フランスのマクロン大統領は2月24日、ウクライナとロシア間の停戦が数週間以内に合意される可能性があると述べた。ホワイトハウスで、トランプ米大統領と会談した後にFOXニュースのインタビューで明らかにした。ロシアにとって、米国による和平交渉斡旋が渡りに船である。
ロシア経済は、破綻の一歩手前まで追込まれている。政策金利は21%、軍需支出が国家予算の3分の1に達している。今年1月の財政赤字は、前年の14倍にもなった。スタッグフレーションへの道が、待っていたのである。プーチン大統領は、夜も眠れなかったであろう。「盟友」トランプ氏が、プーチン氏へ助け船を出したのである。
『ロイター』(2月25日付)は、「苦境のロシア経済、トランプ米大統領の早期終戦案は助け船か」と題する記事を掲載した。
ロシア経済はウクライナ戦争の膨大な軍事支出で過熱状態だが、深刻な冷え込みに転じる瀬戸際にある。大規模な景気刺激策や金利の急上昇、インフレの高止まり、そして西側諸国による経済制裁の影響が浸透しつつあるからだ。それだけに、戦争の早期終結を目指すトランプ米大統領の方針はロシアにとって助け船になりそうだ。
(1)「トランプ政権は、対ロシア交渉でウクライナや欧州の同盟国を除外し、侵攻の責任をウクライナに負わせるなど政治的にロシア寄りの姿勢を取っている。米国のこうした動きについて、元ロシア中央銀行副総裁のオレグ・ビューギン氏は、ロシアが2つの望ましくない選択肢に直面する中で起きていると分析。ロシアはウクライナ戦向けの軍事支出の拡大を中止するか、あるいは支出を拡大し続けてその代償として何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受するか、二者択一を迫られている。いずれの道も政治的リスクを伴うと指摘した」
ロシア経済は、危機の分かれ道にある。このまま続けば今後、何年にもわたる低成長、高インフレ、生活水準の悪化を甘受する最悪状態へ向うところだった。
(2)「財政支出は通常、経済成長を促進する。ロシアでは、民間部門を犠牲にする形でミサイル向け支出という、新しい価値創出につながらない軍事支出で経済が過熱し、中央銀行の政策金利は21%にまで達して企業の設備投資が鈍り、インフレは抑制できていない。ビューギン氏は、「ロシアは経済的な観点から外交的手段による戦争終結に向けた交渉に関心を持っている。これこそスタグフレーションを避ける唯一の方法だ」と話した。ロシアが国家予算の3分の1を占める軍事費をただちに減らすことはないだろう。しかし、和平合意の可能性が浮上すれば経済への圧迫が弱まり、制裁の解除や、最終的には西側企業の復帰につながることもあり得る」
ロシアは、和平交渉が始まらなければ、スタグフレーションへ突入する瀬戸際であった。トランプ氏の和平交渉斡旋は、「神の声」にも等しいグッドタイミングであった。
(3)「ロシアが軍需生産向けの支出を一夜にして止めることには消極的だろう。不況の発生を恐れているし、軍の立て直しが不可欠だからだ。ただ、兵士を一部復員させることで労働市場への圧力を多少なりとも和らげることができるだろう」と、欧州政策分析センター(CEPA)のアレクサンダー・コリアンドル氏は予想した。ロシアは徴兵や戦闘忌避の国外移住で深刻な労働力不足が発生し、失業率は過去最低の2.3%となっている。コリアンドル氏は和平の可能性が高まれば米国が中国などの企業に対する二次制裁を強める可能性が下がり、輸入がスムーズになり、その結果物価も下がる可能性があると見ている」
ロシアは一時的に、軍需費削減は困難である。大不況の発生が不可避であるからだ。ただ、兵士の帰還で労働力不足は緩和の方向に向う。
(4)「ロシア市場には既に好転の兆しが現れており、21日には制裁緩和の期待からルーブル相場が対ドルで約6カ月ぶりの高値を付けた。中銀のナビウリナ総裁は、政策金利を21%に据え置いた14日の会合で、長期にわたり需要の伸びが生産能力を上回っているため、成長は自然に減速していると説明した。経済成長を促しつつインフレを抑制するという中銀の課題は、大規模な財政刺激策によって複雑になっている。政府が2025年の財政支出を前倒したことで1月の財政赤字は1兆7000億ルーブル(192億1000万ドル)と前年比で14倍に膨らんだ」
今年1月の財政赤字は、前年比で14倍にも膨らんだ。これこそ、ロシアがもはや継戦不可能な事態へ向っている証拠だ。
(5)「多くの企業は、高金利にあえいでいる。「現在の貸出金利では新たな開発プロジェクトを立ち上げるのは困難だ。内部資料によると、ロシアが直面する主な経済リスクとして原油価格の下落、財政面の制約、企業の不良債権の増加などが挙げられている。また、トランプ氏はウクライナ問題で譲歩の可能性を示唆する「アメ」をぶら下げる一方、合意が成立しなければ追加制裁を科すと「ムチ」もちらつかせている。マクロアドバイザリーの最高経営責任者(CEO)クリス・ウィーファー氏は、「米国は経済的に大きな影響力を持っている。だからロシア側も交渉の席につくことを望んでいる」とロシアの立場を解説。「米国はこう言っているのだ。『協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる』と」
ロシア企業は、21%という高金利に苦しんでいる。トランプ氏は、こうしたロシア経済の苦境を知っており、「和平へ協力するなら制裁を緩和できるが、応じなければ状況をさらに悪化させることもできる」と迫っているのだ。ロシアは、トランプ氏の言うことを聞くほかない事態へ追込まれている。
コメント
商人は、自分だけにベストな商取引などできる筈もなく、ベター達成が最善の結果でしょう。トランプ氏は、相手との巧みな交渉で落とし処を見付ける習慣が身についているのだと思います。
国家間の話でも、一国だけに有利な結論は後遺症が大きくなる懸念があり、落とし処は別なところに必ず見つかるはずです。そういう意味で、理想論(現実には的外れな話)ばかりを掲げる政治屋より、現実的な結論を出してくれるのではないかと期待しています。
トランプ氏の一つひとつの言動にとらわれることなく、これからの交渉で何処に落とし処を見付けだすのか、ある意味で楽しみです。
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