」。中産階級の没落が消費減退の主要因であるとの主張です。いずれの発言も中国のSNSで物議を醸しましたが、すぐに削除され、2人のエコノミストのアカウントも封鎖されてしまいました」

「北京で物言えば唇寒し」という状況が始まっている。習氏は、明らかに追い詰められている。ここまでやらなければ、政権維持が難しくなっているのだろう。お気の毒な事態になっている。