定着するスマイル・カーブ
ラピダス歩留まり90%へ
AI半導体で付加価値増大
25年に半導体の工場増設
25年度日本経済は、久しぶりに明るい展望が開けてきた。賃金上昇と物価上昇がパラレルに上昇する好循環過程が実現するからだ。24年がその第一歩とすれば、25年はその歩みがさらに確かなものになる。政府見通しでは、名目GDP成長率が2.7%、実質GDP成長率1.2%。「名実逆転」でない本物の経済成長となる。この状態は、22年度から始まったが、25年度はさらに確かな足取りになる。
こうした状況下だが、日本政府は未だに「デフレ脱却宣言」を出さないで、補正予算を組むなど景気刺激策を続けている。24年7月、日本銀行が政策金利を実に13年ぶりに0.25%へ引上げたこと自体、事実上のデフレ脱却状態を示している。デフレ下の利上げは通常、あり得ないからだ。
一方、相変わらずの「日本経済脆弱論」が主張されている。『東洋経済オンライン』(1月5日付)に掲載された、一橋大学名誉教授野口悠紀雄氏の「2025年、日本がもっと『後進国になる』根本理由」は、代表的な脆弱論である。以下に、その見出しを取り上げた。
1)日本は10年前、世界第3位の経済大国だった。2025年には第5位に。
2)世界各国が変わる中で、「止まったままだった日本」。
3)日本人の思考法と基準・尺度が変わらなかった。
日本経済が、「止まったままだった」理由は何であったのか。私は、次の3点を上げたい。
1)平成バブル崩壊後の過剰債務の重圧。
2)少子化に伴う生産年齢人口比率の低下。
3)グローバル化経済による発展途上国の急成長とその追い上げ。
前記の3点は、ほぼ同じ時期の1991~2年に集中して日本を襲った現象だ。仮に、前記の3点が、間隔を置いて日本を襲ったとすれば、日本企業は対応できる時間的な余裕があったはずである。実際には「同時襲来」である。日本企業は、過剰債務を抱えながら生産年齢人口比率の低下で潜在成長率低下に直面した。同時に、旧ソ連崩壊で「冷戦」が終結した。世界経済は一挙に、グローバル化して発展途上国が低賃金で豊富な労働力を武器に、日本企業へ対抗する事態となったのである。
さらに、円相場の急伸も重なったのだ。日本企業にとっては、内外で「天地がひっくり返る」思いをさせられた。日本経済が、「失われた30年」と言われた裏には、こういう環境激変があったのだ。1990年以前の家電製品は、「メード・イン・ジャパン」が世界を制覇した。現在は、人件費の安い発展途上国製品にその座を奪われている。この状況を見れば、野口氏の主張するように、日本経済が、「止まったままだった」印象を与えよう。だが現実は、冒頭に上げたように日本経済は「デフレ脱却」に成功した。これが現実だ。
定着するスマイル・カーブ
日本企業は、高度経済成長時代「B2C」(B=企業、C=消費者)であった。耐久消費財の「メード・イン・ジャパン」は、B→Cの流れである。日本企業は現在、最終製品の生産を止めたが、その後も部品や素材を生産し続けている。つまり、「B2B」(B→B)という形で加工業者に部品や素材を供給し続けている。耐久消費財から「メード・イン・ジャパン」名は消えたが、製品の心臓部には日本製部品や素材が使われている点で変わりない。米国ボーイングの最先端部品の40%近くは、日本企業が供給しているのだ。
こうした「B2C」から「B2B」への変化は、最近の「スマイル・カーブ」という経営用語でも説明可能である。スマイル・カーブとは、製品の上流工程(設計・素材・生産機械)と下流工程(販売・マーケティング・アフターサービス)で高い付加価値を創出するが、中間工程の組み立て工程の付加価値は相対的に低いとされる概念だ。日本企業は、この付加価値の低い組み立て工程を発展途上国へ任せる「B2B」戦略によって、むしろ販路が拡大されて利益率が向上していると評価されている。
日本企業は、「失われた30年」の間に、スマイル・カーブの上流工程(設計・素材・生産機械)を徹底的に磨きあげてきた。労働力不足という切羽詰まった状況下で生産機械の自動化に先鞭を付けてきたのである。最近、注目されているAI(人工知能)半導体開発で、ラピダスが「PCとアクセラレータを結合した」AI半導体で世界初という見事な成果を上げている。これについて、少し詳しい説明をしておきたい。
日本の国策半導体ラピダスとカナダのテンストレントが共同で開発している「エッジAIアクセラレータ」は、2ナノ半導体技術を活用する生成AIを登載する。このプロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」に採択された国策事業である。2027年までに開発を目指しており、研究開発は順調に進んでいる。肝心の「2ナノ半導体」製造のメドもついた。24年12月、「国際電子デバイス会議(IEDM)」で正式に公表されている。
ラピダスの「2ナノ半導体」開発は、未だに誤解・誤報・中傷が飛び交っている。TSMCやサムスンが開発できなかった、電気が微細な回路から漏れないように特定の層に絶縁膜をつくるSLR技術で成功したからだ。「40ナノ」しか製造しない日本半導体技術で、「2ナノ」(SLR技術採用)を開発するのは「逆立ち」現象としている。ただ、世界の半導体基礎技術は、1980年代の日本技術陣が開発構想を発表したものの延長に過ぎないのだ。日本には、潜在的に高い半導体開発能力がある。かつての王者であるからだ。(つづく)
コメント
まだ完全とは言えませんが、日本はあの甚大な震災・人災被害を立派に克服しています。衰えた国に、これだけの成果を為し遂げることができるでしょうか?
いい加減なことを言っている、お気楽な評論家には辟易します。
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