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対ドルの円相場は、6日の東京市場で一時1ドル=151円台へ上昇した。2024年12月以来およそ2ヶ月ぶりの円高・ドル安水準をつけた。1日1円ペースで円高が進む背景には、追加利上げを模索する日銀の本気度が市場へ影響している。

日銀の田村直樹審議委員は6日、松本市で開いた金融経済懇談会で「中立金利は最低でも1%程度だろう」「2025年度後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが必要だ」と発言した。これが、市場を刺激して「円買い」へ向わせたものだ。

『ロイター』(2月6日付)は、「物価目標は25年度後半に実現、少なくとも1%程度まで利上げ必要―田村委員」と題する記事を掲載した。

日銀の田村直樹審議委員は6日、さまざまな不確実性はあるものの、中小企業まで含めた賃上げの実績を確認できる2025年度後半には、物価目標が「実現したと判断できる状況に至る」との見通しを示した。


(1)「田村委員は、中立金利が「最低でも1%程度」と改めて述べた。物価目標が、実現する25年度後半には「少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成する上で必要だ」と語った。田村委員は、昨年12月の金融政策決定会合で利上げ支持を表明するなど、政策委員の中で最もタカ派的な委員と見られている」

中立金利とは、経済実態へ影響を与えない金利水準を指す。その中立金利が、「最低でも1%程度」と発言している。日本経済の実態が、そこまで回復しているという意味である。植田総裁は、経済の現状をインフレと認識している以上、中立金利が「最低1%」とみているのであろう。

(2)「0.75%への利上げのタイミングについては「適切に判断してまいりたい」と述べるにとどめた。「政策金利を0.75%に引き上げたとしても、引き続き実質金利は大幅にマイナスであり、経済を引き締める水準にはまだ距離がある」とした。田村委員は物価の上振れリスクを強調した。企業の価格転嫁の状況や、人手不足を反映した人件費の上昇とその価格転嫁の動きを踏まえると、物価の「上振れリスクが膨らんできている」と述べた。物価上振れリスクがある中で短期金利が経済・物価に対して中立的な水準を下回っていると「物価をさらに押し上げてしまう」と警戒感を示した。日銀短観や日銀の「生活意識アンケート調査」を基に、「企業や家計の予想物価上昇率はしっかりと高まっており、おおむね2%程度の水準に達している」と指摘した」

中立金利が最低1%であれば、政策金利が同じレベルへ引上げられるのは当然のこと。日銀は、極めて冷静である。この裏には、これまでの日銀発言による「円安誘発」を自戒しているに違いない。発言一つで、円相場が動くことを実感させられたからだ。円安是正には、景気への強気発言が必要なのだ。


(3)「需給ギャップの日銀の推計値で、マイナス圏推移が続いている理由は、「設備がフル稼働していないのは必ずしも需要が不足しているからではなく、人手不足によって十分に設備を稼働させられないという側面も大きい」と指摘した。「需給の逼迫度合いは業種によって差はあるが、マクロ的な需給ギャップは既に実態的にはプラスの領域にあり、供給力不足が物価に上昇圧力をかけている状況にあるのではないか」と述べた。このほか、2%物価目標については「2.0%という数値にこだわるのではなく『緩やかな上昇』の範囲にある限り、その背後にあるメカニズムが物価安定目標と整合しているかを見ていくべきだ」と話した」

ここは、専門的な話だがこういう内容だ。設備がフル稼働していないことで、需給ギャップはマイナスである、だが、需要不足が原因でなく、人手不足でフル稼働できない悩みを指摘している。日本経済が、こういう事態である以上、今後とも人手不足による賃上げが不可避である。2%物価目標は弾力的にみるべきで、人手不足の賃上げをもたらすメカニズムを理解すべきとしている。

(4)「田村委員は後半で、昨年12月に取りまとめた過去四半世紀にわたる経済や物価、金融政策運営を振り返る「多角的レビュー」について、持論を展開。13年以降の大規模な金融緩和が「全体としてみればプラスの影響をもたらした」と言い切ることはできないのではないか、と述べた。大規模緩和の長期化も一因となってビジネスの新陳代謝が進まず、生産性が低迷したとして「供給サイドに対して大きな副作用があった可能性が高い」と指摘した。大規模緩和の副作用が遅れて出てくる可能性に関連して、過度な円安の進展や都心住宅価格の高騰などが「今後、経済や国民生活にどのような影響を与えていくかといった点も、丁寧にフォローしていく必要がある」と述べた」

13年以降の大規模な金融緩和の副作用が、22年以降の異常円安を招いたとしている。これは、低利の円を借りて投資する「円キャリートレード」を膨脹させた理由だ。円相場が、まだ150円台を付けている理由もこれだ。円キャリートレードは、未だどのくらい残っているか、誰にも分らないほど。それだけに「円キャリ巻き戻し」は長期に及び、円相場が長い円高の道に入るという推論を可能にさせている。