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中国のAI企業ディープシークのAI「R1」モデルは、低コスト開発で一時は市場の寵児になったが、早くも疑惑論で調査が始まる騒ぎになっている。オーストラリアのチャーマーズ財務相は29日、ディープシークが開発したAIモデルの使用に注意するよう国民に呼びかける事態となった。チャーマーズ氏は、記者会見で「豪国民にはこの新しいテクノロジーに慎重になることを求めたい」と述べた。米ホワイトハウスのレビット報道官は28日、ディープシークが国家安全保障に与える影響について国家安全保障会議(NSC)が精査していると明らかにした。

『ブルームバーグ』(1月29日付)は、「DeepSeekがオープンAIデータ不正入手か マイクロソフト調査中」と題する記事を掲載した。

マイクロソフトとオープンAIは、中国の人工知能(AI)新興企業DeepSeek(ディープシーク)と関連のあるグループが、オープンAIの技術から出力されたデータを不正な方法で入手したかどうかを調査している。事情に詳しい関係者が明らかにした。

(1)「関係者によると、マイクロソフトのセキュリティー研究者は昨年秋に、ディープシークと関連があるとみられる複数の人物が、オープンAIのアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)を使用して、大量のデータを流出させているのを確認した。機密事項だとして関係者は匿名を条件に話した。ソフトウエア開発者は、APIを使用するためのライセンス料を支払うことで、オープンAIが独自に開発したAIモデルを自社のアプリケーションに統合することができる」

ディープシークが昨秋、オープンAIから大量のデータを流出させていることが確認されている。ソフトウエア開発者が、オープンAIからデータを使用する場合、ライセンス料を支払うことになっている。ディープシークは、これを払わなかったとすれば、「知財窃盗」になる。これならば、低コストでAIモデルを発売できる。

(2)「関係者によると、オープンAIの技術パートナーであり最大の出資者でもあるマイクロソフトが、不審な活動についてオープンAIに通知した。そのような活動は、オープンAIの利用規約に違反する恐れがあるが、取得できるデータの量に関するオープンAIの制限を取り除く目的で行われた可能性があると関係者は述べた」

ディープシークが、オープンAIのデータ大量に流出させていたことが立証されれば、「英雄が一転して犯罪者」になりかねない。豪州財務相が、ディープシークのAIモデル使用に注意を促しているほどだ。

(3)「ディープシークは今月、人間の推論方法を模倣できる新しいオープンソースAIモデル「R1」を発表した。これにより、オープンAIやグーグル、メタ・プラットフォームズなどの米企業が独占してきた市場に衝撃が走った。ディープシークは、R1が数学的タスクや一般知識など、AI業界のさまざまなベンチマークにおいて、米国の大手開発会社の製品と肩を並べるか、それを上回る性能を発揮するとしている。一方、その開発コストは、それらの企業の数分の一で済んだという」

ディープシークは、知財窃盗疑惑が降りかかってくると、信頼問題が大きく揺らぐことになる。「R1」は、オープンAIモデルを「母艦」にしており、受けた質問はオープンAIモデルを使って答えを出していたのだろう。

(4)「トランプ米政権で暗号資産とAIの責任者に起用されたデービッド・サックス氏は28日、ディープシークがオープンAIのモデルのアウトプットを参考に技術を開発した「相当な証拠」があると述べた。オープンAIは、サックス氏のコメントに対応した発表文で、ディープシークに関する部分には直接言及しなかった。オープンAIの広報担当者は「中国を拠点とする企業およびその他の企業が常に、米国のAIをリードしている企業のモデルを模倣しようとしていることをわれわれは知っている」とした上で「AIのトップ企業として知的財産を守るための対策に取り組んでいる。(そのために)米政府と緊密に協力することが極めて重要だと考えている」と説明した」

オープンAIは、中国AI企業が米国モデルを模倣しようとしていることを認識していたとしている。今後は、米国政府と緊密に知的財産を守るための対策を取る、としている。ここまで明かされてくると、ディープシークの「知財窃盗疑惑」は動かせぬ事実になってきた。