サムスン衰退の引き金
日本半導体復活への証
TSMCは日本を軽視
韓国経済は漂流化危機

韓国経済は、24年12月3日の大統領「非常戒厳」によって、政治も経済も止まったのも同然な状況に陥っている。現職大統領の弾劾訴追は、今回を含めて3回目という異常事態で1月15日には「内乱罪」容疑で尹錫悦大統領が拘束された。韓国民主主義の本質が問われている事態だが、左右両派の対立は一段と先鋭化している。経済的混迷は、今後も不可避の状態だ。

こうした背景による経済の停滞は、一時的な状況で終るであろうか。実はここ30年ほど、韓国経済を牽引してきたサムスン半導体が、技術的な壁によって付加価値の高い非メモリー半導体が挫折する事態に見舞われている。最先端半導体「5ナノ」で、歩留まり率が20~30%と超低率にとどまり大赤字状態である。製品の70~80%が不良品という最悪事態だ。サムスンは、操業するほど赤字を作ることから、先端半導体から「撤退姿勢」をみせている。

その象徴的な事例は、米国テキサス州での半導体工場建設において、米政府から補助金支給過程で明らかになった。当初計画では、2026年から「2ナノ」工程を稼動するとして、最大64億ドル受け取る見返りに、400億ドル以上を現地に投資する見込みであった。これが、最終的に26%減と大幅に縮小され約47億4500万ドルの補助金で本契約を結んだ。サムスンが、最先端半導体生産を確約できなかった結果である。

サムスン電子ファウンドリー事業部のハン・ジンマン事業部長は24年12月、職員に電子メールを送った。その内容は、「他の大型メーカーに比べて技術力が劣ることを認めなければならない」とし、「成熟(旧型)ノード(工程)の事業化拡大のためのエンジニアリング活動に努めてほしい。新たな顧客の確保に全力を傾けなければならない」と苦悩に満ちたものだった。サムスンは、台湾のTSMCと並ぶ世界的半導体企業でないことを自ら明かしたのである。

サムスン衰退の引き金
サムスンは、技術の壁によって成熟半導体メーカーに止まらざるを得ないと宣言したが、なぜこういう事態に陥ったのか。それは、サムスン半導体が日本半導体技術を「窃取」して始まった、沿革史まで遡らなければならない。サムスンは、日本半導体技術者を高額アルバイトでソウルへ招き、技術を伝授させたのだ。非合法なもので、日本企業へ正式なロイアリティーを払うことはなかった。

こういう形で始まったサムスン半導体が、メモリー半導体は生産できても、技術的に一段上の非メモリー半導体に手が届かなかったのも当然であろう。技術的蓄積がないからだ。

サムスンの技術的脆弱性は、これまで30年以上も改まることなく推移してきた。これ自体が驚きで、サムスン技術陣の「不勉強」を証明している。これは、木造船から鉄鋼船へ飛躍できないようなケースであろう。サムスンは創業以来、必要な技術を外部から導入すれば事足りるとするのが基本方針である。サムスンの出自は商社だ。これが、「必要な技術は仕入れる」という感覚なのだろう。これが、サムスンの半導体寿命を縮めた。非メモリー半導体製造を諦めたからである。

サムスンが、メモリー半導体から非メモリー半導体へ技術的に発展できなかった「壁」とはなにか。それは、製品歩留まり率に現れている。メモリー半導体の製造過程は平易であって、歩留まり率は平均70%とされている。これが、非メモリー半導体になると、製造過程が途端に複雑化する。サムスンの「5ナノ」歩留まり率は、20~30%と推測される。これでは、ビジネスとして成立しないのだ。ライバルのTSMCは、70%見当とみられている。大きな差なのである。

日本の半導体産業は、日本製造業の歴史から分るように、高い品質と生産効率の追求が求められてきた。そのため、技術開発とともに、歩留まりを如何に向上させるかが、企業戦略の重要な柱の一つとなっている。先端技術を駆使した製造プロセスの最適化、微細な欠陥を検出するための高度な検査技術の開発などが挙げられる。

ラピダスは、「2ナノ」操業開始1年で80~90%の歩留まり率が見込める状況だ。前工程と後工程を全自動化できた結果である。この事実が、世間では全く知られていない。TSMCの歩留まり率を抜く見通しであることが、さらに正しい「ラピダス認識」を妨げている。TSMC幹部ですら、ラピダスを「実験企業」程度で軽視しているから驚く。かつてのサムスン同様に、TSMCもすでに「天狗」になっている気配だ。

要約すると、日本半導体は重電機や通信機のメーカーが手がけた関係で、高い品質と生産効率の維持を最大の目標にしている。サムスンには、幅広い製造業発展の歴史がない韓国という「荒野」の中で、ぽつんと始まった企業だ。関連産業が皆無である。日本は、半導体製造装置・素材など関連産業がワンセット揃っている。半導体製造の環境が、全く異なるのだ。

こうした良好な環境から生まれた日本半導体と、関連産業のないサムスン半導体では、製造環境が100%異なる。サムスンは、製造業の歴史のない韓国で、宿命的ハンディキャップを背負っていたのである。ただ、残念ながらその自覚がなかったのだ。

サムスンが、非メモリー半導体を諦めざるを得ない背景には、韓国経済の前近代制が抱える限界による面も確かにある。TSMCは、このことに気づき日本へ接近して熊本工場を建設。筑波に研究所まで開設済みである。日本製造業が、蓄積する高い成果を利用しようとしているのだろう。IBMも日本製造業の高い水準を理解して、「2ナノ」技術をラピダスへ移植した。(つづく)

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