米国のバイデン前大統領時代は、中国の習近平国家主席との間で、両国の緊張を何とか封じ込めてきた。トランプ氏が、ホワイトハウスに戻ったことで、米中関係は脆弱な関係に戻るリスクを孕んでいる。米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏は、米中関係の危うさをこう指摘する。
『日本経済新聞 電子版』(2月5日付)は、「米中紛争は回避できるか」と題するイアン・ブレマー氏の寄稿を掲載した。
米国のバイデン前大統領と中国の習近平国家主席は、両国の緊張を何とか封じ込めてきた。だがトランプ氏が、ホワイトハウスに戻ったことで脆弱な安定は崩れ、最も重要な地政学的な関係が制御不能な形で分離し、世界経済の混乱と危機のリスクが増大するだろう。
(1)「トランプ米大統領は、中国製品へ追加関税導入を表明した。中国に新たな経済合意を迫るだろう。関税率は、同氏が大統領選の期間中に表明していた一律60%には届かない見込みだが、中国からの輸入品に対する平均関税率は、2025年末までに少なくとも2倍の25%前後に達する可能性がある」
米国は、対中関税率引上げで中国の出方を瀬踏みしている。
(2)「一方、中国指導部は第1期トランプ政権時代より強気の対応をする見込みだ。融和的な姿勢は屈辱を容認していると受け取られ、世論が一段と反発すると懸念しているからだ。自称「関税男」の復帰で、実利優先のアプローチに執着する意味があるのかと、中国側が疑問に思っても不思議はない。最も厄介なのは技術政策だ。米国は中国の技術力向上を阻止し、経済成長を遅らせようとしていると中国政府は考えている。トランプ政権は、事実上の禁輸措置対象となるエンティティー・リストに掲載する中国企業を増やし、影響はより幅広い業種に及ぶだろう」
中国の発表した報復策は、小粒なものであった。米国との本格的衝突を避けようとしている。中国経済が弱っているからだ。
(3)「中国が、25年に台湾へ侵攻する懸念は低いが、台湾も米中関係が緊張する要因だ。マルコ・ルビオ国務長官、国家安全保障担当のマイク・ウォルツ大統領補佐官など米国の対中強硬派は、台湾との関係強化を志向し、台湾海峡の平和と安定を後押しする意志を表明するだろう。中国にとっては、越えてはならないレッドラインだ」
中国は、内部に大きな脆弱性を抱えている。米国も、勇んで「戦争したい」とは考えられない。中国のレッドラインは、自らの弱さの証明である。
(4)「中国指導部は、台湾の頼清徳総統をけん制できると考えている。台湾経済は堅調で、頼氏は中国を刺激して支持率を高める必要がない。台湾が、独立を目指す動きに出たり、米首脳が台湾を訪問したりなどすれば、中国は台湾海峡封鎖や離島占領などに動く可能性がある。28年の次期台湾総統選が近づくにつれ、中国は頼氏再選を阻む目的で威圧的な対応を強めるだろう」
台湾が、冒険的行動に出ることは「自殺行為」になる。台湾自体が、痛いほどこの事実を知っているはずだ。独力で、中国に刃向かう軍事力がない状態で、そのようなリスクを賭ける政治家はいない。
(5)「習氏とトランプ氏は、ともに今年は内政を優先させたいはずで、両国関係が危機に陥ることを望んでいない。習氏は、経済の減速や社会不安の増大、軍高官の処分が続く異例の事態に直面している。トランプ氏は、株式相場の低迷を招くような問題を避け、自身の統率力への信頼を高めるのに役立つディールをまとめたいと考えるだろう。だが、両国が関係強化で合意できる基盤はない。中国の台頭は米国に不都合だからだ。トランプ氏が対中圧力強化を決め、中国経済が停滞するなか、中国指導部は逆方向に動くはずだ」
中国の台頭が、米国にとって不都合であることは、2015年以来の懸案事項である。そのリスクが、急激に高まる客観的は理由がないのだ。中国経済は、破綻に向っている。こういう中で、習氏が「乾坤一擲」の大勝負に出るほど、習氏に「度胸」があるとは思えない。政敵潰しの実状を見ていると、極めて「小心的」振舞にみえる。自らの運命を賭けた、大勝負に出るタイプではない。
(6)「今後の米中関係には、不確定要素が2つある。トランプ氏自身と、新たに側近に加わったイーロン・マスク氏だ。トランプ氏は習氏と個人的によい関係を築こうとする可能性がある。マスク氏は、中国で多数の商業的利権を持ち優れた仲介者になる可能性もある。これらより、米中を逆の方向に追いやる力のほうが格段に強い」
イーロン・マスク氏については、政権内で「独断専行」が多いことからトランプ氏側近から疎遠にされ始めている。トランプ氏の執務室に近い部屋も与えられない状態だ。トラプ氏も政権内の軋轢を感じており、マスク氏の決定事項には、すべて大統領承認が必要とまで発言している。これは、マスク氏への「牽制」だ。となれば、「マスク・リスク」は杞憂に終る。
(7)「米中関係が破綻すれば、影響は世界に広がる。日本や韓国、メキシコ、欧州連合(EU)など米国の同盟国や貿易相手は、安全保障分野では米中のどちらにつくか選択を迫られる場面が増え、高いコスト負担を余儀なくされるだろう。北京とワシントンからの初期のシグナルは、紛争回避が困難になりつつあることを示している」
米中関係破綻は即、「開戦」を予測させる。中国に現在、そういう準備があるとは思えない。中国を過大評価しているように思える。
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