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日本政府は、ラピダスの資金計画を全面的に支援する体制を組む。技術面の見通しがついている結果だ。こうした姿勢に転じた裏には、NECや日立製作所などのDRAM事業を統合し発足したエルピーダが12年、資金面で行き詰まり会社更生法を申請した苦い経験があるからだ。高い技術を持ちながら、挫折させたという政府の反省が根幹にある。

ラピダスほど誤解・中傷されている企業もない。国内メディアが、ラピダスの技術開発力を正しく報道しないで「色眼鏡」でみてきたことも理由だ。エルピーダが頭にあるからだろう。『朝鮮日報』(1月26日付)によれば、日本人記者が1年前「ラピダスは結局失敗に終わるのではないでしょうか。業界では、『ラピダスは詐欺』といった言葉も出回っています」と朝鮮日報記者に語ったほど。日本は、半導体で負け癖がつき自虐的になっているのだ。

『日本経済新聞 電子版』(1月27日付)は、「自民半導体議連の山際会長、ラピダスに『機動的に資金』」と題する記事を掲載した。

国内半導体産業の復活をかけたラピダスで、最先端品の試作が4月に始まる。自民党半導体戦略推進議員連盟の山際大志郎会長は日本経済新聞の取材に「アジャイル(機敏に)に資金提供できるようにする」と強調した。

(1)「政府は会期中の通常国会で、ラピダス支援に向けた法改正案の審議を予定する。山際氏は「諸外国は政府が主要産業に力強くお金を投じている。それが21世紀型の産業支援のあり方だ」と語った。さらに2012年に経営破綻したエルピーダメモリなどを念頭に積極的な資金支援を続ける考えを示した」

諸外国は、政府による主要産業支援政策を行っている。日本もこれに倣うだけである。日本だけが、突出しているわけでないのだ。

(2)「山際氏は、過去の国策プロジェクトについて「政府の支援が中途半端だった。最後まで責任を取るべきだった」とみる。こうした反省から政府は24年11月に閣議決定した経済対策で、人工知能(AI)・半導体産業基盤強化に30年度までの7年間で10兆円以上を支援する枠組みを示した。半導体産業を長期支援する体制を示すことで民間の投融資を呼び込む」

日本政府は、グローバル経済という足かせで産業支援政策に躊躇した。それが、エルピーダメモリという悲劇を生んだのだ。

(3)「ラピダスの社員数は24年末時点で約600人。多くが40〜50歳代で、米韓の半導体メーカーや国内電機大手で腕を磨いたベテランたちだ。約150人が米ニューヨーク州にあるIBMの拠点で最先端半導体の製造技術や装置の扱い方を学ぶ。4月の試作開始までに数十人が帰国し、学んだ技術をもとに量産準備にはいる」

半導体の日本人ベテラン技術者が、ラピダスへ結集した。その意味では、「技術の断絶」は起こっていない。

(4)「半導体はウエハーに微細な回路を形成する「前工程」と、ウエハーを個別のチップに切り出して電極形成や封止を施す「後工程」がある。ラピダスは前工程と後工程を一貫して手掛け、製造データをAIで分析して短期間で歩留まり(良品率)を高める戦略をとる。顧客の製品開発を素早い半導体供給で支える短納期を最大の武器とする。27年の先端半導体の量産のために顧客確保も本格化する。米テンストレントや米エスペラント・テクノロジーズ、プリファード・ネットワークスといった新興企業とAI半導体の設計開発で協業すると発表した。ラピダスはTSMCのセカンドソース(代替供給元)としての受注獲得に加えて、新興企業向けに素早く供給する強みを生かして差別化を狙う」

ラピダスは、世界初の「前工程」と「後工程」を全自動化した。これが、驚異的に高い歩留まり率を実現する。市川ラピダス社長は、「2ナノ」で操業開始後80~90%の歩留まり率になると英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)へ明らかにした。TSMCのセカンドソースになり得るという自信を見せている。

毎日新聞『エコノミスト』(2月4日号)はまだ、ラピダス「2ナノ」技術を危ぶむ記事を掲載している。これは、次の最新情報を見落としている結果だ。ラピダスは、GAA(ゲート・オール・アラウンド)と呼ばれる複雑な構造を使い、電気が微細な回路から漏れないように特定の層に絶縁膜をつくる「SLR技術」に世界で初めて成功した。昨年12月、米サンフランシスコで開催された「国際電子デバイス会議(IEDM)」で発表されたもの。最新情報だけに、取材から漏れたのだろう。残念だ。

(5)「ラピダスは、将来的にロボティクスや自動運転、遠隔医療などの先進分野で顧客の要望に合わせて最適化した専用チップの受託獲得を目指す。既にシリコンバレーに営業拠点を設けて30〜40社と受注交渉を進めている。政府の通信インフラ整備にラピダスを活用する構想もある。政府が後押しする次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」を手がけるNTTによる出資や、日本勢で初めて政府クラウドを受託したさくらインターネットとの連携がその象徴となる」

ラピダスは、テンストレントと提携して「CPUとアクセラレータをつなげた」AI半導体の試作を行っている。現在のAI半導体の主流であるGPUと異なる手法である。NTTが、推進するIWONとラピダスは「連結」する目的を共有している。この点も見落とされている重要なポイントだ。

(6)「山際氏は、「ラピダスの半導体をIOWNの光電融合技術とつなげ、日本発のプラットフォームを開発する」構想を描く。AIの普及に伴うデータ量の急増で、消費電力を低減させた高速光データ通信網の開発にもつなげてラピダスの収益基盤を広げる」

ラピダスは、NTTのIOWNと連結し「メード・イン・ジャパン」として、世界標準になる次世代通信基盤(6G)の基幹部分を担うはずだ。こういう極めて重要な部分が、一般報道では素通りされている。