日銀は先週、政策金利を0.5%へ引上げた。この裏には、日本に本格的な賃上げ時代が来たという見通しを持っていることが分った。労働受給の逼迫が起こっているからだ。大手企業は、新入社員寮を建設して割安料金で入居させるなど、福祉厚生施設に力を入れ始めている。高度経済成長時代は、福祉厚生施設が企業の魅力を付けるポイントとなっていた。その後の長期低迷期には、これら福祉厚生施設は売却されてしまったが再び、脚光を浴びている。時代は、繰返ししている。
『ロイター』(1月27日付)は、「労働需給ひっ迫は『バブル期以上』、サービス価格の上昇明確にー日銀展望全文」と題する記事を掲載した。
(1)「日銀は27日、23~24日の金融政策決定会合で議論した展望リポートの全文の中で、労働需給が均衡する「構造失業率」が3%程度との推計を示し、労働需給のひっ迫度合いは「バブル期より強まっている」と指摘した。その上で、労務費の価格転嫁が期初以外の月でも行われていることに触れ、「サービス価格のトレンドについても、賃金上昇が定着するにつれて上昇トレンドがはっきりしてきている」とした」
構造失業率(自然失業率)とは、雇用のミスマッチや求職・転職で起きる失業率を指している。これは、好不況の景気変動とは関係なく独立して起こるものだ。いわゆる「完全失業率」とは異なる概念だ。日本の構造失業率は、約3%と推計されている。他国と比較して低い水準である。欧州の多くの国々や米国では、構造失業率が日本よりも高い傾向にある。
日本の構造失業率が欧米よりも低い理由は、企業が教育と訓練など労働者のスキルを向上させる努力しており、新しい産業や職種に適応できるようになっていることだ。この構造失業率の低下が、完全失業率を引下げている背景である。
(2)「日銀は、決定会合で政策金利を0.5%に引き上げることを決めた。今年の春闘で「しっかりとした賃上げ」が実現することへの確度の高まりが利上げの1つの決め手になったが、展望リポートでは労働需給、賃金上昇、サービス価格の上昇を巡る分析が展開された。まず、構造失業率が3.0%付近だとする推計を示した。昨年11月の失業率は2.5%で、失業率ギャップのマイナス0.5%ポイントは、バブル期よりもマイナス幅が大きいことが示された」
日本の構造失業率は欧米よりも低いが、昨年11月の失業率は2.5%で、構造失業率よりもマイナス0.5%ポイントと、バブル期よりもマイナス幅が大きくなっている。日本経済は、本来であれば3%失業率でも問題ないが、2.5%と「超完全雇用」状態になっている。これは、40年前の高度経済成長時代を上回る人手不足時代になっているとしている。凄い時代がきたものだ。「日本経済自虐論」など言っていると恥ずかしい状況である。
(3)「労働需給のひっ迫を反映し、コロナ禍以降、一般労働者もパート労働者も名目賃金は上昇率を拡大し、日銀は賃上げの広がりがサービス価格に反映していくのか注視してきた。展望リポートでは、年間を通じたサービス価格の上方改定のタイミングについて、年度ベースの上半期と下半期の期初に当たる4月と10月が多いと指摘。「サービス価格が全般的に上昇していた1990年代前半と同程度の改定頻度となっている」とした。4月・10月に上方改定が多かった年は、ほかの月も上方改定の頻度が高くなっていることが分かるとも述べた」
賃上げは、サービス部門で顕著になっている。賃上げに耐える経営体質になるには、積極的な設備投資によって生産性を引上げることである。TFP(全要素生産性)上昇率と労働生産性上昇率の関係には、正の相関関係がみられ、その傾向は、2000年代以降更に強くなっている。TFP上昇は、技術革新や経営面の効率化、労働者の能力の向上など労働投入や資本投入では説明できないあらゆる生産の増加要因を表している。このことから、TFPの上昇は、労働生産性の上昇にも重要な要素であると指摘されている。日本経済は、こういう総合的な視点で考えることが求められている。
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