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日本製鉄によるUSスチール買収計画の中止命令を巡り、共和党重鎮のミッチ・マコネル上院議員は米『ウォール・ストリート・ジャーナル』に寄稿し「米国の地政学的利益より、国内の政治的利益を優先した」とバイデン米大統領を強く非難した。マコネル氏は、2024年11月まで共和党上院トップの院内総務を務めていた。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月9日付)は、「日本製鉄は敵ではない マコネル米上院議員」と題する記事を掲載した。

 日本製鉄によるUSスチール買収計画にバイデン氏が介入したことは、米国の経済・安全保障上の利益よりも巨大労働組合寄りの政治を優先させるものだ。米国の同盟国および貿易相手国だけでなく米国民も、バイデン政権がこの主張の根拠になっているとする「確かな証拠」を見たがっている。

(1)「日本は、バイデン政権がなぜ米国の雇用と製造業への大型投資を安全保障上のリスクと考え、米国の最先端の軍事技術を日本が購入することについてはそう考えないのかを疑問に思う公算が大きい。米国務省は先週、この重要な米国の同盟国をさらに強化するため、36億4000万ドル相当の空対空ミサイルを売却することを承認したばかりだ」

米国は、空対空ミサイルを売却した日本の企業である日鉄に対して、安全保障上の理由でUSスチール合併を拒否した。余りにも矛盾した決定である。日鉄が「敵」であるならば、日本へ空対空ミサイルを売却した理由を何と説明するのか。

(2)「バイデン政権が保護主義論者のかゆいところに手が届くような言葉を使ったのは偶然ではなかった。同政権は、レーガン政権時代に通商法案を巡る広範な議論を経て制定された基準(国家安全保障を「損なう」恐れのある脅威についての「確かな証拠」)に口先だけでも賛同することを連邦法で求められていると分かっているのだ」

バイデン氏は、国家安全保障を「損なう」恐れのある脅威についての「確かな証拠」をあげられなかった。米国の最大の同盟国である日本の企業が、国家安全保障の脅威と位置づけられないからだ。

(3)「1980年代に日本の対米投資について米国民の懸念がピークに達していた頃ですら、議員らは、国家安全保障を損なうという理由で自由な通商を妨げるのを正当化するには、高いハードルをクリアする必要があると理解していた。1985年に軍用ボールベアリング生産に特化した米企業を日本企業が買収しようとした際にも、米国での生産を維持するという合理的な条件付きで承認された」

軍用ボールベアリング生産に特化した米企業は1985年、日本企業に買収された。米国での生産を維持する条件があったからだ。今回の日鉄も、この条件を約束したが拒否された。巨大労組のUSWが背後にいたからだ。

(4)「1988年に国防生産法を修正する「エクソン・フロリオ条項」を巡り議論が交わされた際、外国直接投資に対する大統領の検討対象範囲を慎重に制限することを提唱した中心人物は、当時のジェームズ・ベーカー財務長官だった。複数の報道によると、バイデン氏に最も近い国家安全保障のアドバイザーらは、日本製鉄によるUSスチール買収を阻止しないよう求めたという。彼らがもっと早く、もっと強く進言していればよかっただろう」

バイデン氏に最も近い国家安全保障のアドバイザーらは、買収を阻止しないようにもっと早くから動くべきであった。

(5)「バイデン氏は、労組の歴代幹部が長年最も親密にしてきたホワイトハウスの盟友だ。保護主義論者たちはバイデン大統領の最悪の衝動を利用することで、悲惨な結果を招く可能性のある勝利を辛くも手にした。略奪的な中国の貿易慣行を打ち負かすのに必要な同盟関係の強化について深刻に懸念する人は皆、この妨害が短期間で終わることを望まざるを得ない。下院の「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委員会)」は、中国との競争に関する報告書の中で、日本を投資規制などが免除される「ホワイトリスト」の対象国にすべきだと米議会に勧告していた」

バイデン氏は、国益よりも国内政治の利益を重視して決定した。米国鉄鋼業の立直しには、日鉄の技術と資金の支援が不可欠であるからだ。バイデン氏は、「票」を優先した。

(6)「バイデン氏は、「フレンドショアリング(企業の調達先を中国から友好国に切り替える対応)」を貿易・経済競争面での自身の中心政策に掲げていたにもかかわらず、もっと好ましい内容の買収計画の中止を命じた。この買収は、米国内の雇用を増やし、USスチールの生産施設を近代化するための何十億ドルもの投資と、米国の鉄鋼生産の対中競争力を高めるチャンスをもたらす「オンショア」の成果になるはずだった。

バイデン氏は、「フレンドショアリング」を政策の旗印にしていた。それにもかかわらず、日鉄・USスチールとの合併を拒否するという真反対の行動をとった。

(7)「間もなく終わりを迎えるバイデン政権は、米国の産業・労働者・地政学の長期的利益よりも、巨大労組の気まぐれな要求に応じるという短期的利益を優先した。ドナルド・トランプ次期大統領はこれを失策だと認め、逆の行動を取ることができる。トランプ政権は、インド太平洋地域の同盟諸国との協調を進め、対米投資を促すべきだ。主要な敵対勢力がもたらす脅威は、米国が単独で対処するには大き過ぎる」

バイデン政権は、国益よりも巨大労組の短期的利益を優先した。トランプ政権は、この過ちを是正しなければならない。