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習近平国家主席が、金融部門まで介入している。経験豊かな金融専門家を排除して、自らに忠実な官僚を登用しているからだ。中国は、数兆ドルに上る地方政府の簿外債務の処理や、銀行に蓄積された不良債権(不動産ローン)処理問題を抱えている。この解決には、高度の金融知識を持つ金融専門家が不可欠である。こうした微妙な時期に、金融部門の幹部を入れ替えるリスクが指摘されている。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月16日付)は、「中国が金融セクターの統制強化、大物幹部も追放」と題する記事を掲載した。

中国の習近平国家主席が金融業界への統制を強めている。一度に1人ずつというやり方で、だ。中国は何十年もの間、欧米の金融部門から学ぼうとしてきた。それが今では、自国の経済発展を導いた国際経験豊富な金融専門家の多くを追放する一方で、共産党の指令実行や資本主義の行き過ぎの否定に熱心な新世代の忠実な官僚を登用している。

(1)「習政権下で追放された金融業界の大物には、中国大手企業の上場を支援してきたドイツ銀行の元実力者、中国大手資産運用会社の最長在任会長、1990年代から2000年代にかけて中国金融業界の発展に多大な役割を果たした複数のバンカーなどがいる。大物の追放と並行して、中国の金融業界における市場志向を弱め、業界をより直接的に習氏の管理下に置くための措置も実施されている」

習氏は、金融界の実力者を「汚職追放」の名目で追放している。金融業界における市場志向を弱め、習氏が金融業界を管理下に置くための措置とされている。習氏は、ここまで「疑心暗鬼」になっている。中国経済の苦境ぶりを物語っている。

(2)「共産党は、銀行関係者の高額な報酬パッケージの抑制、政治学習会の強化、金融問題に関する意思決定の一元化に取り組んでいる。中国人民銀行(中央銀行)の総裁職はこの数十年、国際経験を持つテクノクラート(実務家)が務めてきたが、党内での地位は低下している。多くの経済学者や銀行関係者は、この改革によって、中国の台頭を支えてきたアニマルスピリットが失われることを懸念している。金融専門家や規制当局者が、トラブルに巻き込まれかねない過ちを避けようとして保守的になるからだ」

金融の生命線は、成長分野へ融資して企業を育成し経済成長へ貢献させることだ。バンカーの腕の見せ所はここにある。習氏は、こういう金融の機能を否定して、単なる「資金配給所」に格下げしようとしている。こうして、中国経済は、発展の芽を摘まれるのだ。

(3)「中国はまた、複雑な金融リスクに直面している時期に、国際経験と専門知識を持つバンカーや規制当局者を失っている。これらのリスクには、数兆ドルに上る地方政府の簿外債務の処理や、銀行のバランスシートに蓄積された不良債権(不動産ローン)の消化などが含まれ、高度な監督が必要とされる。習氏は、金融業界は自己利益に重点を置き過ぎだと考えている。銀行とその顧客の利益ではなく、共産党と国家のニーズに奉仕すべきとの立場だ。習氏の説明によると、その目標は経済発展の柱に対する党の支配を確立し、国家の復興という「中国の夢」に向けて政府によるリスク管理や効果的な資本の誘導を可能にすることにある」

中国は、不動産バブル崩壊という「国難」に遭遇している。海外から多額の債務を背負っている状況下で、金融専門家を排除すればどうなるか。分りきった過ちを犯している。

(4)「習氏は昨年、当局者らに対し、「実体経済に奉仕することが金融の義務だ」と語った。「金融が自己循環と自己拡大に集中すれば、源のない水、根のない木となり、遅かれ早かれ危機が起こる」と強調した。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が共産党の規律検査機関の開示情報を調べたところ、中国当局は2022年以降、規制当局・銀行・保険会社といった金融セクターの関係者500人超を調査対象としてきた。その一部は何年も前に退職していた。昨年の調査対象者のうち少なくとも85人は、中央政府管理下の金融機関に勤務していた。マクロ経済コンサルティング会社ガベカル・ドラゴノミクス(龍洲経訊)によると、2019年より前は、調査対象となる金融セクター関係者は毎年10人に満たなかった」

習氏は、不動産バブルの責任を金融業界へ押しつけようとしている。習氏自らの責任を回避しているのだ。習氏こそ最大の不動産バブルの「受益者」である。地方財政が、土地売却益で潤い中国軍の拡大を実現し、自らの国家主席3期目を実現させたからだ。こうした事実を棚上げして、金融界をやり玉に挙げている。

(5)「習氏の汚職一掃への取り組みを追跡している専門家らは、この取り組みはおおむね、権力ネットワークを解体し、誰が監督者であるかを警告することの方に軸足を置いていると語る。追放されたバンカーの後任は、欧米での経験はほとんどないが、政治的な信頼性が高いために登用されたケースが多い。外資系銀行の元中国人幹部は、「過去20年間の行動を調査すれば、清廉潔白な人など見つかるはずがない。習氏はこの世代のバンカーを見せしめにしたいのだ」と述べた。「選択的な法執行だ。これは政治だ」と指摘」

習氏は、人事面で大きな間違いを犯している。中国軍では、軍務よりも習氏への忠節度で昇進させている。この手法を金融業界へ持ち込んだ。金融のベテランより、素人でも忠義だてする人物が昇進の基準になった。中国の危機へ向う足音が、聞こえるようだ。