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習近平中国国家主席は、ロシアのウクライナ侵攻(22年2月)が始まって1週間ほど、外部に姿をみせなかった。その直前、北京冬期五輪開会式へ出席したプーチン・ロシア大統領が、習氏へ開戦を臭わせなかったのだ。それだけに、大きなショックを受けたとされる。1週間、習氏は幹部会議で対応策を練っていたとされる。間もなく、あれから満3年を迎える。習氏は、中国が台湾侵攻した場合に西側からどのような経済制裁を受けるか。じっとロシアの「耐乏生活」をみながら、「学習」しているとされる。

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月7日付)は、「瀬戸際のロシア経済を注視する中国」と題する寄稿を掲載した。筆者は、米ハドソン研究所のシニアフェロー、トーマス・J・デュスターベルク氏である。

中国の習近平国家主席は、約3年間続いているロシアによるウクライナ侵攻を注視してきた。習氏は「親愛なる友人」であるウラジーミル・プーチン氏に先端技術を提供し、ロシア経済の下支えを手助けしている。また習氏は西側諸国の制裁に対するロシアの耐久力を見極めようとしている。習氏は中国が台湾の独立を押しつぶした場合に、西側諸国が中国をどのように罰しようとするかについて、手掛かりを探っている。


(1)「プーチン氏は、ロシア経済が順調だと述べているが、実際はそうではない。徴兵や軍事物資の増産、労働年齢の男性の大量流出による影響が重なって、人手不足が生じ、賃金が上昇し、国防産業の力が弱まっている。政府が公表しているインフレ率は10%だが、大半のエコノミストはもっと高いと考えている。大都市の家賃は中間層の住民の大半にとって、手が届かないほど高くなっている。民間のローン金利は21%で、さらに上がると見込まれており、ロシア企業の財務の健全性を損なっている。銀行は、軍事関連企業には市場金利を下回る金利で、ほぼ無制限の信用を供与するようロシア政府から求められており、そのことによって苦しんでいる。政府は社会保障費を削って戦争関連のニーズを満たしている。通貨ルーブルは極めて不安定だ」

ロシアでは、民間のローン金利が21%で、さらに上がりそうだという。これほどの高金利を払える層は限られる。経済は、窒息状況に陥っている。金利が、何よりのバロメーターなのだ。

(2)「米国が先導している制裁措置は、西側諸国から資金を調達する能力をロシアから奪っている。2023年と2024年にはルーブル債の入札が何度か失敗に終わった。このことは、ロシアの銀行とオリガルヒ(新興財閥)が、苦しい状況のロシア政府が発行する債券の購入にますます消極的になっていることを示している。10年物国債の利回りは急騰している。戦争開始以降、国債の発行残高は35%減少している。中国も自国の銀行への制裁を恐れ、次第にロシアの戦時国債の購入に慎重になってきている。中国はドル建て金融システムへのアクセスを失うことを望んでいない」

ロシアは、戦時国債で資金を調達している。借金で戦争しているのだ。不健全の極みである。ウクライナ戦争開始以降、国債の発行残高は35%減少している。買い手がいないのだ。中国もロシア戦時国債から手を引き始めた。西側の経済制裁を恐れている。


(3)「ロシアに残された唯一の資金源は、国民福祉基金(NWF)と石油・ガス輸出収入だ。NWFは、現在必要な経費を支払うために保有資産の取り崩しを余儀なくされている。戦争が始まる前、NWFには海外で保有する約3000億ドル(約45兆4800億円)分の外貨準備があったが、現在は凍結されている。また、戦争前は国内の保有資産が約3000億ドル相当あったが、その3分の2は引き出されている。このペースで行くと、いつでも使えるこの準備金は2025年のどこかの時点で底を突くだろう」

ロシアは、石油・ガス輸出収入を国民福祉基金(NWF)として積み立ててきた。このNWFは戦争以降に取り崩されており、25年中には底をつくという。こうなると、戦争継続の資金が途切れる。

(4)「戦争が始まって以降、ロシアは石油輸出の90%を中国とインドに振り向けているが、両国の港湾は、銀行や他の企業への制裁を恐れて、荷受けを拒否し始めている。北欧諸国も手を引きつつある。最後までロシアから欧州にガスを輸送していたパイプラインは、2024年末に閉鎖された。新たにアクセスできる資金源がない中、プーチン氏は予算面の苦境に対応するための適切な選択肢がほとんどない。彼は紙幣を増刷することもできるが、それはハイパーインフレにつながる可能性がある。増税に踏み切ることも可能だが、社会不安を招きかねない。すでにストレスを感じているロシア国民は、これら二つの選択肢の両方に反対する姿勢を示唆している」

プーチン氏は、予算面からみて最大のピンチに立たされている。すでに、適切な資金調達の手段がほとんどなくなってきたからだ。


(5)「中国は、電気自動車(EV)などの消費者向け製品の対ロ輸出を拡大するなど、ロシア経済を支える上で可能な策を講じてきた。しかし、中国の複数の銀行は、ロシアの軍事物資調達に便宜を図ったとして制裁対象になっている。中国の経済も不振に陥っている。こうした制裁が強化されれば、西側諸国との対立をいとわない中国当局の姿勢が、試練にさらされるかもしれない」

中国の複数銀行は、すでにロシアの軍事物資調達に便宜を図ったとして制裁対象になっている。これ以上に制裁銀行を出すわけにはいかないのだ。中国の経済事態も、不振に陥っている。中国は、ロシアへ肩入れする余裕を失っている。

(6)「ドナルド・トランプ米大統領は最近、プーチン氏がウクライナで早期の和平合意に応じなければ、対ロ追加制裁を科すと警告した。プーチン氏は、この脅しを真剣に受け止める必要がある。苦境にあえぐロシア経済が、崩壊の瀬戸際にあるからだ。もう一段の厳しい制裁が適用されれば、ロシア経済は本当の危機に陥るかもしれない。そうなれば、習氏が教訓のメッセージを受け取ることは間違いない。彼は、中国が台湾に対して武力行使に踏み切った場合の代償の大きさについて、考えざるを得なくなるだろう」

ロシア経済は開戦3年で、崩壊の瀬戸際にある。習氏は、この状況を目の当たりにして、個人の名誉欲にかられた開戦が、どんな結末をもたらすか身にしみているに違いない。