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戦後の日本農政は、コメの余剰問題に悩まされてきたが、需給構造に根本的な変化が起こっている。農家の高齢化と跡継ぎなし問題が、コメ供給不足を招くというのだ。日本人の胃は米食向きに細長いとされるが、これからは「パン」が主食の位置を占めるのか。「瑞穂国」日本が、コメ不足とは異常事態だ。AI(人工知能)が、解決策を導く。

今年秋に収穫されるコメについてJA全農にいがた(新潟市)が、農家からの買い取り価格を前年から3割強引き上げることを決めた。背景にあるのはコメ価格の先高観だ。農林水産省は3日、3月10日からの政府備蓄米の放出に関する入札概要を公表したが、価格抑制効果は乏しい。最大産地でプライスリーダーである新潟県の姿勢は他産地に波及し、店頭価格などを押し上げるとの見方が強い。『日本経済新聞 電子版』(3月3日付)が報じた。

『日本経済新聞 電子版』(3月10日付)は、「コメ不足は終わらない『農家は高齢化』後継者なし」と題する記事を掲載した。

米価の高騰による混乱が続いている。家計の圧迫を訴える消費者の声に背中を押されるように、政府は備蓄していたコメの放出を決めた。だが稲作は高齢農家の大量リタイアという構造問題を抱えている。政策を抜本的に改めなければ、コメが頻繁に足りなくなる懸念がある。


(1)「長引く米価の上昇にはいくつかの背景がある。きっかけは2023年の猛暑。コメは高温障害で白濁したり、精米したとき割れやすくなったりする。その結果、24年になると一部の業者がコメを手に入れにくくなり、米価が上昇。夏にはスーパーの棚からコメがなくなり、混乱が一気に広がった。農林水産省は新米が出回る秋には相場が落ち着くとみていた。だが予想は外れ、米価はさらに上がった。品薄になるのを心配した卸会社が多めに仕入れていることが原因とみられる。販売が途切れないようにするためだ」

2020年の農業センサスによると、7割以上の農業経営体は後継者を確保していないと回答している。また、農業就業者の高齢化も進行しており、若い世代の農業参入が求められている。日本農政は、長いこと企業の農業参入を拒否していたが、こういう時代遅れの「農家保護主義」が、今日の米不足をもたらした遠因である。

政府は現在、企業の農地取得を認めるなどの対策を講じている。例えば、農地所有適格法人制度を活用して、企業が農地を取得しやすくする取り組みが進められている。また、国家戦略特区などを活用して、特定の地域で法人の農地取得を促進する事例もある。今回のコメ不足をきっかけに増産体制が議論されるに違いない。


(2)「先行きにも懸念が漂う。農家の多くは24年の収穫量は思われているほど多くなかったと話す。害虫や台風の被害など原因は様々にある。政府は備蓄米の放出を決めたが、このままでは昨年と同様、コメが店頭から姿を消すと予想する声が少なくない。農家が一様に指摘するのがコメの生産力が揺らいでいることだ。足元では米価の高騰ばかり話題になっているが、長期的に見ればコメの値段はずっと下がり続けてきた。食生活が変化し、消費が減ったことが背景にある」

農家は、「コメ作り」で利益の出ない時代が長く続いてきた。これが、現在の「コメ不足」を生んだ理由である。食糧自給率を上げることは、国家としての基本政策である。日本は、この面で抜かりがあった。

(3)「長引く米価の低迷で収益が圧迫され、稲作農家が減り続けている。いまや個人農家の約6割が70歳以上。その多くは後継者がおらず、誰も耕さないまま田んぼが荒れる可能性が高まっている。農政は半世紀あまりの間、コメ余りへの対処が中心になっていた。時代は変わり、コメ不足をいかに防ぐかが課題になる公算が大きい」

AI(人工知能)を使った農作業実験が始まっている。東京のオフィスから指示して、無人のトラクターを動かす実験が行われている。ドローンやIoTセンサーなどの先端技術を活用することで、コメの生産効率を大幅に向上させることが可能である。例えば、病害虫の早期発見や、最適な肥料の施用タイミングを把握するためのデータをリアルタイムで収集することが可能とされる。


(4)「米価高騰のきっかけとなった2023年の猛暑で被害が目立ったのがコシヒカリ。とくに米所の新潟では粒が白濁するなどして1等米が大きく減り、暑さに弱いことが浮き彫りになった。高温耐性のある品種として知られているのが「新之助」や「にじのきらめき」など。米価を安定させるには、猛暑に負けない品種を増やすことが重要になる」

異常気象に合わせた品種改良が求められる。

(5)「農林水産省は生産調整を通してコメの値段と供給を安定させようとしてきた。だがコメの生産が不安定になる中で、需要と供給をバランスさせることが難しくなっている。これから重点を置くべきなのは余剰ではなく、不足への対応。東北や北陸など増産余力のある地域でもっとコメを作るとともに、政府の備蓄を増やすことが課題になる」

日本のコメ作りは、新たな時代を迎える。発想転換という言葉が、今ほど農業に求められる時代はない。