トランプ米大統領が、中国の貿易慣行への批判を続けている。通商専門家は、米国の中国に対する恒久的正常貿易関係(最恵国待遇=PNTR)の適用が撤廃される可能性が高まったとの見方を示している。実現した場合、中国の輸入品に対する関税が平均61%に上昇する可能性がある。中国経済に、大きなダメージになる。米議会は、2000年に中国とのPNTRを承認し2001年、中国の世界貿易機関(WTO)加盟に道を開いた。
『ロイター』(2月7日付)は、「中国への最恵国待遇、米議会による撤回に現実味か トランプ氏意向受け」と題する記事を掲載した。
トランプ氏が、就任初日の1月20日に出した大統領令は、中国とのPNTRを念頭に見直しの法整備を行うよう商務長官と通商代表に指示していた。PNTRは、一般的には米国が貿易相手国に関税を課すことを抑える役割を果たす。
(1)「2000年にPNTRが中国に適用され、中国から米国への輸出に大きく門戸を開いた。中国へのPNTRを廃止した場合には、米国に輸入される中国製品への関税が自動的に跳ね上がり、トランプ氏が中国に課してきた税率をはるかに上回る可能性がある。
トランプ氏は「最初の一撃」と称して中国からの輸入品に10%の追加関税を課し、中国は米国への報復関税導入を発表した。トランプ氏は中国からの輸入品に最大60%の関税を課すと脅している」
中国経済が大きく発展できたチャンスは、米国がPNTR(最恵国待遇)を与えたことにある。米国の対中PNTR承認は、米国が中国をいかに厚遇したかを示している。中国は、これを逆手にとって米国覇権を狙うことに利用した。この怒りが、米国中に広がっている。
(2)「ジョン・ムーレナー下院議員(共和党)とトム・スオジ下院議員(民主党)は1月、中国に対する最恵国待遇を定めたPNTRを撤回する「公正な貿易復活」法案を超党派で提出した。この法案は、中国からの輸入品の一部に対する関税を5年間で35~100%に引き上げる内容だ。上院にも同内容の法案が出されている。第1次トランプ政権以降、中国との貿易関係が不公正だと反発する声が高まる中で、中国に対するPNTR指定の撤廃を求める複数の法案が議会に提出されたが、これまでは議会での可決に十分な票を集めることができなかった」
米下院では、中国に対する最恵国待遇を定めたPNTRを撤回する「公正な貿易復活」法案を超党派で提出したところだ。
(3)「通商専門家7人によると、民主党と共和党の両党議員の間で法案への支持が広がっており、PNTR撤廃法案が可決される可能性が高まっている。戦略国際問題研究所のジム・ルイス上級副所長は、中国が世界の貿易ルールに従わないため「(PNTRを適用する)意味がなくなっており、廃止に年々近づいている」と指摘。「トランプ氏は、中国とどのような取引ができるかを見極めようとしており、全てが選択肢になるだろう」との見方を示した。下院歳入委員会のジェイソン・スミス委員長(共和党)も、中国のような国が米国人を「だます」ことを許してきた米国の「悪い」貿易政策を見直すように呼びかけている」
PNTR撤廃法案は、可決される可能性が高まっている。
(4)「1人のビジネスコンサルタントと2人の弁護士によると、彼らの顧客企業は中国へのPNTRが取り消されるリスクへの備えを始めている。これに対応するため、顧客企業はサプライチェーン(供給網)を中国から移し、外国人従業員を本国へ戻し、中国への新規投資を控え、関税引き上げに伴うコストを他の当事者に転嫁できるように供給網の契約を再交渉していると明らかにした」
米国企業は、中国へのPNTR撤廃に備えた動きを始めている。
(5)「中国へのPNTRが、撤廃された場合の影響は大きい。オックスフォード・エコノミクスのエコノミストらが貿易団体の米中経済協議会(USCBC)のために作成した報告書によると、燃料を除く中国から米国への輸出品はいずれも、たとえ米系企業が中国で製造した場合であっても関税が現在の19%から平均61%へ跳ね上がる。23年11月に発表された報告書は、中国へのPNTR撤廃は米国の国内総生産(GDP)を5年間で最大1兆9000億ドル押し下げ、米国で80万1000人の雇用を減らす可能性があると警告した」
中国へのPNTR撤廃になれば、中国のGDPは1~2%ポイントの低下が見込まれている。米国GDPも最大1兆9000億ドル押下げるという。23年の実質GDPは、27兆3600億ドルだから、年率6.9%の落込みである。米国も無傷ではない。トランプ氏は、「肉を切らせて骨を断つ」戦略なのか。
(6)「USCBCは4日、中国が世界貿易機関(WTO)の義務や20年に米国と結んだ「第1段階の通商合意」で米国からの輸入を2000億ドル増やす取り決めを中国が果たしていないにしても、「PNTRを撤廃しようとする動きを支持しない」とコメントした。その上でPNTR撤廃は「目の前の課題に取り組むのに適した手段ではない」とし、「米国には中国の行動を変える他の手段がある」と訴えた。トランプ氏は既に、PNTRを撤廃せずに中国に関税を課す他の手段があることを示している」
米中経済協議会(USCBC)は、PNTRを撤廃せずに中国に関税を課す他の手段があると指摘する。PNTRという骨格を残して、関税率だけ引上げるといもの。PNTRは米中をつなぐ最後の象徴的な存在として残すべきというのであろう。
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