感情論一辺倒の弾劾成立
李健煕嘆く「政治4流」
韓国碩学の洞察力に敬意
李在明氏は立候補辞退を
韓国政治は、不安の坩堝と化している。国家元首である大統領が、「内乱罪」容疑で逮捕される異常事態へ突入したからだ。
身柄拘束中の尹錫悦大統領の勾留期間満了は、1月27日である。地裁は、検察による拘束延長申請を二度も却下した。検察は26日、尹氏への事情聴取を一度も行わないで起訴を決定した。これにより、最長6カ月間の身柄拘束が可能となる。尹氏側の弁護団は、非常戒厳が「統治行為で内乱罪にあたらない」として争う構えだ。
地裁は当初、尹氏の逮捕を認めたがその後は、検察による拘束延長を二度も却下するなど、微妙な変化をみせている。この間に、国内でどのような事態が起こったか。それを整理しておく。韓国司法は、世論の変化に機敏であるからだ。
1月19日、尹錫悦大統領に対する逮捕状が発行されるや、興奮した大統領支持者数百人がソウル西部地方裁判所へ乱入する事態へ発展した。暴徒は、同地裁の事務用機器や施設物を壊し、警察の盾や警棒で警察官に暴行を加える事態となった。この結果、80人余が逮捕された。
韓国では過去4回、こうした裁判所乱入事件が起っている。裁判所の決定に対する民衆の不満が爆発したものである。デモ隊が、暴徒化する事態は異常である。法治主義国家ではあり得ないことなのだ。
今回、尹大統領を逮捕した際の令状は、「被疑者が証拠隠滅する恐れがある」とする15文字だけであった。法律専門家は、「この短い令状発布理由だけを見れば、ほぼコソ泥レベルだ」とされ、「容疑に対する理由を明確にすべきだった」と指摘されるほどだ。国家元首逮捕令状が「15文字」とは、ある種の意図を感じるほかない。野党「共に民主党」の李在明代表は2023年9月、ソウル中央地裁が逮捕状を棄却した際に、逮捕棄却理由をなんと「600字」もつかって説明したほどだ。
こうした、地裁判事による異なる対応に対して、国民が「真実の解明ではなく、判事の考えによって極と極を行ったり来たりする」と受け取るっている。司法への不満と怒りが、今回の乱入事件の背景にあるのだ。
日本敗戦の際、米占領軍総司令官マッカーサーは「天皇逮捕」を回避した。日本国民における天皇の地位が絶対的なものであることを知っていたからだ。同時に、天皇が戦後復興で地方行脚し、国民の絶望感へ希望を持たせることも理解していた。どこの国でも、国家元首とはこういう役割を担っている。韓国は、なんと15文字で逮捕を決めたのである。
感情論一辺倒の弾劾成立
大統領による「戒厳令」は、異常事態である。民主政治の根本を揺るがす事態であるからだ。1987年の民主化以来、初めての事態で国中が驚きと不安のどん底へ突き落とされたことは紛れもない事実であろう。国民が、こぞって尹大統領弾劾賛成へ走ったのも無理からぬところだ。左派陣営は、これまで「平時になぜ、こういう異常事態が発生したのか」という根源的な問いかけを一切していない。ただ、「けしからぬ大統領」の一言で片付け、早急な大統領選を要求しているだけである。
左派陣営は、再び大統領ポストを握る「好機到来」という認識だけが先行している。最大野党「共に民主党」は、これまで気に入らない閣僚に対してことごとく弾劾を成立させて、尹政権を追い詰めてきた事実に「頬被り」している。国民が、こういう現実を見聞した今、「悪いのは、尹大統領だけでなく、共に民主党にも応分の責任がある」という認識に変わりつつある。これが、世論調査結果に表れてきたのだ。
最近、複数の世論調査で与野党の支持率が逆転する結果が相次いでいる。与党「国民の力」が、最大野党「共に民主党」を上回るようになっているのだ。大手調査会社のリアルメーターが1月20日に発表した世論調査で、「政権与党による政権延長を求める」との回答が48.6%を記録した。「野党による政権交代を求める」の46.2%を上回った。リアルメーターが、1週間前に行った同様の調査と比較すると、「政権延長を求める」は7.4ポイント増え、「政権交代を求める」は6.7ポイントも下落した。
韓国の世論が、しだいに冷静さを取戻しつつあることは事実だ。経済不安が、じわりじわりと迫っているからだろう。国内消費は、政治不安が広がった結果、消費者心理を縮小へ向わせている。韓国は、政治不安に対して極めて敏感である。すぐに財布の紐を締めるパターンだ。過去の大統領弾劾時と異なるのは、経済不振を輸出でカバーできない点である。中国は、不動産バブル崩壊の渦中にある。それだけでない。輸入代替を積極的に進めており、韓国からの中間財輸入に依存しない「自立体制」が整ってきた。
韓国経済は、こうして内外で「袋小路」へ入り込んでいる。政府は1月早々に、25年のGDP成長率を1.8%へと引き下げた。昨年7月時点の予測では2.2%であった。韓国銀行(中央銀行)は、2025年のGDP成長率は1.6~1.7%とした。昨年11月時点の1.9%からの下方修正だ。理由は、12月の非常戒厳宣言に端を発した政治的不確実性と内需後退を挙げた。
世界の3大信用格付け会社のうちムーディーズとフィッチの2社が、非常戒厳に伴う「政治的混乱が長引けば、国の信用格付けが下落する可能性がある」と警告した。韓国の信用格付けは、アジア通貨危機が起きた1997年に投機的等級(ダブルB格以下)まで下落し、以前の水準を回復するのに18年もかかった経緯がある。(つづく)
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