中国全人代が、5日から開催されている。世間の耳目は、25年の経済成長率に集まっている。習近平国家主席は、全人代の直前に中国共産党指導部の「集団学習会」で重点課題にあげたのは、なんと「不況からの脱出」でなく、「国家政権の安全維持」であった。共産党指導部にとって目下、最も注意を払うべきは経済問題でないことを証明した。共産党政権の安全・安定維持だけが、最大の課題になっている。驚くべき国民不在の問題認識である。
『日本経済新聞 電子版』(3月5日付)は、「不穏な中国全人代 注目の『脱不況』は最重点にあらず」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の編集委員である中沢克二氏だ。
5日、中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が開幕した。内外の視線は、中国政府の打ち出す経済対策の一点に注がれている。だが、全人代開幕前の最後となる2月28日の党政治局メンバーが大集合する会議では、「国家政権の安全維持」がテーマに取り上げられた。共産党指導部にとって目下、最も注意を払うべきは経済でないのだ。国家政権の安全・安定であった。国民の暮しよりも、自分たち党幹部の安全策を議論していたのだ。
(1)「共産党指導部は中国内の深刻な不況に関して、今とりうる手段で短期的に目を見張るような急回復が望めないことを十分に認識している。住宅・不動産市場の歴史的なバブル崩壊をきっかけとする経済悪化は、この10年から15年にわたる極めて大きな政策的判断ミスなどが複雑に重なり合った結果でもある。短期的な回復が望めない以上、ドタバタ騒ぐのは得策ではない。悪化する地方財政への支援策など最悪の事態を防ぐ基本的な政策的手当てをした後、しばらくは様子を見るしかない。最大の問題点は、経済が受けた傷が癒えるまでの期間がかなり長くなるという不都合な真実である」
習近平氏は、すでに景気回復を諦めている。それよりも、共産党政権の安泰第一の政策が優先される。すなわち、国内の引締め政策だ。典型的な、権威主義国家のやり口である。
(2)「中国政府が発表する最近の経済成長率に関する数字については、外国からばかりではなく、中国内の著名な経済専門家、アナリストらからも疑問視する声が次々あがっている。簡単にいえば「少なくとも『水増し分』として数%ほど割り引いて考える必要がある」という内容だ。中国当局は、インターネット上から好ましくない説明を懸命に削除しているが、既に多くの一般庶民が知るところとなっている。住宅・不動産バブル崩壊を主とする痛手の治癒に相当な年数が必要だとすれば、その長い不穏な期間、中国指導部にとっての最重要課題は何か。それが国家政権の安全という論理になる」
経済が不安定になれば、社会が不安定化する。共産党への批判起こりがちになる。それを上からの権力で押さえつける政策強化だ。
(3)「国家の政治安全を守り抜くことを第1(最重点課題)とし、国家の政権安全を断固として維持せよ」。共産党総書記で国家主席の習近平は集団学習会で発破をかけた。かなりの危機意識の表明といってよい。言い回しも、聞き慣れている「政治安全」「政権安全」の前にあえて「国家」を付け足した。国家の政治安全、そして国家の政権安全とは、もっとかみ砕いていえば何を意味するのか。まず、国家の政治安全は、中国共産党が指導する国家の政治上の分裂、共産党思想とは別のイデオロギーの浸透を防ぎ、安定的な政治を実現することだ」
国家の政治安全とは、中国共産党が指導する国家の政治上の分裂、共産党思想とは別のイデオロギーの浸透を防ぎ、安定的な政治を実現することである。権威主義の徹底化である。
(4)「国家の政権安全は、さらに具体的になる。中国共産党が担う国家政権が転覆、破壊に追い込まれないようあらゆる措置をとるという意味だ。内部の敵対勢力による転覆だけではなく、外部からの干渉による政変なども想定する。現状は、すなわち習政権の擁護を意味する。これら国家安全を総括する考え方は、中国では「総体国家安全観(統合的な国家安全観)」と呼ばれる。習政権は、1期目の14年に早くも総体国家安全観を打ち出した。当時は誰も想定できなかった長期政権に向けた足場づくりにも最大限、利用した。共産党内の抵抗勢力へのけん制、権力集中に向けた手段としても有効だった」
総体国家安全観こそ、中国共産党が最も重視する「掟」である。権力を失ってはならないという主旨である。
(5)「総体国家安全観が、政治局集団学習会のメインテーマにあがったのは5年ぶりだ。22年の共産党大会以降では初めてである。表の全人代では経済問題などを重点的に論議し、景気浮揚に向けた方策を示すとするが、その裏でいったい何が起きているのか。カギを握るのは、集団学習会で掲げられた「中国の平安」という言い回しだ。平たく言えば、治安対策の格段の強化で安心・安全な中国社会を維持するということになる。習政権は、今後も国家政権の安全を最重点課題として掲げざるをえない。2年後の27年には次期共産党大会がある。それまでの2年以内に経済が急回復する道筋を描けないなら、最悪の事態だけは避ける方策こそ肝要になる。それは2年後に習がトップとして続投する布石であり、環境づくりにもなる」
総体国家安全観が取り上げられる背景には、習氏の「4選」が前提にある。総体国家安全観を維持できるのは、習近平氏一人という前提を自らつくっているのだ。


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