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トランプ米大統領は、メキシコとカナダへの包括的な関税を発動予定の数時間前に停止した。それぞれ、国境警備隊1万人の増員が条件であり、停止期間は1ヶ月でその間に増員を実現させる思惑である。この「急ブレーキ」で、市場は混乱した。

『フィナンシャル・タイムズ』(2月3日付)は、「米国の対メキシコ・カナダ関税延期 急転換で市場混乱」と題する記事を掲載した。

トランプ米大統領は、メキシコとカナダへの包括的な関税を発動予定の数時間前に停止した。投資家や企業はホワイトハウスの矢継ぎ早の政策発表についていけず、市場は混乱に陥った。トランプ氏はメキシコのシェインバウム大統領、カナダのトルドー首相とそれぞれ個別に電話協議した。その後、米国にとって最大の貿易相手国である2カ国に対して、(4日の予定だった)関税の発動を1カ月間延期することで合意したと発表した。


(1)「シェインバウム氏は3日、同氏が麻薬の密輸に対処するため米国との国境に警備隊1万人を配置すると約束したのを受け、トランプ氏が25%の関税発動を延期したと明らかにした。シェインバウム氏は「敬意のある良い会話だった」と話した。「主権を失うことなく、協力や連携について話した」と述べた。3日の晩、トルドー氏は、トランプ氏がメキシコと同様、カナダに対して関税発動を1カ月間延期することに合意したと述べた。その見返りとして、カナダ政府は国境で働く1万人規模の「最前線要員」を確保することに同意した」

トランプ流「ディール」の真骨頂をみせる振舞であった。高値を吹っかけて、落とし所を探す手法である。25%関税案が、国境警備隊1万人増員で落着だ。

(2)「トランプ氏は1月31日、メキシコ、カナダ、中国に高関税を課すと発表した。1月20日の政権2期目発足後、初の大型の国際経済政策で、保護主義への傾倒により投資家と米同盟国を動揺させた。3日の外国為替市場でメキシコペソは対ドルで一時3%下落したが、関税発動延期が発表されると上昇に転じた。北米全域にサプライチェーン(供給網)を持つ自動車メーカーの株価は大幅に下落した。米ゼネラル・モーターズ(GM)は一時6%下げたが、その後下げ幅を縮小した」

メキシコには、多くの自動車メーカーが進出している。ここへ25%関税をかけられたら、米国の消費者に1台で約3000ドルの負担増と試算されていた。米国も、返り血を浴びることが分っていた。


(3)「トランプ氏は自身のSNSで、メキシコとカナダに対する関税の発動を1カ月延期したと認め、シェインバウム氏と「友好的な会話」をしたと明らかにした。ベッセント米財務長官、ラトニック米商務長官(候補)、ルビオ米国務長官がメキシコ政府高官と貿易と安全保障について協議するとも語った。トランプ氏は「両国の『取引』を達成するため、シェインバウム氏とともに交渉に参加するのを楽しみにしている」と投稿した。トルドー氏は3日午後、トランプ氏と電話で話し、「共同作業を行う間、提案された関税は少なくとも30日間は延期される」とXに投稿した」

トランプ氏自身も、「取引」と明言している。米国には、稀代の大統領が出現したものである。

(4)「カナダは、3月9日に新たな自由党党首が選出される(編集注、トルドー氏は1月に与党・自由党の党首、首相のいずれも辞任する意向を表明した)。1カ月間の関税発動延期は、トルドー氏の最後の数日間にその期限を迎えることとなり、交渉での不確実性は残る。カナダの高官は、同国政府が3日夜に閣議を開き、トランプ氏との合意をどのように実施するかを協議すると述べた」

カナダは3日夜、国境警備隊1万人増員を検討する閣議を早速開いた。25%関税と引き換えであるだけに真剣である。


(5)「トランプ氏は、メキシコとカナダに不法移民と薬物の流入を阻止する策を強化させるため、両国への追加関税が必要だと繰り返し主張している。米企業はこの計画に反発し、米国の物価が上昇してサプライチェーンが混乱することになると指摘している。シェインバウム氏は、トランプ氏との電話会談が約45分間に及んだと述べた。米国から高性能の武器が密輸され、国内の犯罪集団に使われているとのメキシコ側の懸念を伝えたと語った。トランプ氏から武器の密輸阻止への協力を取り付けたとも述べた」

トランプ氏は、メキシコから条件を付けられた。米国からの武器密輸阻止へ協力することで、トランプ氏も認めた。

(6)「シェインバウム氏は、トランプ氏が両国間の貿易赤字にも言及したと明かした。シェインバウム氏は、「トランプ氏に対し、これは実際には赤字ではなく、私たちは貿易協定を締結している貿易パートナーであり、これは貿易パートナーであることの結果だと伝えた。いずれにしろ、両国の関係を維持することが中国や世界の他の地域に伍していくための最善の手段だと説明した」と述べた」

シェインバウム氏は、トランプ氏の主張に対しその弱点を突いた。「米国・カナダ・メキシコの自由貿易協定の結果、米国は貿易赤字になっている。それは、当初から分っていたことである。米国消費者は、3ヶ国自由貿易協定で利益を受けているのだ」という趣旨であろう。トランプ氏は、一本取られた格好だ。