人の子であれば、中国で就職もできずに巷を彷徨する若者の姿に胸を痛める人が増えるのは自然であろう。口先でイデオロギーを唱えていても、空腹が満たされる訳でないからだ。中国共産党内部では、「人の子派vsイデオロギー派」が暗闘を始めている。当然のことが起こっているのだ。
『日本経済新聞 電子版』(1月15日付)は、「中国政局に波風、『主流・不動派』『声なき声派』が暗闘と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。
2025年初め、長く凪(なぎ)続きだった中国政局に波風が目立ち始めた。中国共産党総書記で国家主席の習近平が13年かけて築き上げた「一強体制」。その内側から聞こえてくる不協和音の正体は、中国の政治、経済、社会政策を巡る将来を見据えた路線闘争である。
(1)「共産党中央委員会の理論雑誌「求是」が1月1日に掲げた「重要文章」は、何と2年近く前の習講話そのものだった。国営中央テレビも報道した表題は、「中国式現代化によって強国づくりと民族復興の偉大な業を全面的に推進する」である。その中身は、「中国式現代化」「強国」「共同富裕」などを含め従来方針でしかない。それは22年10月、習が党総書記として異例の3期目入りを決めた後の23年2月7日、党幹部らを前に大々的に披露した抱負である」
中国共産党理論雑誌『求是』は、今年1月号に掲載した習近平論文が、23年2月7日、党幹部らを前に大々的に披露した抱負であったという。「焼き直し」論文でお茶を濁しているところに、政策の行き詰まりを感じざるを得なくなっている。
(2)「(これを)どう解釈すればよいのか。「新しいことは何もないし、出すこともない。従来の大方針を推し進めるだけだ。そういう意味だろう」。共産党政治に精通するある識者は「頑固一徹、何も変えないというメッセージ」と読み解く。中国では党内外で「この十数年間の政策失敗をきちんと反省して大方針を転換せよ」という圧力が一昨年、昨年と徐々に強まってきた。背景には、民生が向上するどころか、生活は厳しくなっているという実態への不満がある」
党内の多数派の雰囲気は、政策の検証を求めているという。習近平派は、これを怠っているのだ。自派に不利な動きになっているからだ。
(3)「こうした非主流派は、現体制で隅に追いやられた各派閥の面々、1980年代に加速して長く続いた歴史ある「改革・開放」政策の時代から活躍した長老らを含む。非主流の一連の勢力は名目ではなく実体的な改革、そして開放的な雰囲気の持続で中国の政治・経済体制、安定成長を維持したいと望んでいる。そして「集団指導」「党内民主」など、かつての共産党の伝統への回帰も志向している。それでも彼らは、この10年あまり声高に自らの主張を叫ぶことなく、様子見に徹してきた。「反腐敗」の名の下、時に政敵をつぶす習体制下では、集団指導といった主張が一種の政治的タブーだったからだ」
共産党非主流派は、「改革・開放」政策の時代から活躍した長老らを含んでいる。「集団指導」「党内民主」など、かつての共産党の伝統への回帰も志向している人々だ。
(4)「彼らは「声なき声派」といってよい。いわば「サイレントマジョリティー」である。主要メディアへの露出が一切ないため目立たないが、裾野はかなり広い。「声なき声派」の立場からみれば、今の主流派の姿勢は「2年前からの思考ストップにすぎず、目の前にある危機を無視している」「やる気のなさの象徴」という解釈になる。一方、習政権中枢にいる主流派は「政治・経済その他の大方針が揺らぐことはあり得ない」として、抜本修正を求める圧力を押し返そうとしている。動かずに現状のまま押し切ろうとする「不動派」だ」
非主流派は、「声なき声派」でもある。習政権中枢にいる主流派は、改革開放など抜本修正を求める圧力を押し返そうとしている。
(5)「この路線闘争は、習近平長期政権の今後に大いに関わっている。次期共産党大会があるのは27年秋だ。そこまで残り2年半あまり。「不動」を主張する主流派は、今後2年半あまりの間、「現政権の政策、大きな方針は全て大成功だった」という一種の「神話」を維持しようとしている。昨年から一段と広がった不満は、習周辺を固めているコアな人々とは距離がある党内勢力である」
次期共産党大会があるのは27年秋だ。そこまで残り2年半あまり、活発な路線闘争が始まる気配である。
(6)「この問題を考える際、欠かせない勢力が、中国共産党の統治を守護する人民解放軍だ。24年12月、中央軍事委員会の機関紙、解放軍報は「集団指導」「党内民主」などを大々的に訴える論評を連続して掲載した。「党書記が一人で勝手に決めてはいけない」という主張もあった。「習一強」体制への批判を含むと解釈される一連の論評が出たのは、同11月末に習派主流の「軍内代表」と目される中央軍事委メンバー、苗華が重大な規律違反の疑いで停職処分になった直後だった」
中国人民解放軍内部は、「集団指導」「党内民主」などを大々的に訴える論評を連続して掲載している。こうした事態は、11月末に習派主流の「軍内代表」と目される中央軍事委苗華が、重大な規律違反で停職処分になった直後からだ。明らかに、軍内部での動きも変わってきた。
(7)「これは苗華の事実上の失脚が、反主流派の「声なき声派」の指弾によって追い込まれてから渋々とらざるをえなかった防御的な措置だったのは明白だ。苗華への停職処分で新たな段階に入った軍内闘争はなお続いている。実力組織である軍の中で、これほど目に見える形の闘争が繰り広げられるのは、歴史的に見ても異例である」
一枚岩とみられてきた中国人民解放軍が、改革開放路線への復帰を求めて動き出している。これは、習近平氏にとって要注意点である。
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