ドイツ経済が苦しんでいる。輸出依存経済であるドイツは、中国経済の成長鈍化とともに輸出へブレーキがかかっているのだ。エネルギーコストの急騰と新たな貿易関税の脅威と相まって、将来への見通しは厳しい。ドイツ自動車メーカーと部品製造会社は、数万人の人員削減を発表している。ドイツのGDP世界3位とは名ばかりで、日本の異常円安が生んだ「フロッグ」に過ぎなかった。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月3日付)は、「ドイツの経済モデルは崩壊、代替案『プランB』なし」と題する記事を掲載した。
ドイツのGDPは、新型コロナ流行前の2019年からほぼ横ばいとなっており、これは第2次世界大戦の終結後で最長の停滞だ。ほとんどのエコノミストは今年もこの状態が続くと予想している。最近はこの窮地を救ってきた米国も、救いの手を差し伸べそうにない。ドナルド・トランプ米大統領は、ドイツ最大の輸出市場・米国で一連の関税を課して障壁を高め、世界貿易を混乱させると脅している。
(1)「2月に議会選挙を控えたドイツ国民にとって、これは2000年代半ばに失業率が12%に達した時よりも恐ろしい事態だ(現在の失業率はその約2分の1)。当時のドイツ政府は、労働市場と福祉制度に不人気な改革を実施して人々に仕事を見つけるよう促すと同時に、企業コストを抑えて輸出企業の国際競争力を高め、20年間の堅調な成長への道を開いた。エコノミストらは、現在の危機はさらに深刻だと指摘する。ドイツの輸出依存型経済モデルの根幹そのものを問うているためだ。以前の景気後退時には、中国経済は年率10%前後またはそれ以上で成長しており、商品を吸収し、世界貿易と世界経済をけん引していた。今日、中国経済の成長率はその半分で、世界貿易機関(WTO)の統計によれば、世界の貿易量は停滞している」
ドイツは、輸出依存経済のモデルが根本的に揺らいでいる。代案がないのだ。
(2)「米ピーターソン国際経済研究所のブリュッセル駐在上級研究員、ジェイコブ・キルケガード氏は、ドイツの経済モデルは急成長する輸出市場がなければ「死ぬ」と述べた。しかし、エコノミストたちが必要だと指摘する大きな転換に焦点を当てる政治家はほとんどいない。独保険会社アリアンツのチーフエコノミスト、ルドビグ・スブラン氏は、「(ドイツ人は)問題と向き合おうとしない。まだ一時的なものだと考えており、いつもの方法で段階的に対処できると考えている」と述べた。「これでは十分ではない」と指摘する」
ドイツ経済は、輸出が減れば「死ぬ」運命である。この深刻さが分っていないと指摘されている。
(3)「8300万人の人口を抱えるドイツは、他国が購入したいと望むエンジニアリング製品(自動車、ロボット、列車、工場機械)を製造・輸出することで、世界第3位の経済大国に成長した。今、世界は「メイド・イン・ジャーマニー」に背を向けており、ドイツには代替案である「Bプラン」がない。最近まで、この非常にゆっくりとした経済崩壊の影響は、新聞の社説や経済データの発表に限定され、有権者の生活に目に見える影響はほとんどなかった」
ドイツ経済は、ゆっくりと崩壊過程に向っている。輸出に代わる「柱」がないからだ。
(4)「今年、危機は政治問題に発展した。ほとんどの世論調査で、経済は移民・治安・気候変動を抑えて有権者の最大の関心事となっている。退任するオラフ・ショルツ首相の政権は1949年以来で最も不人気だ。ほとんどの政治家は、現在の輸出依存型で製造業中心の経済モデルを調整し改善することに焦点を当てている。投資と消費を促進し、欧州域内の貿易を活性化し、急成長するハイテクやサービス部門に門戸を開くための新しいアイデアはほとんど見られない」
ドイツには、ハイテク産業がない。ローテク産業であることが、将来性を奪っている。この点で、日本経済は、米国が共同戦略を申し込んでくるほど、半導体を初め技術開発の「種」が豊富である。ドイツは、不動産バブルを引き起さなかった。「堅実さ」の反映であるが、その限界も明らかである。
(5)「デュッセルドルフにあるハインリヒ・ハイネ大学のイェンス・ズデクム教授(経済学)は、「新しい経済モデルを開発しようとする真剣な取り組みは見られない」と述べた。「短期的には、『トランプ氏が関税を課すなら、そこで製造すればいい』といった戦術的な対応に終始している」と指摘する」
ドイツには、新しい経済モデルをつくろうとする取組みがない。保守的なのだ。
(6)「ドイツ経済にとって物品貿易への過度の依存は、数十年にわたりITなどの新分野や国のインフラ投資に障害を設ける一方で、輸出製造業を支援してきた、政府の政策がもたらした結果である。ドイツの雇用の約4分の1は輸出に支えられている。ドイツで生産した自動車の3分の2以上が輸出される。1990年代半ば以降、ドイツGDPに占める輸出割合は2倍になり、GDPの43%(注:正しくは37%)に達し、米国の4倍(注:正しくは5倍)、中国の2倍の水準となっている」
日本の輸出割合は、対GDP比17.05%(2023年)。ドイツは、同37.31%である。ドイツは、EU(欧州連合)諸国へ無関税で輸出できることで、内需よりも輸出へウエイトがかかった。この咎めが現在、ドイツ経済を襲っている。「堅実な」ドイツ経済の限界を露呈している。
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