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ここ3年間で、大卒初任給は9%も上昇している。賃上げは、正当な企業コストという認識が強まってきた。25年卒の大卒求人倍率(大卒求職者に対する求人数の割合)は1.75倍で3年連続の上昇である。大量採用したバブル入社世代が、50代後半になってきたことも影響している。今後、退職者の増加が見込まれるので、多くの企業が若手の採用を急いでいるからだ。こうして、25年新卒採用では、初任給30万円企業も珍しくなくなってきた。売り手市場である。

『日本経済新聞 電子版』(1月18日付)は、「初任給30万円時代へ 3年で9%上昇 売り手市場が後押し」と題する記事を掲載した。

ファーストリテイリングや大成建設など大手企業が、大卒などの初任給を30万円台に乗せてきている。物価高に加え、新卒採用の売り手市場が激化していることが背景にある。2024年度までの過去3年間で主要企業の平均初任給は約9%上昇し、賃金全体の伸び率を1ポイント以上上回る。若手に比べて抑制されている中高年の賃上げも課題となりそうだ。

(1)「ファストリは、25年3月以降に入社する新卒社員の初任給を、現在の30万円から33万円に引き上げる。年収ベースで約10%増の500万円強になる。「グローバル水準の少数精鋭の組織へと変革を進め、企業としてさらに成長する」(柳井正会長兼社長)狙いだ。三井住友銀行も26年4月入行の大卒初任給を現状の25万5000円から30万円に引き上げる。総合商社やコンサル会社などとの人材争奪戦が激しくなるなか、処遇改善を急ぐ。このほかJR東日本や大成建設も25年春に入社する大卒総合職の初任給を5〜7%程度引き上げる方針を示している」

これまで銀行の初任給引上げは遅れていた。それが、三井住友銀行のように30万円を聞くようになった。日本経済が、「金利のある世界」へ戻り、銀行利益の回復が望める「正常化」が始まる証拠だ。大いに、喜ぶべきことである。

(2)「初任給が、引き上げの動きを加速させたのは22年以降だ。専門人材が不足するゲームやIT(情報技術)業界で主要企業が競って引き上げた。人手不足に直面する小売りや建設、鉄道に加え、優秀な人材確保を狙う商社や金融機関など幅広い業種にこの動きが波及している。日本経済新聞の調査では、24年度の主要企業の平均初任給は、約24万0800円で21年度比8.8%上昇した。この間の一般労働者の平均賃金の伸び率(7.4%)を1.4ポイント上回る。労務行政研究所によれば、24年度に初任給(全学歴)を引き上げたのは主要企業の81%に達する。21年度は20%にとどまっていた」

24年度の主要企業の平均初任給は、約24万0800円で21年度比8.8%上昇した。この間の一般労働者の平均賃金の伸び率(7.4%)を1.4ポイント上回っている。初任給引上げが優遇されている形だ。

(3)「企業が、初任給引き上げを進める理由の一つは物価高だ。24年春季労使交渉では33年ぶりの高水準の賃上げが実現したものの、24年11月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の前年同月比上昇率は2.7%で、2年半以上にわたり2%以上で推移。実質賃金は11月まで4ヶ月連続でマイナスだ。所得が低く貯蓄の乏しい若手ほど負担感は大きく、生活保障のための賃上げの必要性が高まる」

実質賃金が、マイナスというのは日銀の金融政策に責任がある。日銀総裁が、円安を許すような「不用意発言」を続けることに責任の一半はある。為替市場をいつも緊張させているような「ものものしさ」が必要なのだ。余りにも本音を語りすぎている。市場との駆け引きを忘れているので、投機筋から甘くみられているのだ。

(4)「長く日本の賃金は、入社時は低い水準に抑えられ、年齢とともに上昇し、50代でピークに達する年功型が標準だった。全体平均を上回る初任給の上昇が続くなか、世代間の賃金格差も縮小しつつある。24年の賃金構造基本統計調査(速報)では、20代前半と40代前半の平均賃金(月額)の差は11万8000円で、14年(12万7000円)に比べて9000円程度小さくなった。多くの企業は、若手への配分を手厚くする一方で、中高年の賃上げを抑制している。処遇改善が若手に偏ることに不満を感じ、中堅の労働意欲が低下するリスクもある。24年に16年ぶりに初任給を引き上げた住友生命保険は、30代以上の中堅社員の年収を引き上げる人事制度の導入も進める」

初任給の大幅引上げは事実上、年功序列賃金制を崩していくであろう。55歳までの昇級はあるが、その後は引下げられている。これが不満であれば、転職が一般化していく。こうして、日本の賃金制度は年功序列制から脱皮するのであろう。「賃金革命」が始まるのだ。

(5)「パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は、「年功型の賃金が修正されれば、長く会社に勤めるインセンティブが低下する側面もある。若手人材の定着には、研修の充実など成長機会の確保も重要になる」と指摘する」

長く会社に勤める経済的インセンティブは、企業にも個人にも消えかかっている。惰性で在籍する社員よりも、意欲のある転職者を迎えた方が生産性は上がるのだ。しだいに、米欧型へ移行する感じである。