米国内で合併禁止へ反論
斜陽産業を救う白馬へ矢
米企業支える日本の投資
日鉄が米鉄鋼業を一新へ
米国バイデン政権は、政権最後のギリギリの段階で、最大の同盟国である日本へ信義を裏切る決定を行った。日本製鉄によるUSスチール合併が、米国の安全保障を危険にするというのだ。鉄鋼が、兵器製造の基幹産業であるという意味からも、鉄鋼業は米国資本によって経営されなければならないとしている。
米国鉄鋼業は、これまで高関税により保護されてきた。その結果、満足な設備投資も行わず「浮利」を追う商社的な存在になり果てた。米国鉄鋼業は現在、古い設備で稼働する従来では考えられない姿に落ちぶれた。USスチールは、米国で古い歴史を誇る名門企業だが、実態は近代化投資も行えない財務内容へ落込んでいる。ここへ登場したのが日鉄である。USスチール合併で、近代化投資を行い米鉄鋼業の再建を図ろうとしたのである。
鉄鋼の主要ユーザーである米自動車業界は、今回の合併を歓迎した。理由は、USスチールが、日鉄と合併することで鋼板コストの引下げが期待できるからだ。米国の自動車製造での鋼板コストは、車両の総製造コストの約10%から15%を見当とされている。それだけに、鉄鋼価格の上昇は自動車業界でも頭痛の種。日鉄の新技術がUSスチールへ持ち込まれれば、鉄鋼製品の質が上がって価格引下げも可能になるのだ。こうした、消費者利益になるのが、今回の合併案である。バイデン政権は、これを拒否したのだ。
米国内で合併禁止へ反論
日鉄とUSスチールは、今回の合併拒否の決定が政治的理由で、経済的メリットを拒否したものである。米国内でも、このような反応が出ている。
米共和党重鎮のミッチ・マコネル上院議員は、米『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(1月8日付)に寄稿した。「日本製鉄は敵ではない」という表題で、「米国の地政学的利益より、国内の政治的利益を優先した」とバイデン米大統領を強く非難した。マコネル氏は、2024年11月まで共和党上院トップの院内総務を務めていた人物である。WSJへの寄稿では、次のような点を指摘している。
「日本は、バイデン政権がなぜ米国の雇用と製造業への大型投資を安全保障上のリスクと考え、米国の最先端の軍事技術を日本が購入することについてはそう考えないのかを疑問に思う公算が大きい。米国務省は先週、この重要な米国の同盟国をさらに強化するため、36億4000万ドル相当の空対空ミサイルを売却することを承認したばかりだ」
米国は、日本へ36億ドル余の空対空ミサイルを売却した。信頼できる同盟国であるからこそ可能になったミサイルの売却のはずだ。一方では、「安全保障」を理由にして日鉄・USスチールの合併を拒否する。余りにも身勝手な決定というそしりを免れまい。
「外国からの直接投資は、米国社会を豊かにし海外の友好国やパートナー国と絆を深める。下院の『米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会(中国特別委員会)』は、中国との競争に関する報告書の中で、日本を投資規制などが免除される『ホワイトリスト』の対象国にすべきだと米議会に勧告した。中国の影響力に対して対米外国投資委員会(CFIUS)をより効果的に活用できるようにすることが、その狙いだった」
米下院の中国特別委員会は、米議会へ日本を投資規制などが免除される「ホワイトリスト」の対象国にすべきだと勧告したほどだ。その日本に対して、「安全保障上」の理由で日鉄・USスチール合併を拒否するとは、全く辻褄が合わない決定であることを浮き彫りにしている。
「間もなく終わりを迎えるバイデン政権は、米国の産業・労働者・地政学の長期的利益よりも、巨大労組の気まぐれな要求に応じるという短期的利益を優先した」
バイデン氏は、昨秋の大統領選挙前から今回の合併を拒否する発言を行い、「労組の味方」であると広言してきた。合併に反対するUSW(全米鉄鋼労組)へ肩入れしたのだ。
日鉄の森高弘副会長も、WSJ(1月15日付)へ「日本製鉄、バイデン氏を訴えた理由」と題した投稿をしている。
「バイデン氏が大統領再選を目指した選挙活動を展開する中で、全米鉄鋼労働組合(USW)は昨年2月、日本製鉄による買収に反対するUSWの立場への支持を同氏が約束したと発表した。バイデン氏がわれわれの経営統合への反対を表明したのはその翌月の3月、CFIUS(対米外国投資委員会)が正式に審査を開始する前のことだった。それから間もなくして、同氏はUSWの支持を獲得した。一方、CFIUSはわれわれとほとんど向き合わなかった。昨年9月にCFIUSから1通の書簡を受け取ったが、USW執行部の主張で埋め尽くされていた」
CFIUSが、バイデン氏のUSW寄り姿勢を反映して、日鉄・USスチール側へ真摯な対応しなかったと指摘している。こうしたCFIUSの動きは、米共和党議員からも事前に「証拠保存」の必要性を指摘されていたほどだ。CFIUSの姿勢は、訴訟問題へ発展が予想されるほど偏っていたのであろう。日鉄とUSスチールは、米国政府を訴訟へ持ち込んだ。(つづく)
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