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6日の東京市場では、対ドルの円相場は一時1ドル=151円台にまで上昇した。3日間の円上昇幅は3円強に達する。円高が、1日1円のペースで進んでいることに「異変」を感じないとすれば、嗅覚が鈍ってきたと言われかねない状況である。

「三題噺」に喩えると、次のような事態に目を配らなければならない。
1)2024年の米国貿易赤字は、モノの取引で1兆2117億ドル(約180兆円)と過去最大を更新した。
2)米財務省は5日、ベッセント米財務長官と日銀の植田和男総裁が電話協議したと発表した。ベッセント氏は「植田総裁とマクロ経済や金融の優先課題を共有し、緊密かつ生産的に協力していくことを期待している」と公表文に記した。
3)トランプ米大統領は6日、米鉄鋼大手USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)と面会した。会談内容は明らかになっていない。バイデン前大統領が中止を命じた日鉄による買収計画について、話し合った可能性もある。


これらの3つの「現象」は、バラバラに動いているようにみえるが、その「底」を流れているものは、米国が日本へ協力を求め始めているという「動機」である。そこで、前記3点をみて行きたい。

1)トランプ政権は、米国の貿易赤字を減らすことを経済政策で最大の目標に上げている。だが、24年の貿易赤字はトランプ氏が大統領選中に、自らを「関税男」と称して同盟国へも一律の関税を課すと言い続けていた。これが、米国へ繰上げ輸出させたもの。トランプ氏にも責任があるのだ。いずれにしても、異常なドル高が招いた現象であることは間違いない。

米国は、ドル高を調整しなければならない。それには、米国が利下げしてドル高を調整すれば良いが、国内の消費者物価上昇率が未だ高いことからから、それも叶わない状況である。米国のこうした「行き詰まり状況」を解決するには、日本が利上げして行くことだ。日米金利差を縮小させれば、一方的なドル高を是正できる。


2)米財務省は5日、ベッセント米財務長官と日銀の植田和男総裁が電話協議したと発表した。ベッセント氏は、植田氏と面識がある関係とされている。だが、米財務長官の公式相手は、日本の加藤財務大臣である。ベッセント氏は、加藤氏へ電話せずに植田総裁へ電話し、わざわざ公式発表までしている。これは、政策意図を持っている証拠だ。つまり、日銀へ利上げしてくれるように暗に促し、ドル高円安基調を和らげようという狙いとみるべきだろう。

これまでの植田総裁は、「学者出身」らしく学会発表スタイルの記者会見をしてきた。それが、どれだけ円安を促進したか分らないのだ。ところが、最近は、すっかり「行政マン」として振る舞っている。国会でも、「現在の物価はインフレ的」とまで言い切った。これによって、市場は次回利上げが早いと警戒し始めている。ここが重要なのだ。市場の意識を日銀へ引きつけておき、円高を進める条件にすることである。


3)2月7日(現地時間)、日米首脳会談が開催される。テーマは安全保障と経済である。安全保障は、日米が協力してインド太平洋の安全保障を確実なものにすることだ。経済は、日米協力を確実にする。すでに、AIと半導体の協力では、事前合意がされており、共同発表に盛り込まれる。もう一つの課題が、日鉄のUSスチール合併問題である。

バイデン前政権が、労組の支持を得るために合併を拒否した。トランプ政権は、「米国第一主義」である。米国内の投資を増やしてくれる企業は、外国企業でも大歓迎する姿勢をみせている。こういう視点で日鉄・USスチールの合併問題を見直すと、日鉄が大規模投資する可能性が注目点になってきた。

トランプ氏は6日、米鉄鋼大手USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)と面会した。これは、重要なポイントである。USスチールの投資計画を確認して、7日の石破首相との会談に臨む意思なのだ。バイデン前政権が、合併阻止に動いたのは労組支持を得るだけでなく、日鉄が過去に中国で高炉立上げに協力したことを問題視していた。そこで、トランプ氏は石破氏にこの点の確認を求めるのではないか。


米国は、これから通貨政策で日本へ協力を求めなければならない立場になっている。日本もこれを真っ正面から受けて異常円安是正に取り組まなければならない。円安による輸入物価上昇を防ぎ、国民生活を豊かにしなければならない局面だ。石破政権にとっても、日米通貨協力は「願ったり叶ったり」であろう。

黒田東彦前日本銀行総裁は6日、都内での講演で日本経済が「完全に復活した」との認識を示した。日銀が、現在進めている金融政策の正常化については「極めて当然のこと」と述べたのである。黒田氏は日銀の政策について、一部のエコノミストから拙速な金利引き上げに伴う悪影響について懸念が出ていることに触れた上で、「そういうことはないのではないか」と否定的な見方を示したほどだ。

日本経済が「健康体」になった以上、円高に耐えられる体質になっている。今回の日米首脳会談は、そうしたエポックになる可能性を秘めている。