人民元安が続いている。トランプ関税で60%超が予告されているためだ。中国の対米輸出が不振になれば対ドルの人民元が進むという想定である。
1月10日の上海市場でオンショアでは、一時1ドル=7.3328元と、2023年9月に記録した安値7.3503元に接近する場面があった。この水準を超えると、2007年12月以来、17年1カ月ぶりの元安水準に突入する。中国経済が、トランプ関税に揺さぶられている構図がハッキリと浮かび上がっている。
中国は、人民元安でトランプ関税の一部をしのげる面はあるが、中国から資金流出が起こる危険性を抱える。24年11月末の外貨準備高3兆2658億ドルが、減る事態になれば「大事」である。
『ロイター』(1月19日付)は、「人民元安はどこまで進むか、内憂外患の中国と第二次トランプ政権=植野大作氏」と題する記事を掲載した。植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジストである。
昨今の外国為替市場で進んでいるドル/人民元相場の上昇には、「ドル高」だけでは説明できない「元安」の要素が絡んでいると推測される。いったい何が元安進行の原動力になっているのだろうか。
(1)「考えられる背景は、2つある。第一は、中国人民銀行(中央銀行、PBOC)による金融緩和期待の高まりだ。昨年12月に中国共産党中央政治局の常務委員会は、低迷する国内景気をテコ入れするため、「より積極的」な財政政策と「適度に緩和的」な金融政策を実施することを決定し、国営新華社通信を通じて発表した。PBOCの金融政策スタンスは「緩和的」、「適度に緩和的」、「穏健」、「適切に引き締め的」、「引き締め的」の5段階に分類されるが、昨年までは中立を意味する「穏健」な金融政策運営スタンスが長く採用されていた。「適度に緩和的」な金融政策の運営方針が採用されるのは、2010年以来、14年ぶりの出来事だ」
人民元安の背景の一つは、14年ぶりの金融緩和政策を発表していることにある。
(2)「第二は、米国で第2次トランプ政権が発足した後に予想される「米中関税バトル」の再発懸念だ。20日に2期目の就任式を迎えるトランプ次期大統領は、政権発足後には中国からの輸入品に10%の関税をかけると表明しているが、昨年の大統領選挙戦では、中国からの輸入品に60%の高率関税をかけたり、中国メーカーの北米産電気自動車に100─200%もの関税を課したりする可能性に言及していた。米国経済も相応の打撃を受けるだろうが、巨額の対米貿易黒字を稼いでいる中国が被る経済的なダメージの方が大きいとみる市場関係者が多い。外国為替市場ではドル高・元安圧力が発生するとみられる」
もう一つの人民元安の背景は、トランプ関税で60%超の引上げ予告である。60%もの関税をかけられたら、中国経済は「失速」しかねない影響を受ける。
(3)「第1次トランプ政権下で米中両国による関税引き上げの応酬が続いた19年から20年にかけて、人民元はそれまで中国の通貨当局がドル高・元安の進行を阻止する防御線に設定していた「1ドル=7.0元の壁」を突破し、断続的に7.2元界隈まで売られている。
第2次トランプ政権の発足を間近に控え、為替市場関係者の間で当時の記憶が蘇りつつあることが、昨今の人民元安の一因になっている可能性が高い。折しもロシアのウクライナ侵攻後、西側企業によるサプライチェーンの脱中国化が進むのではないかとの懸念が高まっており、米中関税戦争の再発懸念が人民元の先安観を増幅している面もあるだろう」
西側企業は、サプライチェーンの脱中国化が進む気配をみせている。中国が、「世界の工場」でなくなるという懸念が強まっているのだ。
(4)「第2次トランプ政権による関税引き上げ攻撃によって生じる中国製品の価格競争力の低下を一部減殺できるため、中国の通貨当局が緩やかな元安の進行を容認する可能性はある。一方、「中国政府が元安の進行を黙認している」との見方が中国社会に広がると、ドル建てでみた銀行預金の評価額に敏感な中国人マネーのドルシフトが助長されてドル高・元安に歯止めをかけるのが難しくなり、中国企業のドル建て債務の返済負担が重くなって中国の金融市場が不安定化するリスクもある」
中国が、トランプ関税を凌ぐために人民元安を放置すれば、資金流出が起こることと、中国企業のドル建て債務の返済負担が重くなるリスクが高まる。こうして、人民元安を放置できない状況下にある。
(5)「中国がデフレの定着を防ぎつつ、第2次トランプ政権との間で再発する可能性が高い関税バトルの打撃を緩和するには、積極財政、金融緩和、通貨安容認の3つを組み合わせた政策運営が最適解になりそうだ。ホーム・カレンシー・バイアス(自国通貨志向)が低いと言われている中国人投資家の間で、人民元の先安観が強まり過ぎると管理フロート制の運用が不安定化するリスクがある。実際、13日に開催されたPBOCと為替当局が主催するフォーラムである中国外国為替市場指導委員会は、今後の人民元相場を「基本的に合理的で均衡の取れた水準」で安定させるとの方針を改めて表明。市場管理を強化、景気の循環変動を増幅するような市場の動きを是正し、市場の秩序を乱す行動には厳正に対処、為替オーバーシュートのリスクを予防する、との声明を発表している」
GDP世界2位の中国が、未だに自由変動相場制に移れない基本的な脆弱性を抱えている。資本移動の規制を行っているところに根本的な弱点があるのだ。現状では、積極財政、金融緩和、通貨安容認の3つを組み合わせた政策運営が最適解になると指摘している。大型財政出動が不可欠になってきた。習近平国家主席が、最も嫌っている政策出動である。
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